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真直の嫁入り  作者: 鳥柄ささみ


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第七話 買い物

 車酔いすることなく世間話に花を咲かせ、楽しい時間を過ごしているとあっという間に百貨店に到着した。


 初めての百貨店はとても煌びやかで、何もかもがキラキラと眩しい。あまりに現実離れした場所過ぎて、こんな素敵な空間に自分がいてもいいのかと戸惑うも、「さぁさぁ、行きましょう。真直さん」と奥様から腕を組まれてグイグイと引っ張られてしまえば、抵抗するわけにもいかず、困惑する間もなくそのまま売り場へと連れて行かれてしまった。


「こっちもいいけど、これも可愛らしいわね。うーん、どうしましょう。悩ましいわ。真直さんはどれがいいと思う?」

「えっと、そうですね……奥様のオススメで……」

「ダメよ、真直さんのなんだから。別にこれでなくても色とか形とか好きなものはない?」

「私の好きなもの、ですか……」


 今まで選択肢がなかった私にとって、自分の好きなものというのは全く考えたことがなかった。

 そのため、自分の好きなものと聞かれても、正直何と答えたらいいのかわからない。


(好きな色、好きな形……どういうものが私は好きなんだろう……?)


 色々なものを見せてもらってもこれと言ったものがない。

 好きなものを探すというのは存外難しく、思考を巡らせるもすぐにはなかなか見つからなかった。


「……って、すみません。お時間が……」


 つい思考に夢中になりすぎて、思ったよりも時間がかかっていることに気づく。

 このまま待たせてしまうのはしのびないと適当に選ぼうとするとこちらの思考を察してか、「いいのよ、時間をかけたって」と奥様から制されてしまった。


「ですが……」

「急かしてしまったのならごめんなさいね。でも、今回は真直さんのために買い物に来たのだし、せっかく買うなら自分の気に入った方がいいじゃない? だから、時間がかかってもいいのよ。お買い物とはそういうものなのだから。私に気にしないで自分の欲しいものを選んでちょうだい」

「わかりました」


 頷いたもののまだ何となく気は引けている。

 けれど奥様が意図することはわかるので、私は気が引けつつも自分の気持ちに素直になろうと努めた。


「好きなもの、好きなもの……」

「無理に考えなくてもいいのよ。ほら、パッと見て目についたものとか、何となく可愛らしいって思ったものとか、ちょっとした気持ちの変化でいいのよ。ねぇ、花さん」

「はい。真直様がつい目が向いちゃうものとか色味や柄で素敵だと思うものとかお選びになるとよろしいかと」

「なるほど」


 奥様と花から助言をもらって考える。

 パッと目につくもの、色味や柄で可愛らしいと思うもの。言われてみれば確かにそう言ったものはあるにはあることに気づいて、これが自分の好きなものなのかとちょっと驚く。


(でも、こんな華美なもの。私に似合うだろうか……)


 ずっと陰気でパッとしないと言われて育ってきたため、どうにも自信が持てない。周りからは私を気遣ってかそんなことないと言われることもままあったが、どうしても長年言われ続けているとどうしてもそちらのほうに引っ張られてしまう。


「こんな可愛らしい服、私に似合うでしょうか……?」


 つい弱気な言葉を吐き出してしまう。

 こんなことを言ったら優しい奥様のことだ。

 私を気遣って「そんなことない」と否定するに違いないのに、浅はかな私は何て愚かなことを言ってしまったのだろうかと自己嫌悪していると、奥様から「何を言ってるの」と真剣に真顔で言われてしまって思わず面食らってしまった。


「え……?」

「真直さんは美人よ。誰がどう見ても顔立ちが整ってて背も高くてすらっとされてるじゃない。今で言うハイカラよ、ハイカラ! そんな素敵なお顔立ちで自分のことを卑下したら嫌味になってしまうわ!」


 まっすぐ間近で見つめられながら熱弁されて、たじろぐ。

 こんなにも真剣に褒められたことなど今までなかった私にとって、奥様の言葉は衝撃的だった。


「そう、でしょうか……?」

「そうよ! まぁ、もちろん可愛らしい系や清楚系、美人系など差異はあるだろうけど、好きなものを着たらみんな可愛くなるものよ。ということで、もう似合う似合わない考えないで好きなものを選んでちょうだい!」


 奥様の勢いに圧倒される。

 でもその言葉には悪意など全くなく、実家にいたときの嫌悪感はなかった。


「わ、わかりました。……では、えっと、こちらのワンピースが華やかで可愛らしくていいかなって……」

「いいわね! 明るい色味でこの襟が可愛らしいわ。じゃあ、これにしましょう」


 奥様はすぐにこれにするわ、と花にワンピースを預ける。そこで会計に向かうのかと思いきや、すぐさま私の腕を組むと「では、次のとこに向かいましょうか」とそのまま引っ張って行く。


「えっ、あの、次……ですか? お買い物はもうこれでおしまいでは?」

「やだ、真直さんったら何を言ってるの。お買い物は始まったばかりじゃない! 一着だけで終わりだなんてガス代がもったいないでしょう? 真直さんのお洋服を買いに来たのだし、せっかく来たのだからいっぱい買うわよ」

「ですが、お金……私……」


 このワンピースだけでも目が飛び出るような金額である。それなのにまだこれ以上買うのかと思うと、どうしても二の足を踏んでしまう。


(絶対に持参した荷物が少ないから奥様が気を遣ってくださってるのよね。申し訳なさすぎて心苦しい)


 持参金もほぼなく、私に返せるものは何もない。

 ただ嫁に来たという事実しか価値のない私にこんなにしてくれようとしているお心遣いに負い目を感じていると、奥様はそれを察したのかそんな気持ちを払拭するようににっこりと微笑んだ。


「いやぁね、私が払うに決まってるでしょう? 我が家の資産をみくびられては困るわ! お嫁さんに服を買うくらいの甲斐性はありますよ。だからほら、そんな矮小なことは気にしないで次行くわよ、次!」


 これ以上しょうもないことを考えるなと言わんばかりに、先程よりもさらに強い力で引っ張られる。それでもまだ戸惑っている私の背を、今度は花が大きく押してきた。


「ほらほら、真直様! たくさん見て回るんですから、さくさく進みましょう! さくさく!」

「こら、花。あまり真直様を急かさないの」


 奥様、花、美代さんがそれぞれ自分に気遣ってくれているのがわかる。

 だからこそ、ずっとこのまま負い目を感じたままでいるのは逆に不誠実だと気づいた。


「皆様、ありがとうございます」


 私が感謝の言葉を述べると、三人がそれぞれ微笑む。

 そして、その後これでもかと百貨店を網羅するくらいたくさん歩き回るのだった。

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