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The Body20Close your eyes(01)

The Body20Close your eyes(01)



珈琲を飲んでいると、チャイムが鳴った。今度は舞ママだった。

仕事の話だからと断ると、二人は書斎に閉じこもった。

さっきの舞の話があったので不安になったけど、舞を前にしては言えないよね。でも舞は、


「大丈夫よ。ママはけじめだけはきっちり付けるもの。一度ママも悪くないと思ってたヒトが仕事中に公私混同した時、ママったら物凄く怒っちゃってさ、仕事は無くなるわ、社員はオロオロするわ、ママはプリプリして帰ってくるわで、もの凄く大変だったんだから」


「うん。心配はしてないよ」


「うん。分かってるって!」


敏いな。やっぱり舞の天然は……不思議な子。


1時間経った時、二人が出て来た。


「あら、二人共やけにおとなしいじゃない。愛ちゃん気分はどう?」


「ママ!先にそれでしょ!?」


「ゴメーン。急ぎで相談したかったのよ。美味しいもの買ってきたからさ、機嫌直して皆で御茶しない?」


「だったら紅茶の方がイイかな……」


と、呟きながら、貴方はキッチンに紅茶を淹れに行った。

色々と載ったカートを押して来た。


「アールグレーとダージリンしかないけどイイかい?」


「へェ!アールグレー」


「好みで欠かさないんだ。ダージリンの方はちょっと古いんだが、悪くない葉だよ。お好みで好きな方をどうぞ」


皆アールグレーにした。


「おいしい。こんな紅茶があるんだ……」


「ハッキリ云うと香料で葉っぱの品質をゴマ化しているんだよ。そう言ってしまうと身も蓋も無いんだがね。

女性が化粧をするのと一緒かな。あ、皆さんはそんな事はないけどさ」


「今の一言で全女性を敵に回したわね」


「そんな大袈裟だなぁ!」


皆で大爆笑。


「えぇっと、今日はあたしも泊まる!」


「ママぁ!泊めて下さいとか、依頼形じゃぁなくて、いきなり宣言なの?」


「そっ。だってパパは戻らないって云うし、舞と戻って二人きりっていうのも飽きちゃったしさ」


「可哀想なあたし……」


泣真似をする舞にあたしは苦笑い。


「私も混ぜて欲しいじゃない!?」


「結局、そこなわけね!」


「決まってるじゃない、ねぇ!?」


誰ともなく同意を求める舞ママ。

まずはお勉強ね。

夕食は和食だった。多分……。

ご飯に、鯛汁、お漬物、海苔。

これも彼は誰にも手伝わさせず一人で作った。

鯛汁の出来栄えは、舞ママが驚く程だった。


「うーん、愛ちゃん、苦労するわよ」


「ママ!今更脅してどうするのよ!もう今日一日で十分分かってるわよ、ねぇ、愛!それに愛はママのお弟子さんだよ!」


でも舞ママの言葉にコクンと肯くしかなかった。

今までは彼の城だから、彼が作るのが当たり前で良かったけど、あたしも一緒に住むとなったらそうはいかなくなる。当然あたしも作る事になるだろう。


「まぁ、愛ちゃんは私の弟子だから、腕は保証するわ。でもねぇ、この味は感性なのよね。完成されたレシピがあるわけじゃ無いわ。これは独立した一つの世界。店とかじゃ出せない、お袋の味とかその家の味みたいなものよ」


「褒めていただいて恐縮だけど、大仰だよ。外食だって平気でするんだ。広田先生直伝の愛君が作ってくれるなら悦んで頂くさ」


彼は笑い掛けてくれた。


「あらら、舞、藪蛇だったみたい」


「ママ、心配するだけ損だと思うよ。もう運命の歯車は回り始めちゃったんだもの」


ケーキを一口放り込んだ舞が、したり顔で宣う。


「まぁ、洒落た台詞が言えるようになったのね。いつの間にそんな素敵なレディになられたのかしら?」


「もう、今度はこっちに当て擦りぃ!」


全員で笑ってしまった。

皆ありがと。

心の中で深く感謝した。

舞のいう通りよね。

幕は上がったの。

怖じ気付いて舞台袖で震えている場合じゃないわ。

何があろうと演じ切ってみせるしかない。

彼を見詰めて微笑み、頭を下げて言う。


「吉見さん、不束者ですが、宜くお願い致します」


「こちらこそ」


二人が小さく拍手。


「乾杯しよ!吉見さん、ワインは無いの!?」


「ママァ!?愛は病み上がりよ!」


「いいじゃない、あんだけ食欲有れば平気よ、ね、今日は無礼講よ。あなた達も飲んでイイから感謝しなさい!」


「変よぉ!それって」


「イイの!」


舞ママは目を細めながら、睫毛の間を光らせていた。

ワインが抜かれた。

安もんだが。と、貴方はいったが、舞ママはラベルをチラッとみると、ふーん、と呟いた。

赤だった。安いチリワインだって。

でも美味しい……。

飲みなれてない舞とあたしは、少しほろ酔い加減、うつらうつらし始めていた。

舞ママの声が耳に入って来た。


「英司さん、あなたとこんな関係になるなんて思いもしなかったわね」


英司さん?


