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The Body23I'm no good without you

The Body23I'm no good without you



「あぁ、吉見さん、スミマセン」


「やぁ、お久し振り。それにしても災難だったね」


「イヤァ、正直、参りました。来られた時から既にかなりお召しになられているようで、まぁ時々はあることですからね、いつも通りの対応をさせて戴いてたのですが……」


「うーん。まぁ、あの状態の彼女じゃァ誰しも手を焼くよ、じゃ、腹を括って女王様にご挨拶して来るか」


「スミマセン。お願いします」


軽く頷いて店の奥のソファー席に向かった。そこにはボトルに手を当て、突っ伏している彼女が居た。


「コンバンハ、随分とご機嫌なようだけど、ご一緒してもイイかな?」


「フン、ヨシミかぁ!若い彼女と同棲してて、あたしにかまってる暇なんかないんでしょ!サッサとカエンナサイヨォ」


「仰る通りなんだけどね、銀座にメスライオンが現れたと聞いては、そうもしてられなくてさ」


「フン、哀れなメスライオンをわざわざ見に来たってわけね」


「そういうこと。銀座にライオンは何頭か居ても、メスのライオンは珍しいからね」


「好きにすればイイ。哀れなメスライオンを見て笑えばイイわよ!」


そっと近寄ったマスターに、


「何時もの、ボトルで。後は勝手にやるから」


マスターがボトルやグラスを手に近付き、そっと告げる。


「店を閉めました」


「済まないね」


「イエ。雨ですし、もう今夜はお客さんはいらっしゃらないでしょうから構いません。裏の鍵をカウンターに置いて行きますので、出られる時はそちらから出て下さい。電気を消して、鍵は郵便受けの中に入れておいて下されば結構です」


「分かった。有難う」


マスターが出て行き、鍵が閉められた。

哀れなメスライオンは、いきなり涙を流し始めた。


「あなたのことだから、知ってるんでしょ……?」


「あぁ、君らしくも無いやり方で仕事を取ったって事は噂で耳にした」


「そうよ!身体で獲ったのよ!なりふり構わずね。ウチの会社じゃムリだって、あたしにできるはずがないって言われてた。だから、無理なのは分かってた。でも引き下がるのは悔しかった。イヤらしい大っ嫌いなタイプだったわ。でも抱かれた」


「で、今になって出来ないとでも言うのかな?」


「何言ってるの!そんな事言えるわけ無いじゃない!」


「じゃ何を荒れてるのかな?」


「だって、だって……」


大声で泣き始めた彼女を放っておく。暫く彼女は泣いていたが、やがて声は小さく、すすり泣きになっていた。


「あたしにはムリかもしれない……」


小さく呟いた。


「らしくないな。無茶も無理も散々に通して来たんじゃないか」


「でも、今回だけは……」


「そうかな。ただ私にもこれだけは言えるな。今の君にはムリだ!」


最後のセリフは叩きつけた。

メスライオンはムックリと頭を擡げ、瞳を煌めかせ言った。


「言ったわね、キッチリやってみせるわよ!見てらっしゃい!」


私は黙って笑いながら、彼女を見詰める。


「あっ、のせられちゃったぁ。もうかなわないな、吉見英司には」


「さ、帰ろう」


「ウン……やっぱりイヤァ、抱いて!」


「そいつは君の台詞じゃないね。君なら、やり遂げた後、私を振り返って言うはずだよ。但し、命令系で、だな」


「そうね」


少女のような笑顔になると続けた。


「その時試してみるわ」


「あぁ、楽しみに待とう。ともかく仕事の方は相談には乗るよ。但し、行き詰まる前に相談して呉れよ。そうでないと、こちらもお手上げするのは勘弁だぞ」


「そうするわ」


「じゃぁ、帰ろうか」


「えぇ……送って呉れる?」


「あぁ、その前に電話させて貰うよ」


「どうぞ!」


君は背を向け後ろ手でバッグをブラブラさせ始めた。いつか見た光景、それはデジャヴュではなかった。私の中で微かに胸が傷んだ時、携帯が繋がり、愛の無邪気な声が私の胸の痛みを拭った。


「もしもし」


「あっ、愛かい、今、舞君のお母さんと一緒に飲んでたんだが、これから送って、戻るよ」


「えっ、舞君がウチに来てるって?そっか、じゃぁウチに連れて行くか……。あぁ、じゃぁそうしよう。あぁうん、俺は呑んでいないから大丈夫だよ。分かった、じゃ」


携帯を切って彼女を見る。


「へェ、呼び捨てなんだ。そう、そうなっちゃったんだね。悔しいな。二度目よ。しかも親子に連敗だなんて……」


「もう起きた事さ。君の口から、そんなボヤきは聞きたくないな」


「ふーんだ」


今日の君はまるであの頃のレイのように少女のようだ。


タクシーに乗ったら、彼に抱き付き、しっかりと胸に顔を埋めてやった。苦笑するのが分かるけど、でもどうしようもないの。これ位ナニヨ!

