The Body14After you've gone……
The Body14After you've gone……
それからは貴方が全てをテキパキと処理をして進めて呉れた。
貴方は悲しくは無いの?
そう思っていた。
4日経ってパパが帰京し、告別式が行われた。
花を投げ入れる時、ママを見るのが辛かった。クラスの友達も大勢来て声を掛けて呉れた。舞はママと一緒だった。
彼は会場後方の隅に立って、弔問者に頭を下げながら、式の全体に眼を配っていた。
舞ママが、彼と一言二言話をして会場を後にしたのが、気になった。
初七日を済ませた翌日、遺骨の一部を納めた小瓶を持って彼に電話を入れた。
携帯は虚しくコール音を響かせるだけだ。思い切って事務所に電話を入れる。
応じたのは、落ち着いた声の女性だった。
「あの、所長は不在で、今アメリカに行ってるのですが」
「エッ?!それって、いつまででしょう、いつ戻られますか?」
「うーん、はっきりした予定は……、恐らく後数日と思われますが」
「そう、ですか……」
礼を述べ切ろうとしたが、躊躇いがちにその女性が言葉を続けた。
「あの、失礼ですけど、愛さん、ですよね?あたしは、山中と言います。宜しければお会いしてお話をしたいのですけど、今から直ぐに如何かしら?」
あたしの名を何故知っているの?諸々不安は有ったけれど、会うことにし、指定された喫茶店で待っていると直ぐに声のイメージそのままの女性が現れ、迷うことなくあたしの所にやってきて声を掛けた。
「愛さん、ですね?」
コックリと肯くと、女性は席に着き、自分が先程の電話を受けた山中だと言った。
「いきなりゴメンなさい。ただ、ここ最近の所長の様子が、気掛かりで話を伺いたかったの」
「そうですか……所で、あたしのことをどうしてご存知なんですか?」
山中さんはそっと微笑んだ。
「以前、所長とご一緒に居らっしゃるのをお見掛けしたことがあったのよ。その時、所長を軽くからかったら、ムスメみたいなものだって、その時お名前も伺ったのよ。
ま、教科書を開いて勉強を教えていらしたから、信じたフリをしてあげたけど」
「フリって……」
「だって、あたしもオンナよ。貴女の目を見れば、分かるわよ。でしょ?違って?」
曖昧に肯く。
「それでね、アメリカに行く前に二日程休みを取られて……。出てきたと思ったら、まるで魂が抜けちゃったみたいにボンヤリと、何を言っても上の空で聞いてないし、何も指示を出さない腑抜けた状態……。
で、他の所員共相談して、気晴らしになればっていうことでね、一人だけサポートを付けてシリコンバレーに送り出したの。丁度セキュリティ関連のカンファレンスが、ベガスで開催される予定もあったのよ。そしたら愛さん、貴女からのお電話でしょ。もし何かご存知ならお話を伺いたかったの。
どうかしら?お役に立てるかどうかは分からないけれど、少なくとも理由がわかれば対処のしよう位はあるんじゃ無いかしら?」
あたしは少しだけ考え込んでしまったが、意を決して話を始める。無論、あたしも知らない部分はあった。推測も混じっていると前置きをしながら。
彼女は、あたしが話を終えるまで、時折相槌を交えながら、黙って聞いていた。
あたしの話しが終わると、少しだけ考え込んでいた彼女は、やがて口を開いた。
「そっかぁ、あぁあ、残念だなぁ」
「エッ?!」
「ホントはね、わたしも同じよ。所長を好きだったの。でも、亡くなったヒトには勝てないわよねぇ。それで、貴女は?」
「エッ?」
「貴女は所長を思い続けるの?ってことよ!」
ちょっとだけ迷った。でもなにもかも見透かされる、そう思ったら気が楽になった。
「勿論です」
「だよねぇ。でも辛いよ。報われないかもしれないし、状況は貴女の願いを叶えてくれるかもしれない。それでも所長の心までつかめない可能性もある。それはもっとツライことだわ」
「分かっています。ただ、あたしは若い。時間だけを味方に、信じてみたいんです」
一瞬開き掛けた口を閉じ、暫くあたしを見詰めていたが、
「そうね、若さかぁ。最大の武器ね、私には無いな。分かったわ。もう一つ味方にして呉れてイイわよ。あたしをね。できる限りのことはして上げる。ただ、約束して、ムリはしない!」
「ハイ!」
「ムチャもよ!」
「ハイ!」
「何かあったら相談してね!」
「ハイ!」
「そう、その素直さも、きっと貴女の武器ね。だからこそ、愛し続けようと思えるのだもの。その素直さを忘れないで。でもね……」
いたずらっぽく笑い掛ける。
「オンナのズルさもね」
私もつられて笑いながら、応えた。
「ハイ!」
「所長が戻ったら、メールするわ。アドレス教えてね」
赤外線通信でメアドと携帯の番号を交換した。一週間経って漸く山中さんからのメールが来た。
『遅くなってゴメンね。立ち直るのに結構掛かったみたいよ。昨日戻って来たの。お昼を所長と取ることにしたから、知ってるわよね、イタリアンの店、お昼頃そこに来て。心配しないでイイわ。貴女が来たら入れ替わるから』
ママの関係を理由に学校を早退すると、例のお店に駆け足で向かう。
