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7.どうか、消えずに。


――同じ願い。抱えて彼らはやって来る。


「同じ……?」鮮やかなワンピースを着た少女が首を(ひね)ります。

 その問いに、もう一人、白い服を来た少女が頷き、説明を続けます。

「君が、あの事故を見て、ここにいるのと同じこと」

「……?」

尚人(なおと)君、最初に言ってたでしょう。――待ってる、って」

「――あ」

 やっと、聞き手の少女も気が付いたようです。黒猫の方も、何となく気が付いたみたいです。少女はその反応に頷きを返します。「そう。尚人君は待っていたかった(、、、、、、、、)んだ。何で避けられているのかは、分からなかったと思う。(りつ)ちゃんにも分かってないんだから。だから、話をしようと思った。――キーホルダーはそのきっかけだったんだ」

 その時、聞き手側の少女が、何か言おうとしたみたいで、口を開きましたが、結局何も言わないまま、口をつぐみました。

「ところが、事故が起きた。よりによって、律ちゃんが見ている目の前で」

「……尚人君も、見ていたんですね。「あの時」の律ちゃん(あのこ)の顔を…。()と同じように……」

 鮮やかなワンピースを着た少女は、だがしかし、俯き、そのせいで長い髪が顔を覆い、表情が見えなくなりました。でも、涙が(こぼ)れているのだけは判りました。白い服の少女が、年下に見えるのに、(なぐさ)め、(さと)すように話しています。

「そう。律ちゃんも行かなかったことに、後悔してたけど、尚人君も、その時後悔したんだ。――呼び出したことに。そのせいで、律ちゃんにあんな顔をさせてしまったことを。――呼び出して、ああなった。だったら、もう()かすことは止めよう。待ってるって言ったんだから、貫き通そう」

 尚人の気持ちを、少女は代弁していきます。「だって、律ちゃんはすぐそこまで来ているんだから」

「「え!」」聞き手の二人が、少女が放った最後の言葉に、同時に驚きの声を上げます。「知ってた……?」

 黒猫の問いに、少女は笑顔で、右手で上を指差しながら答えます。


「だって……上からは見えるもの。下から上は見えなくてもね」言葉とともに上下する人差し指を見ながら、黒猫は呟きます。

「成程……見てたのか」律が、中庭から毎日、尚人の病室を見上げていたように。尚人もまた、律を見ていたのです。

――必死に耐えながら。

「凄いよね~。窓と高さに隔てられた、見つめ合い? といっても、律ちゃんからは見えないし。しかもそこから動けないしね、双方」

 突然、変わった少女の調子に、もう一人の少女は涙も忘れたように、唖然としています。「はー、こういう奴なんだ」黒猫の方は、脇を向いて溜息をついています。

「はあ……」唖然としたまま、返事をする少女に顔を向け、黒猫は言います。

「しかし、あんたも変わってるよな。未だ使われてもないのに、そこまで愛着が抱けるなんて――ここに来るほど」

「え、変ですか……?」

「まあ、いくら俺ら「水車堂(すいしゃどう)」が、もうこの世に無いものを人間に見せるのが役目とはいえ、その依頼者である「もの」が、こんなに若いのは珍しいな。まだ一人前になってない、つまり使われたことがない、子供の姿でやってくるのはな」

「なんだか知らないけど、人間に模した姿で――つまり、擬人化?――で、やって来るんだよ。性別も特に関係ないみたい。年齢は使われた年数が反映しているみたいだけど。大体は引退なさったおじいさんとか、働き盛りの女性とか。来ると、おーカッコいいって思うんだけど。だーかーら、女子高生って実はすーごい貴重~」

 少女が話に入って来ますが、あまりテンションは変わっていないようです。

「後半だけ聞くとただのセクハラオヤジだな」黒猫は慣れきった様子で、冷静に言います。

「しかも、相棒は猫になりたがるし」少女も負けてはいません。

「人間は喋らなきゃならん。なるときはなるんだからいいじゃねえか。おまけになったらなったで、無愛想、無口、鈍感と文句言い放題じゃねえか。お前もいちいち女に化けてんじゃない。セクハラで訴えられないからって」

「私のモットーは、人間(ひと)の話を聴くことですから」

「ひとの話を聴く……」二人の掛け合いを眺めていた少女がポツリと呟きます。その言葉に、先程まで開き直ったような笑顔だった少女が、まるで相手を――もちろん少女を――(いた)わるかのような優しい笑顔に瞬時に変わります。

「うん。だってね、見せるだけなら簡単なんだよ。はいどうぞ、って。でも、相手はそれが壊れてるって知ってるから信じるかって言ったら信じない。だから、そんなことあり得ないって、最初っから「全部」無かったことになるんだ」

 少女は、さっぱりとした様子で言います。

「基本、私たちって絶対必要ってわけじゃないし。ただ、せいぜい、背中を押してあげるぐらいなんだよ」

 傍らの驚いた表情の少女に向かって微笑み、「だってさ」と続けます。

「それがなくたって人間は生きていける。律ちゃんも、やがて中学生になって、そして、大人になっていく。それが普通。――でも、私は知ってほしいと思ってる。君を作った時の尚人君の思いを。君を――キーホルダーを渡したかった尚人君の気持ちを。蛇足でしかないのは、みんな分かってる。――それでも」

 虹色のワンピースを着た少女は、泣き崩れました。自分を見て笑ってほしかったのに、実際に見たのは後悔に顔を歪めた少女。託された少年の願い。それを叶えられずに、壊れてしまった役立たずの自分。


「それに、律ちゃんって可愛いよねえ。律ちゃんの髪伸ばした姿になれるなんて、もう本望」

「いや、だから、お前は一言余計。でもあの子どうなるんだ?」

「どうもならないと思う。全部受け止めて、そして成長するよ。あのままさぞ、綺麗な娘になっていくんだろうねえ、きっと。ね?」

「……はい」少女は泣き笑いのような表情で頷きます。その横で、黒猫は「何か矛盾してる……」と呟いています。


……長っ! 最終話だからって、今までより遥かに長くなってしまった。削ろうとしたのに。今までが短すぎというツッコミは置いといて。

というわけで、初めての最終話です。迎えられて嬉しいです。結局全七話となりました。どうも文章を削るのが苦手で、たった数時間の出来事なのに。細かく書きすぎ? 次回も短めを目指して頑張ります。うっかりすると、もう一方の話みたいになってしまう。でも、次回作まだ、考え中でどうなるやら。

では、そろそろ失礼いたします。お付き合い頂き、ありがとうございました。

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