髪の毛を撫ぜてくれる。憶えのある優しい仕草、そして時折くしゃくしゃと掻き回すの。変わらないなぁ……いつもコレで誤魔化されるのよねぇ。

タクシーが彼の家につくと、引き剥がされる前に身を起こし、しゃんとして、くちゃくちゃにされた髪を直すと家に入った。


不安そうな二人の顔にちょっとだけ優越感。何事もなかったように振舞う貴方は憎らしいけど。


「あら、賢一君も来てたのね」


「えェ、相談があって来たんですけど、愛さんと話をしたら、諭されちゃったかな、って感じでお暇しようと思ってたとこなんです」


「せっかく来たのに、悪いから話をするだけなら少しは付き合うが、一緒に飲むかい?」


「いいんですか?」


「あぁ、但し、帰りはタクシーだ」


「はいっ!無論です」


もう、欲しかったプレゼントか大好きなオヤツを前にした子供みたいにして。


「よし」


と言いながら、彼があたしの方を振り返ったので、承諾の代わりにキッチンに行って準備をする。舞ママは舞に抱えられるようにしてお風呂に入ると、お先に休ませて貰うと言った。


「ウチはいつから合宿所になったのやら……」


苦笑いしながら呟く貴方。


「愛も同席して呉れるかい?」


「はい!」


賢一さんが話をするのを聞き終えると貴方は言った。


「愛の言う通りだ。ただね、小さく育って欲しくないんだよ。

君の真摯な姿勢には何時も感心している。ただ、それ故小さく纏まり易いんじゃないだろうか。色んな世界を見て来るといいんじゃないかな。きっと君を魅了して止まない世界がある。それが私の住む世界だったとしたら、喜んで歓迎しよう」


「有難うございます。そう言って頂けて嬉しいです。卒業したら、アメリカにでも行ってみようかな」


「それもイイね。舞君のお母さんは語学が達者だ。いい先生も知っているだろうから、頼んでみるとイイ」


「ハイッ、そうします」


舞が一人で戻って来た。


暫くして賢一さんは今日は帰ると言った。舞は名残惜しそうにはしたが、見送って戻って来ると、座る間も惜しむように切り出した。


「吉見さん、今日、ママ、何かあったんですよね。聞いてもイイですか?イエ、教えて!」


「うーん。困ったな。ちょっと君のお母さんのプライバシー、というか、プライド、いや違うな、そう、オンナの沽券に関わるような内容なんだ」


「吉見さんと何かあったんですか」


一番気になってる事を舞は、少し焦れるように聞く。


「いや、それはない」


「うーん、信じたいんだけど、吉見さんって大人だからなぁー」


「大人は信用出来ないかな?」


「まぁ必ずしもそうは言わないけど、大人だからこそつくウソってあるじゃないですか」


いつになく突っ込み続ける舞。


「誰かを傷つけないため?」


「うぅうん、違うわ、表向きはそうかもしれないけど、結局は自分を守るためだったりするもの」


「うーん」


天井を見上げる貴方。聞きたい。知りたい。でもあたし、怖いよ!舞。舞は怖くないの?舞も青ざめていたが、真剣な眼差しで貴方の顔を見詰めている。

そんな舞をじっと見据えるとあたしの顔もみ、もう一度舞を見詰めて言った。


「困ったな。何も言わず黙って信じて欲しいんだが、勘の鋭い君ならそのウチ知ってしまうだろうね」


沈黙。


「分かった。話そう。但し、二人共約束だ。一切、そして死ぬまで他言は無用だ。彼女に気取られてもいけない。もし他で聞く事があっても、そんな事は無い、たとえ彼女の前であっても、そう言い切って欲しい。イイかい?」


「はい」


怖かった。でも知りたいという気持ちの方が優った。それから始まった話に一切の脚色はなく、彼の知っている事だけが話されたようだ。


仕事をどうやって獲ったかという件は流石に聞くに耐えなかったが、淡々とした彼の口調に少しだけ救われる気がしたのは、舞も同じらしかった。


「それで?話を聞いて貰って落ち着いたんですか?」


貴方は苦笑してかなわないなという顔で続けた。


「そうだね。今日の君のママはか弱い少女のようだったね。泣きじゃくって、タクシーの中では抱きつかれてしまったよ。髪を撫ぜるだけで許して貰えたのは奇跡かもしれないな」


