表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/46

そして彼等は、ここから“はじめる”

「ああ、そういえば、

おまえさっき、急いだほうがいいというようなことを言っていたよね?

もしかして、討伐に関してのことだったのかな」


「……、初めから、手がつけられなさそうだったら

数十人連れてきた魔術師に、ここを爆破させることになっていた」


「なんだって!?ありえないよ!

そんなことをすれば、近辺の村にも飛び火するに決まってるじゃないか

村を焼け出されたら、みんな生きていけないのに!

あの馬鹿女!どれだけ、魔法が万能なものと思ってるんだい


おまえもおまえだよ、盲目なのはわかるけどね!

少しは反対でもしたらどうなのかなぁ!」


リストはぼそ、と口の中だけで何かを呟くと、目をそらしてしまった。

更に追求してやろうと、口を開いた時だった。


んぅ、とむずがるような、幼い声が聞こえた。

怒鳴り声によって目を覚ましてしまったようだ。


「モニカ!無事かい?意識ははっきりしている?」


「んん、アカネちゃん……?

あっ、お姉ちゃんは!?キッサは!?」


「大丈夫さ、たぶんみんな掠り傷で済んでいるはずだよ?」


「アカネちゃんも?」


「うん、そうだね、私は体が頑丈だから、問題ないよ」


モニカを下ろしながら、誰が頑丈なんだ、とリストが不満そうに言った。

うるさいよ、と遮って、モニカを抱きしめた。


「モニカ、怖かったろう?

もう、大丈夫、迎えに来たよ、何も怖いことなんてないからね」


一人でよく頑張ったね、偉かったね、もう頑張らなくていいんだよ

そう告げると、モニカは、声を押し殺すように泣いて抱きついてきた。


「だけど、ごめんね、あまり時間がないんだ

早く、ヘレナを迎えにいかなくてはね」


うん、と目をこすりながら頷いたモニカは、視界を巡らせ

ぴしりと固まった、


「え、ぁ、あっ!銀色のオオカミ……?……勇者、さま!?」


「おや、見ないうちに随分と有名になったものだね、リスト」


「昔からだし、有名になったのはあんたのせいだからな」


あんたが、仕事以外で外に出なかったから知らないだけだ。

そっけなく呆れたように言った。


「あ、まさ、か、聖女、様……っ?

タカトオ様!?」


「うん、そうだね、そう呼ばれていた時もあったよ」


「っ!!」


「モニカ、頼みがあるんだ。

穢神は、私が浄化した、


彼女はね、悪い人たちのせいで、暴走していたんだ。

だからといって、全く悪くないわけではないけれど

でもね、どうか、許してあげてくれないかな」


「私はだいじょうぶ、です

あ、あ、のっ!タカトオ様は、許してあげ、ますか?

神様、ずっと、ごめんなさい、って

タカトオ様にごめんなさいって、いってましたっ

だからっ」


「モニカは、いい子だね、優しい子だ

ねえ、もう一つ、ヘレナを支えてあげて

私はもう、一緒にはいられないから」


「……アカネちゃん、どっか行っちゃうの?

あ、ご、ごめんなさいっ」


思わず、といったように、彼女はぽつりと零した。

気づいて、慌てたように口を塞ぎ謝った。


「いいや、それでいいよ、どうか今までどおりで、

私は、もう、聖女ではないから。

けれど、きっとね、能力を与えられた時点で、責任はあった。


本当はね、もっと前に行かなくちゃならなかったんだよ」


続けようとすると、リストに遮られた。


「聖女、早くしたほうがいい。

話すなら、後にしろ」


「そうだね、だけど、おまえもいい加減聖女と呼ぶのはやめてくれないかな

私はもう聖女ではないし、だいたい、まぎらわしいよ」


「なっ」


彼の目尻に朱が差して

わずかに泣き出しそうな顔をした。


「あっ!アカネちゃ、アカネ様っ!

ダメ、です、あのね、さっき言えなかったです、けど


獣人たちは、本人が名乗らない限り、名前を知ることができないの、です

誰が名前を呼んでも、ほかの人に名乗ってもダメです。

聞こえない、だそうです」


「え、な、なんで……っ!」


「神様が、そう決めたんです。

魔法を使える人が多い、からとか」


ゆっくりと振り返ると、ぎぎ、と軋んだ音がした気がした。


「り、リスト、私、まさか名乗って、なかっ、た……?」


「ない」


冷たい目で、ぴしゃりと切り捨てられた、


「常識知らず」


「うっ」


「そ、それでね、だから、名前を教えるってことは、

信頼とか、親愛の証になるんだよ、です」


「うう……」


もしかして、もしかしなくともとんでもなく失礼な事をしていたんじゃないか。

そういえば、キッサの時はまだ怪我が辛くて、

ヘレナが紹介してくれたから、任せたんだった。

リストの時は、記憶が曖昧で思い出せないけれど、

何かで頭がいっぱいだった気がする。



「り、リスト、あの、ごめん、なさい」


「もういい、あんたの言葉の裏を読もうとした俺が馬鹿だった。

……名前は?」


「あかねっ、高遠茜って、いうの

あかねって呼んでほしい、な」


「ああ」


そのまま踵を返して歩き出してしまった。

後ろをついて行くと


「アカネ」


ぽつりとリストが名前を読んだ

じわりと胸に熱が灯った。

名前を呼ばれるだけの、たったそれだけのことが、こんなにも嬉しい。


「うん、なんだい?」


「アカネ」


「うん……?」


「……アカネ」


「……ふふ、うん」


下から覗き込もうとすると、

手で、顔を押しのけられた。


彼の手を取って、繋いだ。


「ねえ、どこにも、行かないでね、

私を、おいていかないでね


いっしょに、いこう」


彼がいるなら、きっとだいじょうぶ。


繋いだ手から、ぬくもりが伝わる。

もう二度と、逢えないと思っていた彼が傍にいる。

名前を呼んでくれた。

触れられる。


その全てが、あんまりにも幸せで、幸せすぎて、

どうかどうか、時間よ止まれと希った。


「ああ」




だけど、知っている、私に幸せになる資格などない事くらい。

彼を騙して、みんなを欺いて、嘘をつき続ける。

罪を重ねて、もうどこにも居場所なんかない。だから

だから、少しでも長く彼をつなぎ止める為に、

私は、どんな事だってしようと決めた。

償いにもならないけれど、世界を救って見せようと決めた。







たとえ、それが自らの精神を殺し続けることになるとしても。



あと数話と、挿話で、一章が終わります。

とても長い話になると思いますので、よろしければお付き合いいただければと思います

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