AbengeGame第二話
「ドール…????」
変な名前だとか、なぜ外国人でマ〇リン・モンローそっくりなのかとか、そういう疑問もあったが、まずどこから状況理解すればいいのか、混乱の中に混乱が積み重なった。
白い部屋、
犯罪者、
ドールという名の女性
なぜいまこのような事態になっているのか
頭の中はごちゃごちゃだ。
もう何を考えたらいいのかすら分からない。
まずこれは現実なのか?
「わたくし、ドールは、貴女方のような立派な犯罪者に巡りあえて大変嬉しく思います。」
立派な犯罪者…??
なんだそれ―――
だいたい俺は殺人犯じゃない。罪を被せられたんだ。
今頃一人暮らしを悠々と楽しんで、彼女もできて、サークルに入って……
大学生活を楽しんでたはずだ…
ドールはそんな不満そうな俺の顔を見て、笑みを浮かべて言い出した。
「貴女方がなぜこのような場所に居るのか…それは、貴女方は第二の人生を送るチャンスがある人間なのです。」
「…第二の人生……?」
派手な女性が真剣な表情をして言った。
ドールは笑みを浮かべたまま、俺たちの顔を一人一人見ながら言い始めた。
「囚人ナンバー088、賀神涼介。
囚人ナンバー059、木島茜。
囚人ナンバー128、海宮潤。
囚人ナンバー046、佐伯ルイ。
囚人ナンバー101、橋元瞬也。
囚人ナンバー905、樹和成。
貴女方6名には、明日から憲法104条、非秩序殺人権という特別な権利を与えます。」
「非秩序…殺人権……?」
メガネの橋元が理解にとまどいその名を出した。
「貴女方6名は、これから国家や政府の為に殺人を行っていただきます。
非秩序なので、規律や法律を守らず人を殺すことが出来るのです。」
「……は?」
何いってるんだ、こいつ…
正気か??
ドールは表情を変えず、部屋の中の白いテレビをつけ出した。
「まずはこちらをご覧ください。」
数秒の砂嵐の画面の後、テレビに映ったのは髪をくくった中年の女性の姿。
撮影されたのはこの女性の自宅の中っぽい。女性の後ろには、写真立てや花瓶が置かれている。ごく普通の家の中だ。
ビデオカメラを自分で設置し、まるで今からyoutubeの動画を投稿するかのように、その女性は話し出した。
「藤島佳世、35歳です。現在一人暮らしで、両親は既に他界してます。」
黙ってテレビの映像を観る六人。
「……私は、17年前に最愛の弟を亡くしました。当時弟は17歳。高校の帰り道で、轢き逃げに遭い、病院に運ばれましたが翌日息をひきとりました。
轢き逃げした犯人の車のナンバーは断定出来ず、捜査は難航し、そして、最後まで犯人は逮捕されずに時効になってしまいました。」
俺は、この何処の誰かも分からない人の話をいつのまにか真面目に聞いていた。
樹や俺の横の木島茜も、黙ってテレビの映像だけを観ていた。
やがて映像の女性は、少し涙目になりながら、怒りと悲しみの混じった声で話した。
「両親を亡くし、弟だけが私の生き甲斐でした…!いつもの「行ってきます」と「ただいま」の声はもう聴けません。あの笑顔を見ることもできません。
犯人も、時効も許せない…
私は犯人の顔を知らないから、今生きてるかどうかも分かりませんが、もし生きていたなら、どうか…
どうかそいつを殺してください…!!」
そこでビデオはブツッと切れた。
再び流れる砂嵐。
約4分くらいか、悲しみの声を聞いた。
このビデオはドラマの一部かもしれないのに、ビデオの女性は演技してるかもしれないのに、なぜか少し空気が重く感じた。
そして数秒後、テレビの一番近くに立っていた樹がテレビを指差し、少し焦りの表情で、言い出した。
「今の映像は何なんだっ?なんでこんな映像を俺たちにみせる」
樹の表情には、余裕というものはなかった。
橋元も、口には出さないが、説明してくださいよと言わんばかりの表情だった。
けれど、ここに来てから体勢を変えず、ほとんど喋っていない海宮が、遠い視線でようやく口を開いた。
「つまりは轢き逃げ犯を俺たちが殺せってこと」
正解、というようにドールは歯を見せて笑顔をふりまいた。
「さすがはナンバー128。その通りです。
この映像は、貴女方6名に向けての依頼状です。」
「依頼…状…?」
困惑する橋元。
話続けるドール。
「今日から貴女方は、このテレビの映像の依頼主から頼まれた人物を殺してください。」