目敏くあたしをみつけ、山中さんはレジ前であたしを捕まえると口早に告げた。
「ゴメン。こうでもしないと所長ったらひきこもっちゃって」
あたしは頷きながら、彼の背中だけを見ていた。
女史は、苦笑いしながら、あたしの背中を押すようにして言った。
「Go!頑張るのよ」
あたしも黙って頷き、その背中に近寄った。
「お久しぶりです!」
出来るだけ明るい声で。貴方は驚いて振り返ると、
「山中さん、ウチの事務の女性は?」
と訊いた。
「入れ違いで出て行かれた方なら、なんか仕事を忘れていたとかで、事務所に戻るって仰ってました」
「そう……」
山中さんの座っていた席に腰を掛け、ギャルソンに彼女の注文したままで良いとを告げる。
「アメリカに行ってらしたそうですね?」
「あ、あぁ」
「お土産は?」
「あ、ゴメン」
「もうヒドイなぁ。あたしのことむすめみたいなものだって言って頂いたそうですけど?」
貴方の顔に少しだけ生気が戻る。
「そう、そうだったな。ゴメンよ」
「うーん、今回だけは許して上げる。でも、次はチャンと連絡してから出掛けて下さい。さもないとママに報告しちゃうんだからね」
涙が出て来たけれど、無理に笑ってみせると、貴方は驚きながら、そしてちょっと顔を曇らせて、
「分かった。必ずそうしよう」
「ウン。これ!」
あたしの差し出した小瓶を一瞬不思議そうに見た後、直ぐ気がついた。
「ありがとう」
受け取るとそう言って黙って見詰め続けた。暗い空気を振り払うために告げる。
「舞ママが気にしてましたよ。連絡がないって。舞に言われて、あたしも困ったのよ」
「そうか、済まなかったね」
「ウン。連絡だけでもしてあげてね」
「あぁ、そうしよう」
貴方は携帯を取り出すと、アドレス帳を探したのだろう、少し手間取ってからコールした。その僅かな間が、ほんの少しだけの安堵をあたしに呉れる。
「あっ、吉見です。広田社長はいらっしゃいますか?ハイ、お手空きのようでしたら繋いで頂きたいのですが、お願いします」
「あっ、吉見です。申し訳ありませんでした。えぇ、急にアメリカに行くことになって、昨日戻って来ました。
今、愛君と食事をして、叱られていたところです。えぇ、そうですね、明日は休みですが、お約束もありますので、如何でしょう、愛君と一緒にお宅にお伺いして、勉強を見た後で仕事のお話をさせて頂くということでは?
ハイ、勝手ばかりで申し訳ない。
じゃぁ明日、10時に」
電話を切った貴方に不平を笑顔に変えて言う。
「もう、ヒドイなぁ。あたしに断りなく決めちゃって!」
「スマン、都合が悪ければ、一人で行くよ……」
「いぃえ。イキマス!」
マッタク、ワカッテテイウ!
玄関では舞が出迎えて呉れた。
「ママは料理中よ。かなり気合い入ってるわ」
そう言って、笑いながら応接間に通される。既にお茶の用意もされていた。
ママから余計な話をしないよう言い含められて居るのだろう、早速教科書を開き、舞はここ分からないんだと言いながら、俄か先生に質問をし始めた。
貴方は少しだけ考え込んだ後、解説を始める。良かった。今日だけは舞に感謝。
笑顔が戻っていく。大人だもん。ポーズかもね。それでもイイ。そう思う。
あたしも教科書を開き、舞達の話の合間を縫って質問を始めた。
少しづつ雰囲気が和んでいく。
1時間以上経った頃、舞ママがやって来て、
「そろそろお食事をどうかしら?」
「わぁ、もうそんなぁ!?」
4人でする食事は楽しかった。
「美味しい!」
「お店のようには行かないけど、お口にあったかしら?」
「えぇ、とっても!ね、吉見さん?」
「あぁ、とてもいい。味も勿論いいが、大勢で食事をするというのも最高のスパイスだね」
「それは同感!いつも一人で食事してるから詰まらなくて」
「あら、それじゃぁ、時々ウチで食事していきなさいよ、ね!?」
「そうだなぁ、折角、あたしが夕飯支度しても、パパったら、いつも外で済ませて来ちゃうし……」
「決まりね!」
舞もはしゃいで言った。
「ねぇ、だったら吉見さんもご一緒しましょうよ、ね、舞のお母さん、いいですか?」
チャンス到来!イッキニ攻め込んだ。
「そんな、悪いよ」
「あら、ウチは構いませんよ、舞もいいわよねぇ?」
「うん、大賛成!どうせウチのパパも仕事人間で遅いし、ママと二人っきりよりも多勢の方がいいもんね」
「参ったな。私も仕事人間という点では、人後に落ちないんだが……」
「だからこそ、余計にこうして人と食事をする意味があるんじゃなくて?
お一人なんだから尚更、それとも別にお食事される方とかが居らっしゃるのかしら?」
ちょっと凄みを帯びた舞ママの笑顔、うぅん、怖い程にステキ!
貴方は観念した。
「分かりました。ご一緒させて頂きます」
やったぁ!そうなったら送って貰う口実も出来るわ。
それからは学校帰りに、舞と一緒に舞ママと落ち合って買い物に付き合い、料理も教わり、彼に勉強を教わった。
舞ママの会社の仕事もしている彼は、ほぼ毎回付き合い、家まで送って呉れるようになる。
心の距離が縮まる事はなかったけれど、クルマとか本の話を聞けた。
決して焦らない!そう、あたしは決めていた。




