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The Body25we've got the lost(02)

The Body25we've got the lost(02)



彼は二人を送って戻って来た。黙って抱き寄せられキスされた。


「有難う」


「あたしも。でも、サクラちゃんは難しそうね」


貴方は少し笑って言う。


「そう思う?でも、逆なんだよ」


「えっ?」


「サクラは自分でじっくりと考えて結論を出す。だからそれがYesなら、誰にも左右される事のないYesなのさ。無論五分五分であるのは間違いないけどね」


「じゃぁ、カノンちゃんは?」


「母親次第かな。彼女がどういう反応をするか、それによって変わると思う。そしてそれだけは私にも見えない。気分屋の彼女の状態次第だから」


「そっかぁ……最悪二人共、NOかもしれないのね」


「あぁ」


「あまり悩んでないみたい?」


「あぁ、だって始めちまったんだ。止める事は出来ない。止めちまったら、私は廃人同然になるしかない。ムスメ達の為なら、それでもイイとは思うけどね」


「イヤよ。あたしも同じよ」


「だろ!?だったら止める訳にはいかないのさ」


「それって、あたしのせいってこと?」


「イヤ!運命って奴のせいさ」


思わず吹き出して抱き付いた。


「何もかも運命のせいなの?」


「イイや、都合の悪い事だけが運命のせいだよ」


「それってワガママァ!」


「そうしてもいいんだろ?」


いたずらっ子の目、キライだな、でもスキよ!


「うん」




程なくしてサクラちゃんからメールが来た、と言って貴方が携帯を見せて呉れた。


『チチ、抵抗はあります。イヤだよ。でもね、チチの愛したヒトなんだよね。それなら、あたしはその人をよく知りたいと思うの。ハハは勝手なヒトだって言ってる。勝手だとサクラも思う。でも、チチの事嫌いじゃないよ。だから時々愛さんと会います。その上で答えを出すわ。イイでしょ?』


「良かった……。カノンちゃんは?」


「どうかな、多分この様子だと少し戸惑ってるかな。ま、サクラと会うとなれば、アイツはついて来るさ」


「分かったわ。妹かァ。ふふっ、舞、羨ましがるだろうなぁ……そうだ。舞も誘ってみようっと」


「おいおい、舞君を巻き込むのかい?」

「うん。だってぇ、話を聞き付けたら絶対自分からしゃしゃり出て来るに決まってるもん」


「まったく……」


苦笑する貴方を他所目に、あたしは暫くの間、舞とサクラ・カノン姉妹を交えた若草物語を空想しながら楽しんだ。


案の定、舞は話を聞くと、誘う迄もなく連れて行けと駄々をこねた。

そして実際に会うなり、カノンちゃんと舞は気があい、流行りの歌や服やらの話で盛り上がった。少し年代層が違うから、好みや知識に微妙なズレはあるのだけれど、舞は一所懸命にカノンちゃんに話をあわせようとするし、カノンちゃんはカノンちゃんで、少し背伸びをして舞の感覚にも合わせようとした。


サクラちゃんは、大人しくそんな二人をじっと見てる。


「サクラちゃんは何が好きなの?」


「うーん、本読んだり、絵を描いたり……」


「ふーん。そうなんだ。んね、今度サクラちゃんの描いた絵を見てみたいなぁ」


「イイよ。今度、持って来るね」


少し嬉しそうにする。


「うん。約束だね」


「ウン!」


他愛も無い指切り。少しでも距離が縮まってるといいな。


「サクラちゃんは、どんな本を読むのかなぁ?」


聞いていると、流石にまだ子供向けの本が多いものの結構な量を読んで居るのが分かる。粗筋や感想を夢中になって喋る。急に不安な顔をして訊く。


「ゴメンなさい。夢中になっちゃった。詰まんないでしょ?」


「うぅうん。そんな事は無いわ。でもスゴく沢山読んでるんだね、あたし驚いちゃったな」


「うん。学校の図書室の本は殆ど読んじゃった。時々市の図書館にも行くんだけど、難しい本が多いの」


「そうね。市の図書館じゃ、大人のヒトも利用するからどうしてもそうなっちゃうわよね。でも背伸びしてみるのも大事よ。難しくて今は分からなくても何時か分かる時が来るわ。その時、あァあれはこういう事だったんだって。本以外にもそういう事って一杯あるの。後で気付くんだけど、それが運命みたいな事ってあるのよ」


「ふーん。チチもそんな事言ってたな……」


心なしか、眼が煌めいていた。きれいな眼。


「それって……チチの事?」


不意打だぁ、ズルイよ!


