The Body22Adore driving cars
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雨の夜だった。
夕食の支度をして待ってたのに、彼から遅くなるので先に済ませておくようにとメールが来た。
詰まらなくて舞にメールしたら、
直ぐに舞から電話が掛かって来た。
「ママも遅くなるみたいなのよねぇ、愛のとこ、行ってイイかな?」
「モチよ!」
「じゃぁ、新婚家庭にお邪魔しますかねぇ」
と憎まれグチをきいて電話を切った。
全く相変わらずだわ!
程なくクルマの音がして舞が来たのが分かった。
舞もあたしも免許を取っていた。時々、彼を先生がわりにして実地教習も二人で重ねて来た。口うるさくは無いが、勉強の時とは異なって、随分と怖い先生だった。ちょっとでもあたし達が危ない運転をすると、平気でハンドブレーキを引くんだもん。そして、運転を変わるの。運転し出すと直ぐに同じ状況を作り出し、どうすれば良かったかをしてみせ、また運転を変わる。
流石の舞もその時だけは、無駄口をきかない。
「肩の力は抜いてイイんだよ」
そんな事言われたって無茶!
でも、そのお陰で二人共直ぐに運転がうまくなった。舞の彼氏の運転の方が下手に見える位で、舞から苦情を山のように聞かされる彼氏はちょっと気の毒。
彼は、吉見さんに運転を教わりたいと言ってきた事があった。懇願するように頼まれ、貴方に紹介すると、その場で二人はドライブに行ってしまい、あたし達は置き去りにされてしまった。帰って来た彼氏は興奮していた。
吉見さんに勧められるまま、自分のクルマのメーカーが主催しているドライビングスクールに通い始めた。上級まで進むと、流石に舞も口を出さなくなったけど、吉見さんとの腕の差はまだ感じられた。本人も分かっているらしく、四人でドライブするような時は、吉見さんに運転して欲しいと頼むのが常だ。
疲れたと言って吉見さんは時々彼氏に運転をさせるけど、あたし達が違和感を感じるような運転をしてしまうと、即座に路側帯に止めさせ、選手交代する。
例の如く同じ状況を作り出し、あたし達の時とは違い、君の運転はこうだ、とやや大げさに真似て見せ、それから、こういう運転の仕方がある、と言って自分の流儀の運転をしてみせる。
舞が、
「あたし達の時とは違ーう、依怙贔屓だぁ!」
と抗議すると、貴方は苦笑し、
「彼はお姫様を乗せて走るナイトだ。キチンとした走りを覚えるべきだが、君達のは手習いでイイ。但し、危険の無いように体で覚えてもらわないとね。だからこそ、彼はドライビングスクールでみっちりと基礎を学んで来たんだ。それ以上はプラスアルファだ。自分で考え、自分で選べばイイ。これは私のお節介さ。だから強制はしないんだ。分かるかな?」
「そりゃぁ分かるけど、ヤッパズルいなぁ。ねぇ、愛ー」
「うーん、ゴメン、舞、あたしは吉見さんに賛成だな。賢一さんの運転は確かに違和感はあるけど、それは吉見さんの運転に慣れているからだと思うの。危険だと言う訳じゃぁないもの」
「もう夫唱婦随なのぉ?!気分わるぅ!」
三人は苦笑するしかなかった。
「ただね、賢一くん」
「ハイッ!」
「経験することは大事だが、路面の状況は常に変わっている。自分の運転や慣れている道だと過信しない事」
「ハイッ!」
「クルマの状態、同乗者や周囲の状況、神経を張り巡らせて、緊張してはいけないが、でも身の回りに漂う空気を感じる感性は常に覚醒させておかないといけないよ」
「ハイッ!」
「そうすれば事故やアクシデントがあっても最少限度の被害で済ませられることが多い。
無傷で済ませられればそれに越したことは無いんだが、なかなかそうはいかないものだからね」
「ハイッ、十分注意します!」
もうすっかり、賢一さんにとってはお師匠さんね。
