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HEROES  作者: 工藤カズナリ
10/34

Daily 10 〜勝敗〜

野球部はいよいよ県予選を迎え、順当に勝ち進めば決勝までは申し分ない。


そして思い通りに事は進み、甲子園まであと一歩のところまできていた。


「みんな良くやってくれた、明日で決まる、悔いのないように、私達らしい野球をするだけだと思っている、各自存分に力を発揮してほしい!…では安達から何かあるか?」


「はい、ここまでやってこれたのはみんなのおかげだよ、本当にありがとう…まだ終わってないけどいろいろあるんだが…」


「キャプテンしっかりー!」「安達ーそうーほらー」


「すまんな…とにかく行こう!俺らなら行けるぞ!甲子園にみんなを、亜星の期待を背負って一緒に行こう!」


いい音頭がとれた所で、その中後輩はどう思うのか…。


「…俺まで緊張してきたー、大丈夫かなー…」


「お前が緊張してどうすんだ、先輩方ならやってくれるさ」


そして…

決勝戦開始前、


「大岸さーん!いよいよですな、今日は宜しくお願いしますよ」


「こちらこそ川越さん、正々堂々、チャレンジャーとして挑みますよ!」


応援スタンドも一杯であり、雰囲気は最高潮。


「それにしても、両校とも全校応援なんだなー、すげー人の数」


「決勝は中継もあるらしいな、いい試合になるといいなー」


両校が一進一退で応援、これぞ高校野球の醍醐味である。


「プレイボール!!」


ライバル校であり、県内ナンバーワンの打撃陣で迎え撃つ、川越監督率いる天智学園との、甲子園への切符を掛けた大一番が幕を開けた。


ところが試合は緊迫した投手戦になり、両先発投手の好投が続いていた。


しかし、試合が動いたのは四回裏、安達がピンチを迎える。


「失投だ…甘い所を打たれた…すまん高峰」


「ここ抑えましょう、大丈夫です」


二ボール一ストライクの四球目、吉と出るか凶と出るか、バッティングカウント。


「おおーっと三遊間抜けたー!!三塁ランナーホームイン!天智学園、先制のタイムリーヒットが出ました!」


「…安達先輩まだイケますよー!踏ん張ってください!」


(踏ん張れ…みんなが点数取ってくれる…俺が抑えないと、誰が抑える!…)


渾身のストレートは…


「空振り三振!安達、最少失点で抑えました!さあ亜星打線の反撃なるか!」

しかし、天智の投手の前に手が出ず、1対0のまま七回裏へ。


「そろそろ定着したムードを変えていこう!まずはここを抑え、残りの二回に全力を出すんだ!」


大岸監督の言葉で、亜星ナインにも気持ちが入る。


「ここまでナイスピッチですよ安達さん、何とか反撃するので辛抱してください」


「高峰のリードが助かってる、よしいくぞ!」


ここで思わぬアクシデントが起きる、それはあの男の登場を余儀無くすることになる。


「うわっ!!…くそっ!」


「おおーっとピッチャー強襲ー!…内野安打になりましたが…安達、大丈夫でしょうか…」


「安達さん!大丈夫ですか!…膝ですか?」


打球が直撃、さすがに痛みは隠しきれない、スタンド席も困惑模様、一旦ベンチに下がっていくが…自分で歩くのも難しそうだ。


「まさか当たるとは…こんなんじゃ俺は厳しい……えっ!?準備するのか…」


スタンドのあの二人は、


「安達先輩、無理なのかなー…もろに当たったもんなー…」


「だな…だとすると…もう海堂さんしかないな」


「えっ海堂先輩投げるのか!?…あっ!あれ!」


「海堂…いけるか?まあお前しかいないとは思っていたが…」


「僕は…大丈夫です、いつも通りいきます」


「海堂!俺の代わりとか思うなよー!…おもいっきりいけ!…エース」


「エースナンバーは安達さんですよ、でも僕が打たれたら…責任は僕です…」


「今は気にするな!…やり切る事が三年は望んでいる、さあ…」


「……ピッチャー海堂!…任せたぞ、私も信じている」

「えっ!ちょっと海堂先輩じゃん!わーすごい!楽しみー!」


球場の三塁側スタンドは黄色い声援と、暖かい応援が入り交じっている。


「先輩、緊張してるよなー…こんな急にマウンド上がるって」


「海堂さんは…本人も思っている通り、いつも通りだよ」


急なピッチャーの登場に天智のナインは、そして川越監督は納得の顔が浮かんでいる。


「ほーあれが噂の海堂君か…大岸さんの…秘密兵器…見ものだなー」

「まさか出番が来るとはな、久しぶりのバッテリーで少し心配だよ、龍悟の球受けるの」


「僕は直隆を信じるだけ、安達さんの分も背負って、いつも通り投げる」


「…心配なさそうだな、打たれたら俺も重荷を背負うよ」


海堂はボールを受け取ると、自分の野球帽を見つめて一呼吸、そして表情が変わった、試合モードの海堂の姿に英輔は何を思うのだろうか…。


試合が再開、セットポジションからの初球、外角に140キロのストレート、一ストライク。


(スピードはそこそこか、まだ出てないのか、それとも…)


