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プロローグ

ふ、と意識が浮上する。


あたりは薄暗い。

滲むような冷気が、指先を軋ませた。

冷たさを感じたあとに、焼くような熱が、じりじりと、躰を苛んだ。

熱だと思ったものは次第に、すべてが痛みへと変換されていく。

気が違いそうな程の痛みが、脳髄を焼いた。

痛みによって、微睡んでいた意識が、現実に引き戻されてしまった。


は、と、漏れた自嘲まじりの吐息に、叫んで潰れた喉が痛みを訴えた。



あ、そっか、ここは、地獄だったんだっ、け。



冷たい地面に転がった、少女は、そんなことを思った。

細い手首には、あまりに似つかしくない、重たそうな鉄の拘束具が

少女の躰を縛り付けていた。

枷は、少女の柔い肌に食い込んで、溢れ出た血は黒く変色して固まっている。

粗末な服に隠された肌はさらにひどい。

生きていること自体が、奇跡だと言わんばかりの傷跡が肌を彩る

凄惨な暴行の痕が、ひどく生々しい。


虚ろな瞳を、ゆらりと彷徨わせ、ぽたりと涙をこぼした。


私は、生きている。


だから、ここは地獄などではない。

けれど、生きているからこそ、死ねないからこそ


私にとって、この檻は、地獄というにふさわしい。


下卑た嗤いが、耳に蘇る。

生ぬるく、節くれた硬い手が躰を弄る感触が思い起こされて、吐き気がした。



よろよろと手を伸ばした。

誰かに、縋ろうとするように、


だが、すぐに、枷の重みに負け、伸ばした手は、地面に落ちた。


だけど、私は知っている

そう、知っているのだ。

誰も、その手をとってくれる人などいないことくらい。


知らず、ひきつるように自嘲う。

それは、どこか病んだ笑い方だった。


「ばっ、か、じゃない、のか」


だって、たった一度、たった一人だけ

求めて、伸ばした手は、疾うに弾かれていた。苛烈な拒絶とともに


おまえだけだったのに。

この世界で、望んだ、唯一だったのに


弾かれてしまった、突き放されてしまった、嫌われてしまった

もう、おまえさえ私をいらないという


だから、もう



「ふ、うあ、ああ、あっ、うぁああああああぁぁあああああん」



このせかいには、もう、すくいなど、ありえない


アイスブルーの瞳をもつ彼に会うことなど。

できないのだから。


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