The Body10settled(04)
The Body10settled(04)
クルマはどうやら南に向かっているらしい。
春の日射しと汐風の匂いが心地よい。
暫くするとクルマが止まった。
一面真っ黄色!
「菜の花ぁ!」
ママとあたしは思わず駆け出していた。流石にママはゆっくりと。
「キレイ……」
「ウン」
蝶や蜜蜂も飛んでる。春なんだね。
知らず知らず涙が溢れていた。
涙を拭って、ふとママを見ると、ママも泣いていた。
その涙はしあわせそうな涙だね。
ママに抱き付く。
「ママ、ママ、……」
貴方は少し離れたまま、二人を見ている。笑いかけると貴方も微笑んだ。
二人で手招きする。近付いて来る貴方。そしてまた三人並んで抱きしめあう。
無情にも春は来るのね。
でも、無情な筈の春が幸せな空気を運んでくれるのも確か。そして今、あたし達は……悔しい事に幸せだった。
「そうね、ママ、神様って公平ね」
「でしょ!?」
自慢げないたずらっ子は一人抜け出すと、岬の突端に歩いていった。縁近くまで近付くとクルッと振り返り頭を下げた。
無言だった。
顔を挙げたママは腕を広げて眼を瞑りゆっくりと息を吸い込んだ。
春の陽光を浴びて金色に染まっているかのようにその姿が眩しい。
あたしは駆け寄り抱き付き、ママを抱きしめる。
温かいよ、ママの身体……。
帰り道すがら思う。
このままでいたいだろうな。
ママの手に手を重ねる。
微笑みながらママのもう一方の手がかぶさる。あたしとママは見つめ合う。
病院に着く。担当医師との約束した帰院の時間まではまだ間があった。
近くの喫茶店に入って御茶する。
二人は無言だった。あたしの方がやきもきしてしまう位に。
見詰めあうだけの二人を交互に見遣っては、あたしが溜息をついてしまう。
「今日はアリガト。楽しかったわ。愛も、付き合ってくれて本当にありがとう。お陰で安心して楽しい時が過ごせたわ」
貴方は何も言わなかった。
「じゃぁ、ここでお別れするね」
一瞬、本当に一瞬だけ寂しげな表情を交わし合う二人。
視線だけを交錯させて、2人が同時に立ち上がる。どちらからともなく身体を寄せると、抱き締めあう。
甘く切ないっていうけれど、今の2人のことなのね、きっと。
彼を置いて店を出て、直ぐママに言う。
「ママ、ちょっと待ってて!忘れ物しちゃった」
ママは、うん、と言ってブラブラし始める。
店内に戻り彼に早口で告げる。
「お願いです。少しかかるかもしれないけれど後で会って下さい!」
貴方は少し迷いながら頷く。
先生の所に顔を出し、お土産を看護師さんに渡して二言三言交わした後、病室に戻る。
「疲れたでしょ、今夜はゆっくりと休んでね」
子供のように素直に頷くと、ベッドに入ったママは直ぐに寝入ってしまった。
少しだけ寝顔を見つめて病院を後にする。
喫茶店に貴方は居なかった。茫然としたあたしは表に駆け出し、クルマを探す。
居ない。何処にも見当たらない!
ジャケットのポケットで携帯が鳴る。
貴方からのメールだった。
『申し訳ない。急ぎの仕事が入ってきてしまいました。また今度ということにさせて下さい。旅行をさせてくれてありがとう。心から感謝しています。by吉見』
ウソ!涙目になりながら、あたしは家路を辿った。
パパはまだ帰っていない。気分を変えようと、音楽を掛けながら、夕飯の準備をする。一人きりの食事を済ませ、お風呂から上がって一人寂しくベッドに入る。眼を覚ましたときも、あたしは一人だった。食事をした跡はあっただけで、パパは、いつの間にか帰ってきて、いつの間にかまた仕事にいってしまっていた。




