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真直の嫁入り  作者: 鳥柄ささみ


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第二十七話 納得

(私のせいで有馬様の印象が……でも、あの悪意を放っておくわけには……)


 会計を終えて車に乗り込みながら、私はぐるぐるぐるぐると自省と自身にあてのない問いをし続けて考え込む。


 そもそも、清水医師がどうして薬のことなど聞いたのに教えてくれなかったのか、私には理解できなかった。診察中も、丁寧な物腰で患者の言うことをあれこれ聞いていたのにこちらが物申したら怒るだなんて理不尽じゃなかろうかと憤りさえ感じる。

 さらに、あの治ったら困るというのも気になる。まるで、わざと病気を長引かせているような言い草だ。


 とはいえ、悪意からそれを読み取っただなんて有馬様に言えるはずもなく。

 先程してしまった行動の愚かさも相まって、私はさらにぐるぐるぐるぐると悩み込む。


(もし、このせいで離縁されたらどうしよう。でも、有馬様のことを思うとあのまま何も言わずにはいられなかった。とはいえ、有馬様からしたら、ただ私が医師に意味なく突っかかってただけに見えただろうし……)


 相反する理性と感情のせいで思考がグチャグチャになる。


(もし、この病院が出禁などになってしまったら……そうは言っても、どんな効能があるかもわからない薬の量をさらに増やすだなんて。何も教えてくれない上にただ言うこと聞けだなんて言うのはおかしい。そもそも、治ったら困るってどういうこと? あの悪意は何だったの……?)


 わからないことばかり。

 そして、納得できないことばかり。


(わからないし、納得できない。でも、だからと言って、あの行動はまずかった……わよね)


 ただ、確定している事実としては、自分の感情のせいで有馬様に迷惑をかけてしまったことだけ。

 有馬様に迷惑をかけたということは、つまり千金楽家のみんなにも迷惑をかけたというわけで。


(あぁ、どうしよう。私は何てことを……)


 黙っていればよかった。

 悪意に気づかなければよかった。


 今更な想いが自分を襲うも今更どうすることもできないため後悔ばかりが募る。


 そんな私の様子を察してか、有馬様も奥様も花も私を下手に刺激しないようにと遠巻きにしているのがわかる。気を遣わせて、こんな情けないダメな嫁で申し訳ないとどんどんと気分が塞ぎこんでくる。


「真直さん」

「……っ」


 名を呼ばれて顔を向けるとなぜかそのまま肩を引き寄せられ、抱きしめられる。


「あ、有馬様……」

「そんな思い詰めた顔をしないで」

「……っ!」


 有馬様は抱きしめたまま私の手を優しくゆっくりと握ってくる。その優しさに、なぜだか胸がいっぱいになった。


「ねぇ、真直さん。真直さんはさっきの診察に納得してないでしょう?」

「それは……でも、私……」

「真直さんは僕の大事な奥様だ。家族だ。だから、僕としては家族の一員である真直さんの意見も聞きたい。だから、思ったことを素直に言ってほしい」


 さっきあんなことになってしまったのに、有馬様は優しく私の言葉を引き出してくれる。

 そのおかげで、思っていてもずっと躊躇って口に出せずにグッと堪えていたはずの言葉が、身体の中から湧いてくるのを感じた。


「私……お医者様の言葉に納得できなくて」

「うん」

「有馬様が治ってないって言うのもそうですが、薬を増やすだけでなくどんな薬なのかも教えていただけないのも納得できなくて」

「うん」

「有馬様は今までつらい思いで闘病されているのに、今まで頑張ってたからこれからも頑張れると言われたのが許せなくて」

「うん」

「それで、つい詰め寄ってしまったのですが……でも、結果的に有馬様にご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ないです」


 私が素直に気持ちを吐露すれば、「そっか」という言葉と共に、頭を撫でられる。

 大きくて優しい手つきのそれは私の全てを包み込んでくれるような気がして、胸が温かくなった。


「実は僕もね、今回の先生の言葉には疑問だったんだ」

「え?」


 有馬様が自分と同様のことを思っていたことを知って驚く。


「あの場では言えなかったけど、真直さんの質問の内容は患者として当然気になることなのに、それに答えずに濁して恫喝してうやむやにしたのが引っかかっていてね」

「確かにあの怒声、外にまで響いてましたよ。みなさんびっくりされてました。いつも温和な先生なのに、ちょっと様子がおかしいですよね」

「私も、今までお医者様の言うことだからって疑問に思ってもなかったけど、考えてみれば今まで具体的に病気についての話や薬の話など言われたことなかったもの。真直さんは気になるから聞いただけなのに、あんなに近くで怒鳴られて怖かったでしょう」


 有馬様の言葉に追従するように、花も奥様も同調し、寄り添ってくれる。

 私が不甲斐ないばかりにしてしまった失態なのに、みんなの優しさが嬉しかった。


「僕のせいで、怖い思いをさせてしまってごめんね。あと、あのときも庇えなくてごめん」

「いえ……あのときは有馬様の行動が正しいと思いますから」

「とにかく、真直さんは責任を感じなくていいんだよ。真直さんは、僕のために頑張ってくれたんでしょう?」

「……はい」

「なら、気にしなくていいよ。ちゃんとわかってるから、落ち込まないで」


 有馬様の言葉に胸がいっぱいになる。

 今まで同調して寄り添ってくれる人など全くいなかった私にとって、自分の意見を汲んでくれることは何よりも嬉しかった。


「でも、どうしましょうね。一応薬をお出ししてもらったけど、これ本当に飲んで大丈夫なのかしら?」

「しかもこれ、いつもの倍以上の量ですもんね。いくらなんでも多すぎる気が」

「でも、他に医師の心当たりがないし……」


 処方された薬の量と先程の対応に戸惑う奥様と花。かと言って、聞いたところで答えてもらえないのは先のことでわかっている。


(他の医師……)


「あっ」


 他のお医者さんと考えたとき、思い浮かぶのはたった一人。とある人物を思い出し、咄嗟に声が漏れる。


「真直さん、お医者様に心当たりが?」

「はい。まだご存命だといいのですが……」

「そのお医者様の場所は覚えてる?」

「はい、覚えてます。ここからそう離れてません」


 地理は得意というほどではないが、幼少期とは言え、何度も足を運んだ場所は覚えてる自信があった。

 残る懸念点はまだ存命かどうかということだ。


「なら、せっかく都まで来たのだし、寄ってみましょうか。あの薬の量で問題ないという他のお医者様のお墨付きをもらえたほうが安心できるもの」

「そうですね。では真直様、道案内お願いしてもよろしいでしょうか?」

「はい」


 私は記憶を頼りに、運転手の真壁さんに道案内を始める。だんだんと見覚えのある景色を懐かしみながら、私は目的地に想いを馳せるのだった。

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