The Body13The calm……
The Body13The calm……
舞と一緒に勉強を教えて貰っていた時、携帯の着メロ、珍しくパパからの音声電話だった。
厭な予感。
「どうしたの、パパ?」
あたしは硬い声になっていた。パパも早口に喋った。
「愛、済まない。病院から電話がたった今有った。ママが危篤らしいんだ。パパは知ってるように今大阪に居る。重要な会議なんだ。直ぐには戻れない。直ぐに病院に向かってくれるかい」
「分かったわ。直ぐ」
後は言葉にならなかった。
二人共、心配そうにあたしの顔を覗き込んでいる。貴方は予感しているのだろう。硬く暗い表情をしていた。
「一緒に来て、ママが!」
「分かった。舞君、済まない!」
舞も少しは事情を知っていた。
「どうぞ。急いで!」
あたし達は、立ち上がり外に出てタクシーを拾い、病院へと急いだ。
ママはコンコンと眠っていた。
先生から話を聞く。眠りは、強い薬のせいだそうだ。今夜がヤマ。そして、九割九分九厘ダメだと。
貴方は黙ってママに近づくと、ママの手を握り、頭を撫ぜる。あたしもママに抱きつく。緊張の糸が切れ、涙が溢れ出す。先生達はそんなあたし達を止めることなく、何かあればコールして下さいと言うと、看護師さんを一人残して立ち去った。その看護師さんも手馴れた様子で形ばかりの処理をすると軽く頭を下げ、病室を出て行ってしまった。
あたしは、ママに抱きついたまま、何時の間にか寝てしまっていたようだ。気がつくと、ベッド脇のソファーに横たえられ、ブランケットと彼のジャケットを掛けられていた。目を凝らすと貴方は最初の姿勢のまま、ママの頭を撫ぜていた。
ママとの思い出の歌なのか、呟くようにメロディを口ずさんでいた。
「ママは?」
「まだ眠っているよ」
「今のは思い出の曲?誰の歌?」
「君と同じ名前の歌手の歌。君のママが教えて呉れた歌なんだ」
立ち上がり、近づく。ママは、静かに眠り続けていた。幸せそうに、穏やかな笑みすら浮かべて。
「ママ、幸せそう」
「あぁ……そうであってほしい。末期はツライって聞いてるからね。せめて今だけでも……」
ウゥウン。
ママが眼を覚ました。あらっ?という表情をした後、
「ゆめ?」
と呟いた。
貴方がポンポンと腕を軽く叩くと、嬉しそうに歌うように、
「今ね夢を見てたの、丁度今の貴方達みたいに二人が側に居て歌を歌っているのを聞いてるの」
また涙が溢れ出す。ママは貴方を見て、
「ありがとう。楽しかったわ。幸せでした」
貴方は何も言わず静かにママを見詰めていた。ママはあたしを見て続けた。
「愛ちゃん、あなたがムスメで良かった。ありがとう。そして……ゴメンね。良いママではなかったね」
あたしは何も言えず、ママに抱きつく。
そんな事はないよ!ママは、世界一素敵なママだわ!
あなたはそっと立ち上がり、外に出ていった。あたしはママの耳に口を付けて言う。
「ダメよ。ママ、行っちゃったら、あたしがあのヒト盗っちゃうよ!」
ママはゆっくりと腕をあげ、あたしの頭を撫ぜていった。
「ウン。イイわよ。あのヒトをお願い」
ママを見る。優しく笑っていた。
「ママ、ママ!ダメ、今のウソだから、置いていっちゃダメェ!あたしも!あのヒトも!」
ママは穏やかに笑みを浮かべながら言った。
「呼んで」
あたしは駆け出し、ドアの外に背を向けて立っていた貴方を呼ぶ。彼が入って行くと、あたしはドアを閉めた。
暫くしてあたしが呼ばれた。ママは、あたしの顔を見て笑みを浮かべると目を瞑った。
ママ!
声にならず胸の奥で叫ぶ!
貴方が枕元のボタンでコールした。
何も返事はなかったが直ぐにパタパタと先生達が駆け込んで来る。
脈を取り、時計を見た。
ダメよ!
だけど声は出ない。
わかってるという理性と理不尽なという感情とが渦巻いていた。
先生は機械的な声で宣告する。
「ご臨終です。残念ですが……」
貴方が、そっと肩を抱きしめて呉れていなかったら、あたしは崩れ落ちてしまいそうだった。真っ暗な闇を覗かせる絶望の穴に……。幸せそうに穏やかな笑みすら浮かべ、まだ生きているかのようなママの表情を、あたしは泣く事も忘れ、見詰め続けた。