「うん。そう、出会った時は分からなかったんだ。時が経つに連れて心の中で大きな存在になってしまっていたの。そして、ある日、突然気が付くの。あ、このヒトだ!このヒトを愛する為に生まれて、育って、今ここに居るんだ、って。あ、ゴメン。あたしが夢中になっちゃった」


「うぅうん。なんとなくだけど、分かるような気がする」


「そう、そうだね、色んな本を読んでるサクラちゃんには分かるのかもしれないね……。そうだ、今度あたしの読んだ本を持って来るわ。サクラちゃんなら、読んだのもあるかもしれないけど」


「ウン!じゃぁ、絵を見せるのと交換っこだね!」


嬉しそうに、本当に嬉しそうにするサクラちゃん。


「ゴメンね。貴方達のパパの事」


ちょっと淋し気に言ってしまった。


「仕方無いよ、だって、運命、でしょ?」


いたずらっ子の眼差しと笑顔。やっぱり貴方の子なんだね。




カノンちゃんと舞は、すっかり意気投合してしまい、今度原宿に行く事になっていた。あたし達も行くらしい。当然の顔付きの二人。服を買うって……ならお金が要る。


悩んだ結果、彼に相談する。彼は暫し考え、電話をした。難しそうな顔で話をしていたが、やがて表情を和らげる。


「じゃぁ、スマナイがそうさせて貰うよ。あぁ、送り迎えはする。責任は持つ。あぁ、あぁ、有難う。それじゃ」


電話を切った貴方は、あたしにOKサインを出して片眼を瞑った。


「良かった……」


日曜日の原宿は若い子達で一杯だ。お財布代わりの貴方が、しかめっ面をして黙ってついてくるのが可笑しい。サクラちゃんに耳打ちする。振り返って貴方を見ると彼女も可笑しそうにクスクスと可愛らしく笑った。


舞とカノンちゃんは、店に入ると、トッカエヒッカエ、あぁでも無いこうでも無いと店をひっくり返す勢いで見て回っては、大量に試着室に持ち込む。その日、名うての原宿のショップは、まるで台風一過の思いだったに違い無い。お気の毒様……。


でも荒らし回ったその割に、二人が選んだのは、それぞれ2着ずつの夏物とバッグにサンダルだけだった。それでも彼の散財は大層な額だったと思うけど……。一応遠慮したみたい。一応ね。サクラちゃんは、洋服はイイと言ったが、途中で見かけた画材屋さんで、画材を少しネダッタ。多分、お母さんへの遠慮なのかな。母親って自分のセンスで選んだ服を着せたがるから……。ママもそうだったものね。それでも嬉しそうにシッカリと買って貰った画材を抱きしめていた。


そんなサクラちゃんをじぃっと愛おしそうに貴方は見ている。


ふーん……カノンちゃんは、人前を気にする事なく、舞にじゃれつき、あたしの手を握り、貴方に抱きつく。サクラちゃんには、少しだけ張り合う様に素っ気無い。でもサクラちゃんの言うことには黙って従うのも、不思議だった。


サクラちゃんはムスメ、カノンちゃんは女の子、なんか貴方のふたりへの接し方を見てるとそんな違いを感じる。独りっ子のあたしには分からない違いがあるのかな。


あたしはお気に入りの店で、自分とサクラちゃんの夏物のカーディガンを求めた。サクラちゃんに渡すと、ちょっと戸惑いながらも嬉しそうにして受け取って、画材と一緒にしっかりと抱き締めた。やっぱり女の子、なんだな。


「吉見さん、今日はありがとうございました。服まで買って貰っちゃってママに叱られちゃうなぁ、きっと」


「そんなことは無いさ。ムスメ達に付き合って貰ってこちらこそ助かったよ。愛もセンスはいいんだが、流行のファッションとかになると怪しいから」


「もう!どうせそうですよ」


皆笑う中、サクラちゃん一人硬い表情。ハッと気がついた。あたしを呼び捨てにしたからだ。なんて敏感な子なんだろう。


「サクラ」


貴方は、優しく声を掛け、頭をそっと撫ぜた。サクラちゃんは、無理に笑って貴方を見上げた。貴方の優しい眼がそのサクラちゃんを見詰める。カノンちゃんがそんな二人に寄り添っていく。そんな二人を抱きしめる貴方……。


「親子ねぇ……」


そっとつぶやく舞にあたしも頷く。


「さってとぉ、あたしも帰ってママに甘えてやろうかなっと!じゃ、またね。カノンちゃん、サクラちゃんも、また会おうね!」


舞は笑顔で手を降ると雑踏にあたし達を置いて駅に向かった。見送ったあたし達は彼の声に促され、駐車場に足を向けた。


クルマに乗り込む前にサクラちゃんが振り返るとあたしを見て言った。


「愛さん……あの、チチをお願いします。ワガママで自分勝手でどうしようもないヒトですけど、宜しくお願いします」


思わず溢れ出す涙を堪えながら、抱きしめて言った。


「うん。ありがとう、ありがとう……」


車の中でも、はしゃぐカノンちゃん。それをあやすサクラちゃん。暫くすると二人は頭を寄せ合って眠ってしまった。

二人を送り届け、貴方と二人だけの車中は、少しだけ寂しく、でも、ほっこりとした空気がある。


「ねぇ、サクラちゃんとカノンちゃんて、面白い姉妹ね、正反対で反発してるかと思うと、くっつき合って、あたしって独りっ子だから、よく分からないんだけど、不思議な感じがするな」