「ほんと?本当にそれだけですか?」


舞のその質問は、あたしの叫びたい程の問い掛けでもあった。穏やかに微笑むと貴方は頷いた。


「そう。本当にそれだけだ」


「そう。可哀想なママ。なんでそんな無茶を……」


一旦開きかけた口を閉じ、貴方は何も言わずに黙って穏やかに微笑んでいた。

そして立ち上がり、二人の頭に手をやると、そっと撫ぜ、あたしたちに告げた。


「以上だ」


「分かりました。信じます」


「うん、極めて困難な仕事を取った。その仕事の内容で苦しんでいる。それだけが真実だ」


舞はキッパリとした表情で力強く肯いた。無論あたしも。

そして舞はママの所へ、あたしは彼と。


その夜、あたしは彼に積極的に挑み掛かり、求め、見果てぬ頂きを目指した。飽くことなく。


翌朝何事もなかったように朝食を摂りながら談笑をする舞ママはやっぱり大人だった。それに比べると舞の表情は少し硬いよ。そして多分あたしも。


それから数ヶ月が経ち、舞ママが舞と一緒にやって来た。


「お蔭様で無事終わったわ。今日はそのお礼と愛ちゃんのバースデイのお祝いを兼ねて、伺ったの」


「それはご丁寧に、悼みいります」


大人の会話を済ませると二人は顔を見合わせ、吹き出した。二人共肩の力が抜けている。いい感じ、うぅうん、いい感じ過ぎて何故か不安。

その複合パティー?は穏やかに楽しく過ぎて行った。

お酒が入り始めると舞が、


「ねェ、愛、部屋に行ってイイ?話があるんだ」


「イイけど……」


舞は立ち上がり、あたしの手を取って強引に連れて上がった。部屋に入り、ドアを閉めるといきなり拝むようにして言った。


「愛、ゴメン、今日だけ目を瞑って!」


「えっ?どういう……」


聞かなくても分かっていた。


「ママを、うぅうん、吉見さんを信じて!一線は絶対に超えない。だから、今日だけ目を瞑って欲しいの!もし一線を超えるようなことがあれば、あたしの命を上げてもイイ!」


黙り込んでしまったあたしを必至の舞の目が潤みながら見詰めてた。


「舞、分かったわ。命は大げさよ、ね。音楽でも聴こっ!」


「うん。ありがと、愛、ゴメンね」




「英司さん」


「うん?」


あたしはぶつかるように抱き付いた。


「このままでイイから……少しだけこのままで居させて」


長いような短いような時が流れた。涙ぐむあたしの唇に彼の指が触れ、優しく撫ぜ、そして唇が触れた。撫ぜるようなバードキス。

唇を離すと、


「おめでとう!よく頑張った……」


優しく見詰めて抱き寄せた。そして憶えのある仕草で髪の毛を撫ぜ回した。


「えぇ」


ここまでね。これ以上求めれば、永遠に失うことになる。それが、貴方との長い付き合いで知った貴方のルールよね。

最初は寂しかったけれど、私も若かったってことかも。今はだから、安心して甘えられる気がする。自分から身体を放し、グラスに手を伸ばす。


「乾杯して!」


貴方は黙ってグラスを差し出す。


「もう、どこまでも意地が悪いんだから……」


チェリオ!


心の中で呟き、グラスを合わせる。


でも、ありがと


優しい指先が目元に近付き、流れる涙をそっと拭って呉れる。ムリに笑う。


「ムスメ達を呼んで来るわ!」


化粧を直して階段を上がる。流れてくるのは、恋の歌。


やだ、また泣きそうになるじゃない。


舞達は向かい合いながら、黙りこくって座っていた。


「もう、若い女の子がしんみりしちゃって!」


舞ママが笑って立っていた。でも泣いた後は歴然。叶なかったの?心の中の呟きはホッとしたような、せつないような。


「ママ!早かったわね?」


「あら、なかなか降りてこないから迎えに来て上げたのよ」


舞は、抱き付いて行った。


「もう、いつまでも甘ったれて」


そっと耳に口を寄せて言った言葉は、有難うね、大丈夫よ、だった。あたしは駆け下り、彼の背中に抱き付いて行く。


「おいおい」


呆れるような彼の声。ほんのりと舞ママのトワレが香る。あたしの向きを変え、正面から見つめる彼。


「キスだけだ。信じて呉れるかな」


あたしは何度も何度も頷いた。


「こんな思いをするのはイヤだな」


呟くあたしを抱きしめていう。


「今日だけだよ、二度と無い」


「ウン」


いつのまにか舞が降りて来ていた。


「愛、吉見さん、ゴメンなさい。ママも今日だけだって言ってたから、あたしが二度とさせないから許して上げて……」


背を向けたままこっくりと頷くあたしに舞が抱き付いて来た。


「ゴメンね、ゴメンね」


舞も泣きじゃくり始めた。暫くそのままにしていた彼が、呟く様に言う。


「そろそろ放して貰ってもいいんじゃ無いかと思うんだがいかがなもんだろ?」


ハッとする二人。同時に離れて思わず笑い合う。彼も笑いながら、グラスを手に取り一口呷った。


舞ママとその事務所は、その仕事の結果によって建築デザインの世界の中で、名を馳せることになった。


例の噂はなかなか消えはしなかったけれど、大事な席には舞も同席し、持ち前の明るいキャラで、周りのモヤモヤを消してった。それに彼も影日向で、それとなく相手を牽制して沈黙を守らせたらしい、これは舞からの情報。




はてさて、銀座には何頭のライオンさんがいらっしゃるのでしょうか?少なくとも小生は雌のライオンさんを見掛けた記憶がありません。


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