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3.きっかけ

 あの日まで、逃げ続けてた。

 あの日から、逃げ続けてる。


 (りつ)は突然、違うクラスの女の子たちに呼び止められました。


「ねえ、未だ気付かないの?」

 見覚えはあるけど、よく知らない子たちから強い口調でそう言われ、律は目を丸くしていました。

「な……何が?」

 やっとそう返しますが、女の子たちは、信じられないという顔を見せ、更に詰め寄ります。

「あなた、何様のつもり?」律には更に、意味が解りません。

「幼なじみだか何だか知らないけど、いつまで尚人(なおと)君に頼るつもり? おまけに、ああいう頼み事するなんて。尚人君、迷惑がっていたわよ、「同じもの」って。いい加減に気が付いたら? あなたを迷惑だと思ってるって。口に出して言わないでしょうけどね。尚人君、優しいから。でも、いい加減、あなたの方から離れるべきなんじゃないかしら。そうでなきゃ、彼……」

 その後も彼女たちは何か喋っていましたが、律には上手く聞き取れませんでした。女の子たちが立ち去った後も、律はただ立ち尽くしていました。

 律は、何も言うことが出来ませんでした。言われたことを理解することも上手くできません。

 

 理解したくはなくて、でも、いつかは理解しなくてはいけなくて。


 いつの間にか、歩き出していましたが、どこをどう歩いているのかも判りません。ただ、足の向くままに歩いていました。

 その時、呆然と歩いていた律の前に、尚人が現れました。彼は一人ではありませんでした。女の子と一緒でした。別のクラスの女の子と笑いながら歩いていました。その様子が、楽しそうで、お似合いで。

 律は突然、今まで味わったことのない感情に襲われました。自分でも、その感情が何だか判りません。動くことも出来ず、立ち尽くしていると、尚人がこちらに気付いたように、手を挙げ、口を開こうとしました。すると、それまで動けずにいたのに、話しかけようとする尚人を見た瞬間、

 律は走っていました。いえ、それは、


「逃げたんだ……。そのまま逃げ続けた。そうして、あの事故が起きた」


 どんな顔をして、会えばいいのか。判らずに律は尚人を避け続けました。

 だから、卒業式の日、突然、話しかけられたあの時も、律は、わざとぞんざいに断り、他の友達に話しかけたりしました。

「俺が、無視しても、絶対待ってるからな、って……」

「律ちゃん……」ずっと律の話を黙って聞き続けてくれてた、名前も知らない少女が、見かねたように声をかけますが、律は構わずに続けます。あの日の真相を。

「でも、俺は行かなかった。卒業式の後、家の近くの公園で、絶対待ってるって言われたのに……。花壇の側で、ちゃんと尚は待ってたのに。俺は行かなかった。だから、あいつは事故に遭った」


「俺が行ってれば、あの日あの瞬間、あそこに尚はいなかったんだ……!」


 何度、そう繰り返したことでしょう。――自分があの日、行けば。行ってれば。尚は事故に遭わなくて済んだ。こんな風に独り、病室にいることもなかった。

 事故が起きた日に、たった一度だけ行った、尚人の病室。その翌日、独りで向かおうとして、律は中庭から病室を見上げて、その瞬間。


 動けなくなりました。


 行かなきゃ。行くんだ。そのために、来たんだから。

 何度、そう自分を奮い立たせようとしても、足が動かないのです。尚人の顔を思い出して、行こうとしても、尚人の顔を思い出して、動けなくなるのです。

――ごめん。ごめん。馬鹿でごめん。子供でごめん。お前は、大人だったのに。避けた俺に、笑って、変わらずに話しかけてくれたのに。俺は、その優しさに甘えた。いつでも話せるってタカを(くく)ってたんだ。

 何が理由で、それが崩れるか分からないのに。駄々をこねた自分は、あまりにも子供だった。


「でも、逢いに行ったんでしょう?」

「――え?」

 不意に少女は言いました。その声は、不思議に自然と、律の中に入ってきました。

「それでも、逢いに行ったんでしょう? あの日、尚人君に」

 一呼吸おいて、少女は続けます。

「思い直して、約束の場所に行った。――だから、尚人君の事故を目撃した」

「そ……それでも……」

 口ごもってしまった律に言い聞かせるように、少女は語ります。

「逢いたくなかった。それも事実。でも、君は会いに行った。あのね、律ちゃん。みんな(・・・)分かっているんだよ。尚人君のお母さん、言ってたでしょう。自分のせいだって、謝り続ける律ちゃんに」


「あなたのせいじゃないって」


 ――確かに、そう言ってた。何度も叫んだ、ごめんなさいって、謝り続ける自分に。違うよ、悪いのは車。律ちゃんは何も悪くないって。自分の子供が事故に遭ったのに。毎日、仕事が忙しくて。でも、卒業式だからってやっとお休みもらって。でも、その尚はあんまり家にいなくて。挙げ句事故に遭って。本当は、俺は責められるべきなのに。でも、そういうことは一言も口にしなくて。ただずっと、律ちゃんのせいじゃないって、何度も言い続けてくれた。


 ――ごめんなさい。全部「俺」の、ただのわがままです。でも、だから、直したくないんです。

終わりが見えてきましたね、って、短編目指してるのに、3話目でこのせりふって……。

いい加減現在の尚人君出したい……。ずっと律ちゃんと、「彼女」のツーショット。別に死んじゃいないのに。

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