「割り切りが早いのはカノンだろ。で、サクラは優柔不断に見える。慎重と言えるんだが、決して計算はしてはいないんだ、感覚的で、鋭く思わぬ所にスパッと切り込んで来て怖いよ。女の子だから、私には分からないのかもしれないんだが……。ま、付き合えば色々と見えて来る」


「そうね……」


訊きたいことがあったけど、まだ早いかな、と思っていた。




次に会った時、サクラちゃんに本を渡し、描いた絵を見せて貰った。


「上手ねぇ!」


本音だった。漫画チックではあるけど、表情とか動物キャラの仕草とか、生き生きしてる。そういうと、ちょっと自慢げに、そして嬉しそうに、でも、はにかむように俯いた。


「もっと上手いヒトはいるよ」


「そうねぇ。でも雰囲気がイイよ。これは独特だと思うな。なんとなく、お父さんの持ってる感性に似ている気がする」


サクラちゃんは、ちょっと複雑な表情をする。


「あ、ゴメン。嫌なこと言っちゃったかな?」


「うぅうん、そんなことは無い……」


「そう、あ、本なんだけど、どれもちょっと前のベストセラーなのね。軽目のエンタメ作品ばかりだから、読めないことはないと思うよ。サクラちゃんなら特にね。ちょっと重いかもしれないけど、良かったら、持って帰って読んでみてね」


「うん、全部読んでない本だよ。ありがとう」


「読んだら感想を聞かせてね」


「うん」


サクラちゃんは、本を膝に置くと、少し黙り込んだ。


「さっき、愛さん……」


「なぁに?」


「うん。さっき愛さん、あたしがチチに似てるって」


「うん。言ったよ。気になったらゴメンね」


「うぅうん。そうじゃないの。あたしも愛さんに似てる人知ってるの」


「えっ?」


「あのぉ」


「言って」


「うん。名前は知らないの。ただレイさんって、チチが言ってた」


「それは……」


「知ってるの?」


「あたしのママなの」


「えっ、じゃぁ……」


「似てる?」


「うん。ごめんなさい」


「サクラちゃんが謝る必要はないし、あたしは嬉しいのよ」


「うん。でも……」


「ねっ、ママ、どういう人だった?サクラちゃんはどう思ったの?聞かせて欲しいな」


「うん。すごくあったかい人。ぬくもりの塊のような人だった。チチも……好きだったと思う人」


「そう……そう……」


あたしは泣いていた。サクラちゃんは、そんなあたしを抱き締めた。


「ありがと……」


サクラちゃんに抱き締められて一頻り泣いた後、居間に戻る。

舞とカノンは舞が持ち込んだファッション誌のチェックに余念がない。


「まるで仲のイイ姉妹ね!」


「うーん、ね、カノン!あたしを今度から、お姉ちゃんて呼んでイイよ!」


「えぇっ?そんなぁ……どうしよっかなぁ」


言葉とは裏腹にニコニコしながら、舞を焦らすカノンちゃんは、天性の甘えん坊さんだね。でも、本当は自分もそう呼びたくてウズウズしてるのよね。舞が焦らされるなんて、滅多にない見物だな。


「うーん。じゃぁ、舞お姉ちゃんね」


舞ったら、もうでれでれしちゃって。どっちがお姉さんなんだか。

そんな様子を眺めていたサクラちゃんが、オズオズと、


「愛さんのこと……」


えっ?


「愛お姉さんって呼んでもイイ?」


えっ!


「ダメ?」


不安げに揺れる眼差し。思わずギュッと抱きしめる。


「勿論よ!ダメな訳ないじゃない!」


サクラちゃんもシッカリと抱きついてくれた。


ノックの音。この幸せを手放すのが惜しくて、そのまま返事をする。


「入るよ。オヤオヤ」


貴方は苦笑気味に、


「そろそろお昼はどうだろ?」


「ハーイ!」


スパゲッティに四人とも目を見張り、それぞれ目を交わし合う。

一口口にするサクラちゃん。


「ハハの作るのと同じだけど……味はちょっと違うね」


「美味しくなかったかな?」


あたしと舞は、どぎまぎしながら、サクラちゃんの次の言葉を待つ。多分、貴方にはそれ以上にツライ時間だったよね。


「うぅうん。美味しい」


ニッコリと笑ったサクラちゃん。


「ね、カノンもそう思うでしょ!?」


「うん、違うけど美味しい」


こちらは天真爛漫なニッコニッコ顔だ。

貴方もホッとした表情で、


「良かった……」


やっぱりムスメって偉大ね。



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