二球目、またも外角に145キロのストレート、二ストライク。


「ほーいい真っ直ぐだなー、お前らよく見ていけー!」


三球目、外角低めに148キロのストレート、一ボール二ストライク。


「先輩走ってるなー!さすがだー、受けたことある隼人もそう思うだろ!」


「いや、海堂さんはまだまだここからかな、そして天智のバッターも様子を見てる」


「えっ充分凄いと思うけど…」


(落とすか…?コースは龍悟の好きでいい)


サインに首を振る海堂。


(じゃあ流すか…?内側でもいいけど…)


それにも首を振る海堂、そして合図を送った、それに高峰は少々驚いたが…。


(ふー…じゃあおもいっきりこい!)


(僕は僕なりにいくよー僕らしく……)


渾身の真っ直ぐがミットに吸い込まれる。


「……見逃し三振ー!…最後もストレート!153キロが出ました!」


一気に歓声が湧く、さすがにこれは凄い。


「先輩すげー…153って…」


「球威もコースも完璧、あれはさすがに打てないよ、打てるようになりたいけどな」


「きゃー!海堂先輩すっごい!やばいねー!」


美愛は遠いスタンドからずーっとぽけーっとしているだけである。


「ほーさすが秘密兵器……だか…天智の野球、甘く見てもらっては困る」


この回は三者連続三振、全球ストレートで抑え、代役をしっかり果たした海堂。


「よーし今度は海堂の援護点だ!よく粘っていけー!」

すると亜星ナインが意地を見せる、ランナー一塁二塁の場面となり…。


「頼むぞ高峰ー!繋げろー!」


「俺は繋げるよりも……返したいんですよ!」


打球はセカンドの頭上を越え長打になる。


「よっしゃー!二人返ってこれるぞー!」


「さあ二塁ランナーが返ってきて同点!…一塁ランナーも回った回ったー!……クロスプレーは…」


「あーアウトかー惜しかったー!」


「うそーセーフじゃないのー!?」


しかしながら亜星は同点に追いつき1対1、投手戦となった決勝戦はそのまま九回へと突入した。


「甲子園をかけた決勝戦、大変素晴らしい試合となっております!」

「さあ最終回、最後の攻撃だ!なんとしてもやってやるぞー!」


エンジンが亜星ベンチ、ホームを盛り上げる。


そして、天智も投手を代えてくる、これが強豪校の象徴、人材も豊富だ。


何とか塁に出たいところだが、その投手の変化球に手が出ないナイン。


「セカンドゴロ、亜星は裏の攻撃、守り切りって延長戦に持ち込むことになります」


「ごめん…出れなくて…」


「…亜星の野球を最後まで見せよう!…海堂踏ん張ってくれ…」


研究が早い天智のバッターは、海堂の球に反応が良くなり始める。


「皆、この回で決めようじゃないか、うちも応援の皆さんに感謝せねばならん」


天智の全校応援も気合が入っている、二番から始まるこの回に勝負を決めたいようだ。

初球からスイングするバッター、名将川越監督はタダでは終わらない策士だ。


「んっ!セーフティーバント!?」


思わぬ形で対応が遅れるバッテリー。


「これは仕掛けてきました!……さあ内野安打となり、サヨナラのランナーが出ました!」


そして三番打者への二球目、賭けを見せた天智の野球。


「おっとランナースタート!……高峰の強肩との勝負は…セーフ!さあ天智は絶好のチャンスです!」


すかさず内野陣が集まって様子を見る。


「バッターに集中して、三盗はないだろ、勝負するぞ!」


このピンチどうするか…そして天智のサインは…。


「えっ三番でもやっぱバントかー……うまく転がしたなー…」


(これは参ったな…どうするんだ龍悟…)


「僕は大丈夫、大丈夫だ、必ず抑える」


甲子園への道のり、どんな形でも一点の重圧はとてつもなく影響する、四番打者への初球もそうであった…。


「おっフライだかー!……これは狙った打球でしょうかー!?」


「…やられた…レフト!」


「おい、まさか海堂さんから…いや…距離はそんなに…」


数々の声がこだまする中で、只々、自分達の野球が通用した方が勝つこと、その凄さを知った英輔は改めて、高校野球は何が起こるかわからないことを思い知った。

「これが…天智の野球だ、申し訳ないな…海堂君」


「こんな結末…これでゲームセットなのか…アウトでこんな単純なこと、あるのかよ…」

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