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真直の嫁入り  作者: 鳥柄ささみ


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第三十話 鍛錬

 あれから二ヶ月、有馬様は特に問題なく過ごしている。


 先生の元へ定期的に通院して、先生に言われた通り規則正しい生活を心がけ、早寝早起きをして食事を三食栄養が偏らないようにしながら食事制限を気にすることなくたっぷりと食べ、体力をつけるために毎日一緒に散策やちょっとした鍛錬をする日々。


 また、徐々にではあるけれど減薬も進めていて、清水医師が言っていた揺り戻しの懸念はあったものの今のところは何もなく、むしろだんだんと体力がついて咳や発熱といった症状もほぼなくなっている。

 腕にあった発疹も綺麗さっぱり消えて顔色もよくなり、身体つきも良好で身長まで伸び、有馬様は以前とは見違えるほど健康的な姿になってきていた。


「有馬様。そろそろ、休憩なさってはいかがですか?」


 現在、昼食後の鍛錬とのことで中庭で竹刀を振る有馬様。

 今までは立って歩くのさえ困難だった有馬様が、今やこうして竹刀を振れるようになったのは感慨深いものの、さすがにまだ冬の寒さが抜けきらない立春に三十分以上竹刀を振り続けているのはまだ時期尚早なのではと心配になる。


「もう少ししたらやめるよ」

「もう少しっていつです? まだ風が冷えますし、病み上がりなのにご無理なさってはダメですよ。せっかく元気になったのに、悪化させてしまったら本末転倒です。一度休憩なさってください」

「真直さんは手厳しいな。でも、確かに一理ある。じゃあ、一度休憩にしようかな」


 私の説得に折れる形で有馬様が竹刀を下ろす。私がそれを受け取ろうと、小走りで駆け寄ろうとしたとき、何かに躓いてしまってそのまま前のめりになる。


「わっ」

「真直さん……っ…………」


 私を支えようと有馬様が受け止めるように腕を伸ばしてくださるが、小走りしてた勢いもあってかそのまま有馬様に抱きしめられながら有馬様が尻餅をつく形で一緒に転んでしまう。


「申し訳ありません、有馬様! 大丈夫ですか!?」

「うん、大丈夫。……だけど」

「え、もしかしてどこか打ちました? って、すみません。重いですよねっ! すぐにどきますっ」


 慌てて身を起こそうとすると、なぜかギュッと抱きしめられる。余計に有馬様にのしかかる形になってしまってあわあわとすれば「あー、カッコ悪いなぁ……」と有馬様が溢した。


「有馬様?」

「こういうとき、真直さんを軽々と受け止めて何でもなかったようにしたいのに。鍛えていたつもりだけど、僕もまだまだだなと思って」

「そ、れは……。でも、以前に比べて格段に逞しくなっていると……思、います……」


 前回抱きしめられたときには感じなかった有馬様の胸板の厚みと弾力。ものすごい厚みがあるというわけではないが、以前に比べてどう考えても胸板が分厚くなっている感触があった。

 それに気づいて言葉にしたものの、なんだか自分が有馬様の身体つきに対して詳しくなっていると自称しているような気がして、だんだんと恥ずかしくなって言葉が尻すぼみになっていく。


「真直さん照れてる?」

「いえ、だって……っ! もう、有馬様ったら揶揄わないでくださいっ」


 恥ずかしくなって膨れていると、頭上から「可愛い」と言葉が降ってくる。

 そして、宥めるように頭を撫でられ頬に口づけられた。


「冗談だよ、拗ねないで。でも実際、以前に比べて食べる量に合わせて肉づきはよくなってはきてるけど、もう少し筋肉が欲しいなとは思ってるよ。真直さんを軽々と抱えられるくらいにはね」

「抱えていただかなくても大丈夫ですよ」

「僕が抱えたいんだよ。正確に言えば、それくらい力が強くなって真直さんを守れるようになりたいんだ」

「有馬様……」


 頬に手を添えられ上向かせられる。

 いよいよ唇が触れそうな瞬間、「くしゅんっ」と小さく有馬様がくしゃみをした。

 そこで私はハッと我に返って立ち上がると、有馬様の腕を引っ張った。


「ほら、有馬様。お身体に障りますからまずはお部屋に戻りましょう」

「そうだね。接吻はそのとき改めて」

「もうっ、有馬様ったら!」


 すぐにまた軽口を言って笑う有馬様。

 そんな有馬様を嗜めつつ、私は有馬様の腕を引っ張って私室へと移動するのだった。

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