イイなぁー、男同士って。
「あの、一つ伺ってイイですか?」
「あぁ、なんだい?」
「乗ってらっしゃるの随分古いクルマですよね?」
「あぁ」
「何か特別な理由は、あるんですか?」
「デザインが好きなだけ、だな。それが何か?」
「イエ、新しいクルマに乗れば、もっと早いんだろうなって……」
「うーん、それはどうかな」
「違うんですか?」
「私なんかが、今のクルマに乗ったら、勝手が違って、突散らかるんじゃないか?ABSやら何やら、コンピュータが色々やって呉れる。それも人間がやるより、遥かに速く的確に、だ。ブレーキなんか、ドンと踏付ければイイ。勿論、ヒトがやる領域は、それでも残っているから楽しめない訳ではないし、大概はアシストを切る事もできるけど、折角の新しいクルマがそれじゃぁ勿体無いだろう。
まぁ、酒と同じだね。古い酒は古い樽に、新しい酒は新しい樽に、って所かな」
「そんなもんですか」
貴方は答えず、笑ってた。
でも新しいクルマを時々運転する貴方が、それなりに楽しむのを知ってる。貴方にとっては違いがあるのかもしれないけれど、クルマのオーナーが、驚く位に飛ばすんだもん。ダメって事は決してない筈よね。
雨の日に一緒に117を洗った時に感じた、愛着、じゃないのかな。
そして賢一さんもウチに(あたし自身、すっかり自分の家の積もりになってる!)入り浸るようになった。彼の専攻のIT分野でも教わることが多くあるらしい。貴方も、学校の講義で出て来る基礎や体系的な知識に興味を持っているから、男二人が話を始めると、あたしと舞は暫く放っておかれる。
まぁ女には女同士の会話があるものだけど、詰まらないね、と舞とあたしはぼやきあってしまう。
男同士の会話が終わると、あたし達はそれぞれのパートナーを捕まえて、恐らく二人にはどうでもいいであろう話を仕掛けて今度は男達が顔を見合わせて肩を竦ませるのだ。
舞が賢一さんと一緒に入って来た。
「あらあら、新婚家庭で一人寂しい思いをしてるあたしにあてつける気?」
「そうね。それもイイかも!実はさ。賢一が、吉見さんに相談があるの、そうよね?!」
「うん、まぁぶっちゃけ、就職のことなんだ」
「そう、で、彼が帰ってくるまではいちゃついてるって?!」
「そう!ウソよ。愛にもきいてもらったらってことなの」
「フーン……もう就職のことなんだぁ。大学って早いんだね」
「うん、あたしはママの会社に入るつもりでいるから焦ることは無いんだけど、賢一はコネとか無いから、ちょっと早めに動き始めてるの」
「そうかぁ、大変ねぇ……」
「でね、吉見さんの会社はどうなのかなって思ってるんだけど、愛ちゃんはどう思う?」
「うーん。あのね。クルマの運転とか教えて貰って分かると思うけど、厳しいヒトよね。ドライブには連れ出してくれたけど、最初からは教えて呉れなかった筈よね」
「うん……」
「まずメーカーのスクールに行くように言われたでしょ。自分で教えられないってわけではないだろうし、イヤだってわけでもなかったはずよ。
そこでまず基礎を学んで来い、というのが彼の意図だったと思う」
「うーん」
「そして仕上げとなるプラスアルファは、自分で選べ!でしょ?!」
「多分だけど、賢一さんを認めたからこそ、そうしたんだとあたしは思うなぁ」
「なる程ね、伊達に奥さんしてはいないんだ、と」
「もう!舞ったら!茶化すなら、もうアドバイスしないよ!」
「ゴメンゴメン、もうしない」
「舞のその言葉は信用に値しないけど、長い付き合いに免じて許したげるわ!」
「まぁ、ひどーい!」
「ひどいってことは無いでしょ!ねぇ、賢一さんもそう思うわよねぇ?」
二人に挟まれ、まして彼女からはジト目で見られ、賢一さんは返答に困っている。
古いクルマも新しいクルマも好きです。
運転の際にはくれぐれも事故にご注意下さい。




