お嬢様が偉そうに「時間蝿は矢を好む」と宣言してきた単元
「ねえ先生」
「なんですかお嬢様」
「昔は機械も馬鹿だったんだって」
「あなた、機械も含めて他人様に馬鹿とか言える立場ですか?」
「うるさいわね。まあいいわ。先生、これ訳してみてよ」
Time flies like an arrow.
「『光陰矢のごとし』ですね。ことわざですよ」
「いやだ先生、先生も馬鹿だったのね。これは本当は『時間蝿は矢を好む』って訳すのよ。それが、機械翻訳は馬鹿だから、『時間は矢のように飛ぶ』って訳しちゃうそうなのよ」
「別に間違ってませんけど?」
「え? 間違っているわよ」
「お嬢様、それどこで聞いてきました?」
「カフェ」
「誰かから直接聞いたんですか?」
「ううん。隣の席のカップルの男性が彼女に自慢げに話しているのを又聞きしたの。あ、先生より不細工な人だったから安心してね」
「バカップルなどに興味はありません。それではお嬢様。『時間蝿は矢を好む』とは、どういう意味ですか?」
「そのままよ。時間蝿という虫は矢が大好きで、矢の後を追って飛んで行くのよ。ハンター×ハ○ターにも出てきた、『ダツ』という実在する魚と同じくらいやばい虫なのよ」
「そういう知識だけはちゃんと残っているんですね。本当に好き嫌いの激しいおつむです」
「何でよ! ぐぐってもたくさん検索できるわよ! 時間蝿!」
「試しに画像検索してごらんなさい。蝿、います?」
「ぐぬぬ。なら、意味を教えなさいよ!」
「光と陰、これは太陽と月。つまり1日は矢のように過ぎ去ってしまい、二度と戻ってこない。だから、1日1日を大事にしましょうという意味ですよ。お嬢様、機械翻訳をかけたの、最近でしょ?」
「うん。ついさっき」
「そうですか。時間蝿の話は、昔、機械翻訳が時間蝿うんちゃらと訳し、技術者も『論理的には間違っていない』と食い下がったという笑い話です。
今の翻訳はきっちり直されていますからね。ついさっきなら正しく表示するでしょう」
「ふーん。わかったわ。でも、時間蝿って名前もかっこいいわよね。『プリキュア・タイムフライズ・アロー』とか必殺技が出ないかしら」
「番組ホームページにメールしてみたらどうですか。由来もつけたら採用してくれるかもしれませんよ」
まあ、半日が無駄になったわけでもないのでよろしいか。ということでそろそろお昼。俺はいつもの様に台所に向かう。