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1.向かう場所

 願いを叶えて。私の、些細な。でも、とても難しい。


 ある建物の中。まだ高校生ぐらいに見える少女が立っていました。


「子供か。珍しいな」

「いらっしゃいませ。お嬢さん。ようこそ、何をお望みでしょうか」


――あの人の笑顔が見たい。


 少女は、目の前に現れた二人を毅然と見つめます。


――こんな私で役に立てるのなら。




 (りつ)には、今、最大の悩みがありました。

「やっぱりさあ、今年から私服でOKとかないかねえ」

 それを聞いた兄が、呆れたように言います。

「お前さ、今更何言ってんだぁ? もうすぐ中学生になるっていうのにさあ。制服ぐらい良いじゃねえか」

「良くねえ! ぜんっぜん!」兄の一言に律は、猛然と反発します。「俺が卒業式の時、どんだけ笑い者にされたと思ってんだ!?」

「いや、卒業式と制服は違うだろ……。俺だって、ネクタイとか最初、手間取ったけどよ。今はもう慣れたし。お前もその内慣れるって」

 年子の兄の言葉に、律は首を捻ります。「慣れたかねえなあ」

 呟いたその一言は、兄には聞こえなかったようでした。「お前も、中学生になるんだから、そういう格好に慣れるべきだぜ? いい機会じゃねえか。周りも慣れるからよ」

 律は、その言葉には答えずに、「じゃあ、ちょっと、(なお)のとこ、行って来るから」と、走って出かけていきました。


「尚が居れば、もっとあいつを説得出来たかもしれねえなあ。「こういう服」を着ねえのもなあ」

 届いたばかりの、真新しい制服を前に、お兄さんは溜息をつくのでした。


「誰が、着るかってえんだ!」走りながら、律は悪態をつきます。

 律はおめかしがとても苦手でした。制服のような、堅苦しいモノも苦手。ですが、小学校の卒業式の日、頑張ってみようと、律なりに、ですが、それなりに、相応しい格好をしてみました。

「人を…見世物みてえによお!」ところが、周囲の視線を一身に浴びてしまったのです。

 かくして、小学校の卒業式は、律にとっては苦いトラウマと成り果ててしまったのです。


「さーて、急がなきゃな。尚も待ってる…よな!」

 律は気を取り直し、急いで目的の場所へと走っていきます。その場所は友人のいる所。いえ、ただの友人ではありません。元々家が近く、幼い頃からの大切な友達。律たち兄弟にとっては、彼は、尚は、まるでもう一人の兄弟のように仲が良かったのでした。尚の方は、一人っ子で、兄弟がいないので、三人兄弟で年の近い律たちと一緒にいることが当たり前でした。特に、律にとっては、尚は同い年で、兄や弟よりも、一緒にいて、もう一人の兄のようで、無二の親友でした。誕生日が数か月早いだけでしたが、しっかり者で、いつも律をリードしていたのです。


 その尚が、事故に遭ったのです。まさに小学校の卒業式のその日。その卒業式を終えた少し後。自宅に程近い、公園の前の道路。いつも律たちの遊び場だったその公園に、車が突っ込んだのです。暴走車が、よそ見して、ハンドルを切りそびれたとかで、公園の花壇に。その付近に、尚はいて、撥ねられてしまったのです。

 その現場を律は見ていました。本当に偶然で、ちょうど、尚が車に弾かれる瞬間。その直後、律はあまりのショックで、叫びながら、駆け付けた尚のお母さんに、しがみついていました。その時、自分が何を叫んだのか、今もよく思い出せません。

 そのまま病院について行った筈ですが、そのこともおぼろげになっていました。

 その翌日から、毎日、尚の病院に通うようになりました。

 そして、今日。今日も息切れしながら、病院に到着しました。中庭から、尚がいる筈の窓を見上げていました。その時です。


「ねえ、行かないの?」

 ふと声が聞こえました。律が振り返ってみると、ベンチに、女の子が座っていました。どうやら、今の声はこの少女のもののようです。だって、その場には他に誰もいませんでしたから。

初めまして。ご無沙汰してます、の方もいらっしゃるかな。志水燈季(しみずひのき)と申します。長編を書いておりますが、短編も挑戦してみました。一話完結は私には出来ないと思います。

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