「ちょ、ちょっとまってくださいよ!それって僕たちに殺人しろって言ってるんですか?」
「ってか轢き逃げ犯は17年間見つからないから時効になったんでしょ!犯人の目星がつかないのにどうすんのよ?」
次々と疑問が沸き上がる佐伯と橋元は、ドールになげかける。
俺も聞きたいことは山ほどあった。
けれど口が開かない。この金髪外国人に、ここにいることが当たり前みたいに思われてるようで、逆に自分が問う全ての質問をバカにされそうでならなかったからだ。
だが橋元や佐伯の言う通りだ。
――俺たちに人を殺せと頼んでいる事実。
そしてドールは佐伯の質問に冷静に答えた。
「ご安心を。藤島佳世の弟、藤島悠太を轢き逃げした犯人は特定されています。」
砂嵐の画面が、ドールの持つ白いリモコンボタンで一人の男の顔写真に映り変わった。
黒めの肌にうっすら口髭を生やし、髪も少し薄い。人相悪い目付き。
殺人犯といわれればうっかり確かにと言ってしまいそうな顔つきだ。
6人ともテレビ画面の犯人を見つめた。
「犯人の名は緒方正信。歳は50歳で、現在は無職。休日に隣街のパチンコ店によく姿を現します。」
「おい、なんでそこまで犯人の情報が掴めてるのに俺たちにそんな事させるんだ?やつを特定できたんなら時効であっても警察がさっさと対処すればいいだけの話じゃないか?」
樹が正論を述べた。
ドールはまた薄い笑みを浮かべた。
「この轢き逃げ事件はとうに時効となったのです。不起訴成立となった事件は警察には処理できません。法律上、この事件は既に消滅してしまいましたので、貴女方の力を借りたいのです。
今後は、犯罪者兼殺し屋として、この部屋に置かれます。」
「私たちがもしそいつ殺したとして、私たちになんかメリットでもあんの?」
佐伯が聞いた。
ドールは少し間をおいて答えた。
「勿論ございます。」
「どんなメリットだ??報酬が入るのか??」
すぐさま聞く樹。
「……もし貴女方がこれから送られる依頼主の依頼を4日以内に勤め果たす事ができた場合は…各個人の罪を我々特別犯罪機関が無罪にして差し上げます。」
無罪。ドールのその言葉に皆の表情は一気に変化した。
まるで何もなかった机の上に大金が置かれた時みたいだ。
「無罪放免ということは、務所から出られるのか…!?」
樹はドールに片一歩近づき、質問した。
「ええ、貴女方は自由の身を手にして、再び普段の生活を送ることが出来るのです。ただし、それが出来ればの話ですが―――。」
笑みばかりを見せるドールの顔が少し変わった。
「貴女方6名にとって都合の悪い話ではありませんが、依頼状の人間を殺害するかどうかは…貴女方次第です。」
そう話すと、ドールは俺と海宮の間にあるドアに目をやった。
正直、色々な事が俺の頭の中に重なりすぎて、もう1つドアがあることに気がつかなかった。
「あちらのドアの奥には、様々な武器が備えられています。各自それらを使って、犯人を殺害してください。また、貴女方にはこれを着けていただきます。」
そう説明して言ったあと、ドールは黒い無線機イヤホンを手にした。いつからそんなものを持っていたのか。
「犯人が死亡した時点で、こちらから指示を出します。個人で行動する場合もありますので、必ずこれを着けてください。
では何か質問がある方?」
「………何なんだよここ……」
今までこのドールとかゆう訳の分からない女の話を淡々と聞かされてたが、質問どころか、不満という不満が溢れ帰っていた。
5人が俺の方を振り向いたが、怒りは抑えられない。
「一体何なんだよここは!!何でこんな訳わかんねーとこに連れられてんだよ!
依頼とか武器とか無線機とか…!
当たり前みたいに説明してんなよ!!
第一俺は殺人犯じゃねぇんだよ!
刑務所に居ること自体から間違ってるんだよ!!」
――……何なんだよもう…
俺は怒りをドールにも、俺以外の5人にもぶつけて、がくんと白い椅子に座り込んだ。
周りは静まり返り、俺以外の5人も黙っていたが、俺の話を全く聞き入れなかったかのようにまたドールは喋りだした。
「では、質問がなければわたくは一度退室致します。
明日の昼12時にまたこちらへ伺いますので、武器と無線機の準備をしておいてください。」
それでは、と一礼すると、コツコツヒールを鳴らし、ドールはドアを閉めて出ていった。
俺の叫びは、あの女には、この部屋の5人には、何一つ届いていないようだった――――。