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HEROES  作者: 工藤カズナリ
26/34

Daily 26 〜試練〜

「松野君!…そんな所で何してるの!?…うわーそこ何か凄い…うわー」


「ちょっと危ないから無理して来ないでね、それにここは特等席だから」


「えー!……でも大丈夫かも…よし!」


「危ないからそこにいて、仕方ない……よっ!…っと、んで西園寺どうしたの?」


「どうしたじゃないよ!…みんな松野君が元気ないなーって心配してたよ」


「……そうかなー?…ほら!ほら!ほーら!……いつも通りでしょ!?……何だよその顔は…」


「……無理してる、もしかして…この間の試合のこと?…」


「…西園寺見に来てた?だとしたらとんでもないとこ、見せたかもなー…」


「私とふみかが着いた時は、海堂先輩が投げてたから…松野君じゃないのかなーって…」


「マジか…ふー、なら良かったわ…ダサいとこ見られてなかったわけか…まあ先輩の前は俺がね、それであのスコアって感じ…」

「そっかー……やっぱそう思っちゃうよねー、実際の場面ならそう感じるだろうし」


「まあ先輩の言う通りだよ…少しずつなのかなーとか、目指すの無理なのかなーとか…」


「まあね……確かに海堂先輩から注目されなかったら、今の自分はいないかもしれないもんね……違う?」


美愛はちょっと変わった目つきで英輔に言った、少し驚きながら首を縦に振った。


「でも…本当にそれだけかな、今の松野君がいるのって」


「えっ……そりゃー他の先輩や一年生とか、もちろん隼人にも感謝してるけど…」


「松野君は野球そのものが好きで入部して、何かの縁でここまで頑張ってきたのかもしれないけど…周りから見たら、松野君がいたから楽しい野球が出来ると思ったはず、辛い事も互いに乗り越える事も必要だし、それを松野君がわかっていたのならなおさら…そう思われるって凄い嬉しいことじゃない?私だったら嬉しいって思うし、何より松野君に期待しているって事だとも思っちゃうし…」


英輔は美愛の言葉一つ一つを真剣に聞いていた、ここまで真剣に話を聞けるとは…。


「それにその期待に応えること、松野君の場合だと立ち向かうことかな…それって何か…楽しいことじゃない?」


「た、楽しいこと?……それが楽しい?…」


「皆でするスポーツなら絶対そう思うけどなあ……あっごめんね!…何か余計な事言ったかな…」


(……俺は…一人で野球してるわけじゃない、なのに……ふっバカだなー俺って…練習一つ一つからみんながいる、その期待も示せないでどーするよ!…)


「…あれっ!どこ行くのー!?昼休み終わっちゃうよー?」


「サンキュ!ただ教室に戻るだけだよ」


(もう……でもあの顔は…いつもの、ちょっと元気出してくれたかな…)

放課後の部活が始まるころ、ここからもう一つ大きな壁が待っていた…。


「ここの所、松野の投球が安定していないようだが…海堂、何か知ってるか?」


「……彼なら大丈夫です、一時的だと思いますし、あれでバッターと勝負出来ないと、投手の資格はありません」


「しかしだな海堂…最初に言ったのはお前のはずだ…私からは何も言うことは出来ん」


「……ではバッター立たせましょう…後は彼らに任せて」


「海堂……わかった、よし……松野のとこに誰か立ってくれ!右でも左でもいい」


そうして打席に部員を立たせ、投げる英輔だが……隼人は薄々気付き始めていた。


「英輔、さっきからアウトコースばっかりだな、しかもボール半個外れてる……何だ…お前まさか……」


「…自分でもいうこときかないんだよ…何か変だ…」


再びピッチングに入ると、隼人があえてインコースに構えた、ところが…。


「……おい、逆球だぞ!……しっかり投げろ」


(わかってる、わかってるけど……くそー!何でなんだよー!)


その後も英輔は苦しんだ、本当の逃げ球の投手になってしまっていた。

「…見る限り、っぽいな龍悟…さすがに制御出来ないのは辛いな…」


「下手すれば重症かもしれない、でも…ここを乗り越えられると僕は信じている…(しかし、君次第なんだ…)」


(思ったところにいかない…アウトコースはギリギリ良くても、インコースにいかない…俺どうしたんだろ…)


そのまま部活が終了したが、英輔は居残りしていた…。


「松野ー、まだやるのかー?交代でやってもらったけど、二回目の俺が立ってるのはさすがに疲れたぞー…」


「英輔…もう終わろう、これ以上やっても意味ない」


「…もうちょっと…もうちょっとだけ…頼むよ…」


「何だーまだ投げてたのかー、まあ同じ一年投手として頑張ってほしいけど…こんな状態じゃ、俺と争う事もなさそうだなー」


「おい館山!…まあお前の言うことも確かだが、あいつは今何かを乗り越えようとしてる…だからこそ見守るべきじゃないのか…」


「…正直嫌だね…あの時まで堂々としてた奴が、逃げ腰の制御不能ピッチャーなんざ、同じ部員でも一番興味ないね」


「…ははっその通りだよ隼人、館山の言う通り…まさか自分が自分でこうなるって思わなかったけど…何か鮮明に身体に染みついたんだろうな…はは」


「……とりあえずあとちょっとな…」

その後も数球投げたが変わらず、特別にグラウンドのマウンドに移動しても、ますます悪化したかのようにも見えた。


「くそっ!…くそおー!!…」


思わずグローブを叩きつけてしまった英輔、すると…。


「ったく俺が打席代わってあげたのによ…もう駄目だな、帰るわ…お疲れさん」


「英輔………お前、やる気あるのか?…こんな球捕ってた俺が恥だわ」


「隼人…何言ってんだ…俺は少しずつ何か…」


「お前の状態は技術どうのこうのの問題じゃねーんだよ!……てか…他の部員だって、頑張って練習して、効率よく必死にやってんだ…なのにな……あの程度打たれただけで逃げてんじゃねーよ!」


