表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/46

彼女が友と呼んだ神の独白


一人ぼっちで、泣き続ける少女

哀れで、愛しいあの子。


やだ、と、たすけてと、かえりたいと、こんな世界は、嫌いなのだと、

しんでしまえと、こんな、せかいは、滅んでしまえと

拒絶し呪う少女を、神たちはさらに厭った。

仮にも、元は聖女候補であったというのに、元の世界で健やかに成長する聖女とは何たる差だ、と蔑み、貶した。


もはや、恒例になっていた聖女の選定をする際、力のある神が戯れに、提案したという。

あちらの世界にいる幼い間から、祝福の能力を授ければ、

聖女は敗北や悲しみ、痛みや嫉妬や憎しみを知らず、

汚れることなく、清い心のままでこの世界に来るのではないか。と


それには反対意見が出た、能力をさずけている間、聖女は空位になるではないか、と

ならば聖女候補だった一人に僅かな能力を与え、臨時の聖女とすればいい

すぐにほとんどの神は、納得し、諸手を上げて賛成した。

何柱かの神は、反対したものの、上位に位置する大神達が賛成派だったため、

臨時の聖女に定められる者が哀れだという意見は、聞き入れられることはなかった。


大神の中で唯一の反対派で、なぜか沈黙を守っていた神に

直接、直談判をしに行った。しかし帰ってきた言葉はあっさりとしていた。


「今、僕たちが何を言ったって、変わらないよ、奴ら耳なんて傾けないからね

無意味なことはしない主義なんだ。下手なことをして悪化させたくないし

君も、目をつけられないように黙っていなよ

それで、臨時だかの聖女が来たとき、君が味方になってあげるべきだ」


そっちのほうが無意味な抗議より、よほど価値があるよ。

言い切ったあと、もう話すことはないと言うように

彼は眠り込んでしまった。


祝福の能力を持った神は、ほとんどがこぞって次代の聖女に能力をさずけた。


後に、次代の聖女の話を聞いたあの子は、まるでメアリー・スーね、といった

聞き覚えのない言葉に、首をかしげると、

ぼくのかんがえたさいきょうの……、ってこと

あんまりにも子供っぽいよね、と続け苦く笑った。


ああ、でも全て持っているからって、本当に幸福になるものなのかな。

幼稚だという意見には賛成だった。けれど

そのときは、あの子が憐れむように言った意味を真実、理解していなかった。


我らは、その愚かさ、幼稚さ故に、二人の少女の魂を歪めてしまった。

一人は、タカトオ。全てを奪われ、与えられることのなかった少女。

我は、無力さ故に、召喚には立ち会えなかった

そこで彼女がどれだけ、傷つけられたか。知ることさえできない。

会えるようになった時には、もう彼女は深く傷ついて全てを拒絶していた。


能力など関係なく、タカトオは賢くて、聡く、繊細なこどもだった。

もしも、彼女が正式に聖女になっていれば、

悲しみに、痛みに同調し、歓びを、幸福を祝福し、

民の弱さや過ちさえ救い上げることができる、

なにもかも赦し、受け止め、愛せる、優しく強い女性になっていただろう。


けれど、時の狂乱の犠牲になった少女は、全てを与えられた少女の理想と比べられ

蔑まれ、傷つき、ひとりきりで、助けを求める相手さえいなかった少女は

その痛みのあまり魂は変質し、自らの殻に閉じ篭ってしまった。


何を言おうとも、彼女は信じられずに、神には会わなかったし、

人の押し付けてきたものは、諾々と受け入れたけれど、


彼女は、世界を呪った。


やだ、と、たすけてと、かえりたいと、こんな世界は、嫌いなのだと、

しんでしまえと、こんな、せかいは、滅んでしまえと


人からも、神からも、傀儡に貶められた少女は、

かえりたいよお、と泣いた。


哀れで、無力で、愛しいこども。


苦痛と、孤独が彼女の魂を蝕んでいくのが、見て取れるようで、

焦燥感に、自らの無力さを苛む日が続いた。



けれど、唐突に、少女の日々が一変した。


きっかけは、奴隷に落とされ傷つき疲れ果てた、獣人の少年だった。

元は、しなやかで、強く美しかったと思われる彼の魂は、

その時、既に、歪み病みきっていた。


彼の拒絶は、彼女を傷つけると思った。

引き離そうかとさえ考えたものの、彼女は、驚く程献身的に面倒を見た。

今まで、生きていくのも儘なら無い日々など悪夢だったかのように

その時は、まだ誰も寄せ付けようとしなかったものの

世界を呪うことはしなくなった。

泣かなくなった。涙が滲むことはあっても、どうにか彼の前では笑ってみせた。


ある夜に、彼女は彼を救った。

血で穢れた彼を、受け止め、求めることで、

奇跡のように、彼の心を救いあげて、抱きとめてみせた。

彼は、彼女を、守ると、一人にしないと誓った。


それからは、二人はずっと共にあった。

共にあることが当然で、今までが間違っていたとでも言う様に

彼女は支えを得て、立ち上がった。

まるで彼女が本来なるべきだった、聖女の姿に戻るように


民を救い、罪悪を罰した。

神にも数柱の味方を作った。

無力な我を、友とよんでくれた。


痛々しいほどに傷つき、けれど、

それでも、立ち上がり、歩き続けようとするその魂は

どこまでも、きっと誰も敵わないほどに美しかった。


ただしく彼は、彼女のもので、

ただしく彼女は、彼のものだった。


それを誰も理解しようとしなかった。

おそらくは、当人たちでさえ。

求めた相手が、疾うに自らの腕の中にあることに、気付いていなかった。


だからこそ、こんな悲劇が起きたのだ。

悲劇以外の何者でもない。こんなふうに引き裂かれていい二人ではなかった。

次代の聖女の、理想に取り憑かれた神らにとって、

彼女は、ただの代用品でしかなく、

神が作った器に入れられた彼女は、都合よく動かせる操り人形でしかなかった。


聖女の味方が、揃って遠ざけられた時に、彼女は元の世界に戻された。

戻ってきた時には、もう全てが終わっていた、彼女はいなかった。

彼女を失った彼は、救われる前よりも歪んでいた。



我らは何が起きたのか理解できないまま、次代の聖女は召喚された。

名を、アイサカミツキといった。

ミツキは、明るく、自信に満ち溢れていた。

美しく、強く、優しいミツキは、神らの理想そのものだった、

人も神も、揃って沸き立った。

しかし、それも長くは続かなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