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第二話  謝礼

「じゃあ、金貸して」


それは礼をさせてくれと言う少女への隼人の要求だった。


「え、えっとお金、ですか?」


少女は戸惑う。

礼をする気はあるが、所持金はそこまで持っていないのだ。


「え、えっと・・・・・・」


「・・・・・・もしかして持ってないのか?」


「すみません・・・・・・。これがないとお家に帰れないんです・・・・・・」


「・・・・・・安心して良い、そんなに大金を取るつもりはない。100円。それだけで良い。その100円もすぐに返す」


「100円、ですか?」


「さすがにそれくらいは持っているだろう?」


「え、ええ・・・・・・」


少女は100円くらいなら、と財布から100円を取り出し、隼人に手渡す。


「ありがとう。少しの間借りる」


「い、いえ、お礼を言うのは私の方ですし!そ、それでは!」


ありがとうございました!と頭を下げた少女は回れ右をして駅の方へ行く。


「おいおい、待て待て!」


「は、はい!なんでしょうか」


「なんでしょうかじゃないだろう。・・・・・・もしかして、このあと予定でもあるのか?」


「い、いえ!このあとはただ自宅に戻るだけです」


「じゃあこのあと時間あるな?」


「え、ええ・・・・・・」


隼人は少し考えて再び少女に要求する。


「10分くらい俺に時間をくれないか?」





「ここは・・・・・・」


「ん。パチンコ屋」


隼人が少女の手を引いてきたのは駅前にあったパチンコ屋。中の騒音が自動ドアが開く度に外に漏れる。

少女はいきなりこんなところへ連れてこられて呆然とする。


「ここで待っててもらえるか?10分ほどで戻る」


「え、ちょ、ちょっと・・・・・・!」


隼人は少女が何かをいう前に騒音の中へ飛び込んで行く。

伸ばした少女の手は何かを掴むことなく空を裂く。

少女は嘆息し、植え込みに座り込む。どうやらこれはもう、隼人を待つしかないらしい。

少女は再び嘆息する。


十分後、隼人が紙袋を抱え、パチンコ屋から出てきた。

少女は隼人に文句を言おうと早足で隼人の前まで立ち、口を大きく開けて――


「あな――ん!?」


「どうだ甘いか?」


口の中にほろ苦く、しかし甘い物が放り込まれる。


「おいしい・・・・・・これは?」


「チョコだ。新製品らしい」


「もう一個頂戴!」


「ああ」


「あま~、ってそうじゃなくて!」


「うん?美味くないか?」


「いや、美味しいけど!そうじゃなくて!何で私を置いて遊びに行ったの!?」


「遊びに行った訳じゃない。金を稼ぎにいったんだ」


「へ?」


「キミの取り分だ」


そう言って隼人は紙袋から茶封筒を取り出し、さらにその中から一万円札を3枚取り出した。


「え、えっとこれは?」


「言っただろう?キミの取り分だ。これらはキミが貸してくれた100円で得ることができた。だから貸してくれた100円とそのお礼で3万。足りないならまだ出すが・・・・・・」


「いやいや、充分だよ!?充分すぎるよ!?」


「そうか?それと落ち着け」


さらに茶封筒から札を出そうとする隼人を少女がとめる。

あまりの驚きにパチンコ屋にくる前までだった敬語がどこかへ吹っ飛んでいる。

当たり前だろう、助けて貰ったお礼に渡したはずの金が300倍になって帰ってきたのだ、驚かないわけがない。


「あ、そ、そうだ、あの・・・・・・ごめんなさい」


「うん?なにがだ?」


深呼吸をして落ち着いた少女はいきなり頭を下げた。隼人としては謝られる謂われがないため、疑問に思うしかない。


「あの、せっかくお金を増やしていただいたのに、あんな態度をとってしまって・・・・・・」


「いや、此方こそ悪かった。そう言えば一切説明してなかったな、謝る」


「そんな・・・・・・っ」


隼人も頭を下げるが、少女はあわてて頭を上げるように言う。


「しかしそうか、だいぶ心労をかけてしまったようだな。よし、じゃあ、お詫びをしよう」


「お詫び・・・・・・?」


「幸い軍資金は沢山ある。何処か行きたいところはないか?」


「・・・・・・連れて行ってくれるんですか?」


「ああ。何処へでも」


少女の目が輝く。そしてアレもこれもとぽつぽつと呟く。

隼人はその少女の年相応の反応にクスクスと笑う。


「あ・・・・・・すみません・・・・・・」


「いやいや、悪い。その敬語とキミの雰囲気のミスマッチがおかしくてね。つい笑ってしまった」


「・・・・・・変、ですか?」


「変と言うわけではないよ。その敬語は社交界に出たって通用するほどのものだろう。ただ、キミの虚勢を張った雰囲気と合わないなと思っただけ」


「!?・・・・・・虚勢なんて、張ってません」


「そうか?まあ、キミがそう言うならそうなんだろ」


フゥと一息ついて、呼吸を整える隼人。顔を上げるとそこには仄かに顔を赤く染め、目尻に涙をためた少女の顔があった。

それを見てしまった隼人は少女の顔を己の胸に埋める。


「え、え?え!?」


「動くな」


少女はいきなりのことに驚き、隼人の胸で暴れるが、拘束力のある隼人の声で動きが止まる。


「えっと・・・・・・」


「今のキミはこれから遊びに行くって顔じゃない。元に戻るまでこのままだ」


「・・・・・・」


「キミの顔は誰にも見えてない」


「・・・・・・」


「周りにも、俺にも」


「・・・・・・」


「ため込んだものは吐き出せ。遊ぶのはそれからだ」


「・・・・・・ぅぅ」


少女は隼人の胸で泣いた。極力声を出さすに泣いた。永くため込んだものを全て吐き出すように。

隼人はそれをなにも言わずに受け止めた。なにも言わず、少女の頭をなで、全く動じずに受け止めた。

少女が顔を上げたのはそれからしばらくしてからだった。目尻は泣きはらして赤くなり、目の下はマスカラが流れて黒くなっていた。


「ぷっ・・・・・・パンダ・・・・・・」


「!はわわ・・・・・・!」


「ああ、袖で拭くな、もっと広がるぞ。クレンジングシートあるから。あー、取り敢えず向かいの公園行くぞ。顔、背中で隠して良いから」


「ご、ごめんなさい」


「謝らなくていい。と言うか、もっと他の言葉が欲しいぞ」


「・・・・・・ありがとう」


「よくできました」


少女は隼人の背中に顔を隠しながら道路を横断する。

その顔は泣く前より、赤く染まっていた。


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