英輔は必死に訴えてくる初めて見た隼人の姿に、何も返す言葉がなかった、そして隼人は持っていたボールを英輔に投げた。


「…!?…イテッ…いきなりなにすんだよ!…」


「…そりゃー素手じゃ痛いよな!でもな、いつも厳しくインコース攻められて、デッドボール何回もくらってる一流のバッターのほうがな、もっと痛いんだよ!…それでもそういう風に投げてこられるほど、自分を凄いバッターだと思ってくれている、周りからもそのコースに投げてくる凄いピッチャーに思われているって感じるんだ……その瀬戸際の真剣勝負が、また自分をさらに強くさせてるんだ…それを投げることができないなんて凄いとも感じない、勝負してみたいとも思わねーんだよ!……わかるか英輔…それがな、海堂さんとの一番の違いでもあるんだぞ…」


「そうだな、そのままじゃクソつまんねーピッチャーのままだぜ?…それが嫌で悔しかったらな…インハイにズバッと!おもいっきり投げてみろや!この逃げ腰野郎が!!」


英輔は思った、たくさんの事を思った、でも決して怒りなどではない。


「__送りバントがどうしたの、嫌ならさせなければいい!外野フライ?なら打たせなければいい!__」


「__何も凄いと感じない、それが海堂さんとの一番の違いだ__」


(俺は…俺はそんなんじゃ……あっ!?)


「__でもその期待に応えること、立ち向かうこと…それって何か楽しいことじゃない?__」


「ほら来いや!…その程度の奴かてめーわよ!!」


「(……くっ!…俺はな……)楽しまなきゃ終われないんだよー!!」


そして何かを噛み締め、堪えながら……おもいっきり投げた…。


「………英輔…お前…」


「………いい球だぜ松野、それだよ」


(英輔……治ったのかこれって……ふふっ本当の勝負はこれからだぞ!)


偶然にも遠くから帰路の海堂と高峰が見ていた。


「松野のやつ、いい球投げたように見えたけど…」


「まあそうかもね、それに…あの顔はまさしく…(松野君、もう大丈夫なようだね…)」


英輔は晴々とした表情を浮かべていた、様々な想いとともに…。


(みんな……ありがとう!…俺、強くなって、また一歩前進したよ…)

後日の部活には、またあの時の英輔が見えていた。


「どうやら…あの様子だと松野はいつもの姿になったようだな」


「ええ、これで第二段階に進めますよ、監督もお願いしますね」


「………ボール、おいおいどうしたー?」


「おい隼人!今のは入ってるでしょ!…いいインコースに…」


「だから高校野球の規定、球児の平均身長を計算するとボール半個高い、まだ後遺症でもあるんじゃねーのかあー?」


「なっ!変な事言うなよなー!…審判ならストライクとるって……まあどんな球でもストライクと言わせるのも、凄い投手なんだよな?」


「そういうこと、よし!変化球も混ぜてやるぞ」

次の日の朝、クラスにて。


「いやー諸君おはよう!すっかり寒くなったが、まだまだ熱いぞー!はっはっはー!」


「英輔のやつ、何か昨日らへんから元気になったよね…何か逆にうるさいくらいだしさ…」


「さあ何でだろーね、美愛がイイ事でも言ったんじゃないのー?」


「私は特に何も…これから頑張ろうって感じで…」


「じゃあただ単純な奴なのか、まあ男子は嬉しそうだけど」


「英輔ー、そんな元気な中、朗報だー!…きたぞーくるぞーもう少しで……冬休みだぞー!」


「んっ?…そうかーもう十二月に突入してたのかー…今年も一ヶ月きったんだなー…」


「まだ終わりじゃねーぞ!…その前にあるだろほら、あれだよあれ!…」


康之が指を示している方向にはあの女子三人、でもどういう事なのか。


「あいつらがどうかしたのか?……おーい三人ともー」


「ちょっ…呼ばなくていいっての!……どうせならみんなでパーっとしようぜって事だよ」


「英輔なにー?…ずいぶんと元気になった様で、オホホホ」


「そうかー?アハハハ、康之がみんなでパーっとしようぜだって…だよな?」


「そのまま言うなよ…まあそうだけどよ…(言うなっての…)…冬休み入ったら、そのクリスマスとかあるだろ?だから…パーティーでもしたいなーなんて…」


「……いいじゃーん!しよしよー!…だって二日あるし、その片方でも十分出来るっしょ!」


「おーさすが!…西園寺とふみかはどうだー?」


「ふみかは前島君とデートあったとしても、もう一日は大丈夫でしょー…美愛は…大丈夫でしょー!」


二人は同時に言い返す。


「勝手に言うなー!…(まあ大概当たってるけどさー…)」


「という訳だ英輔、修一、よろしく頼むぞー!…クリスマスだし、色々あるかもしれないぞーグフフッ」


「お前何考えてんだ…まあせっかくやるなら、ホームパーティーだなー!」


「よし、人数多いほうが楽しいだろうから、誰か誘おう」


「はいはーい!じゃあ女子も招待しときまーす!」


「クリスマスパーティーか…よーし、楽しまなきゃ損だぜい!」

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