「あたしが貴方に近付いた時、愛ちゃんのママとはお付き合いしてたの?ひょっとしてあの青山の方だったのかな」


えっ?!ボンヤリとしてた頭が、一気に覚醒する。


「いや、あの頃は、離婚したてで、それどころではなかった。

ただ青山で君が見た女性が彼女だったのは間違いない」


「まぁ、やっぱり。なのに付き合ってなかったって言うの?」


「あぁ、あの頃は、友達付き合いのような仲だったんだ。彼女には、ご主人も居たし、勿論この子も……」


「じゃぁ、あたしの魅力がなかったって事?」


「いや、あの頃も、そして、今も、君は十分に魅力的な女性だよ」


「じゃぁ……」


「君は分かってると思ったけどなぁ、違うかい?そのせいかどうかは知る由もないけど、その後は浮いた噂をとんと聞かないが?」


「ウン。あたしにとって男は階段みたいなものだった。踏み付けて置き去りにして、自分はドンドン上を目指す。

でも、貴方は違った。エレベータを一緒に上がることが出来る。初めてそう思った」


「俺は……俺は、それ程の人間ではないさ、だけど君には忘れちゃならない物があった。君はそれを無理矢理忘れ、上に上がろうと無茶を仕掛けていた。何がそうさせていたのか、知らなかったし、今でも解らない。世の中にはそれができるヒトも居るだろう。そして許されるヒトも確かに居る。

でも君には出来ないし、私にもそんなことをさせることは出来なかった」


「彼女は違ったの?同じじゃないよ」


貴方は一瞬遠くを見詰める。


「彼女は……違ったんだ。出会った時から、あるべき筈の壁が無かった。なのに俺は無理やり壁を作ろうとしていた。

彼女は、ストレートで隠そうともしなかったけれど、俺は……意気地がなかった。

だけど、偶々二つになっていただけの二人が、元々一つになる事を運命付けられていたように、吸い寄せられ、引き付けあってしまった。

彼女の笑顔が俺の心の氷を溶かしてしまった。

そして気がついた時には俺はどうしようもなく彼女を愛していた。

そう意識したのは二度目の出会いだったけど、そうだったんだ。

最初は夢中で、終わることなんかない。そう思い込み、夢中で一緒に過ごした。周りのことなんて何も見えて居なかった。傲慢でワガママな恋だったんだろう。彼女に別れを告げられて、訳が分からなかった。柄にもなく思い悩んだ。

そして忘れようとした。その時だったら、その頃君と出会っていたら、奪っていたかもな。そしてお互い地獄へとまっしぐら……そう、そうなってたはずさ。イヤ、君だったら、いつかは呆れて、私が捨てられていたかもしれないな。

でも結局彼女への思いを募らせながら……過ごした。

だからまた彼女と出会えた。そして深い想いに気付き、一つの二人に至ることが出来た。そう思うんだ。

愛君の気持ちが伝わってくるようになって、苦しかった。彼女を忘れるような気がしたのかもしれない。でも雨の中にこの子をみた時、俺の中で何かが弾けてしまったんだ。いとおしい、早く家に入れなきゃいけないのに、雨に打たれながら暫く抱きしめていた。

だから私の気持ちはもうその時には固まっていたんだ。自然の成り行きに任せればいい。そう思うことにした。そう思えた瞬間心が、軽くなっちまってたんだ」


「そう……正直言うと、愛ちゃんが貴方の事好きだと知った時、私も辛かった。お母さんのこと聞いたら、尚更だった。愛ちゃんの想いが通じればイイと願ったのは本当よ。でも、心のどこかでは振られればイイって、思ってたのも事実なの。さもしいわよねぇ……分かった。諦めるわ。

最後に一回だけキスして、お願い」


貴方は、一瞬躊躇った様子だった。

薄目を開けてしまった。

舞ママは目を閉じていた

彼はゆっくりと顔を近づけていった。

イヤよ!でも言葉は声になる事はなく、動くことも出来なかった。

キスは髪の毛にされた。

舞ママは目を開き、


「相変わらず、いじわるなヒトね」


そう言ってしまうとグラスに残っていたワインを飲み干した。

舞が、うぅうんと言って、伸びをした。タイミングの良さに驚いて、あたしは目をギュッと瞑り直す。


「あぁあ、酔っ払っちゃったぁ、ママ、久々にお風呂一緒に入ろう、ね!」


「もう。いつまでも甘ったれねぇ!愛ちゃんも誘う?」


「うぅうん。愛は……ふふっ、吉見さん一緒に入ったげたらぁ!?」


まさか!

あたしもその声に反応したように伸びをしながら、目を開ける。


「なーにぃ?あたしの名前を呼んだぁ?」


「なーんにも!」


舞は言うとママを誘って、お風呂にいった。

突然二人になった。


「あの……」


「えっ?」


「ありがと」


それから、4人でトランプや古い映画をコレクションから引っ張り出して勝手な批評を交えながら鑑賞して夜を過ごした。


「愛!今夜はママと寝るわ。愛は吉見さんと寝なさい!」


「えぇっ!そんなぁ。まぁいぃ……」


抗議し掛けたあたしに、舞は縋るような目を向けていた。

ハッとする。舞ママを一人にしたくないのね。

あたしはコクリと頷いた。

お風呂から上がって来た彼に伝えると、困った顔をした。


「一緒に……イイ?」


「あ、あぁ。先にベッドに入ってて呉れるかな」


ベッドに横たわり、どぎまぎしながら、あたしは彼を待った。

彼は部屋に入って来ると電気を消し、ベッドの足元で暫し佇むとやがて布団の中に入って来た。優しく抱かれて抱擁とキスだけ、安堵と不安に瞳を揺らすあたし。


「急ぐことはない。ゆっくりと一緒になろう」


「ウン」


やがて眠りに落ちていった。



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