第二十三話 起床
「ん……っ……ぅん」
気配を感じて目を覚ますと、視界いっぱいに飛び込んでくるのはこちらを見つめて微笑む有馬様の顔。
朝だというのに乱れもない整った顔を近づけられていたことに気づき、一気に目が覚める。
「おはよう、真直さん」
「っ! ……おはようございます。有馬様」
(また先を越されてしまった)
一緒の寝室になってはや数週間経つが、毎回起床は慣れない。
朝は強いはずなのに、なぜかいつも先に起きているのは有馬様。有馬様曰く、日中寝ているから必然的に夜の就寝時間が短くなってしまうらしいのだが、それでも早すぎるのではといつも思う。
「体調はいかがですか?」
「あぁ。おかげさまで、今のところは特に問題ないよ」
初デェトの体調急変以降、有馬様の体調は安定しているようで安心する。
とはいえ、楽観視するとまた前回の二の舞になる可能性があるので油断はできない。
「それはよかったです。では、私は着替えてから朝食作りに行って参ります」
そう言って立ち上がると、何やら背後に気配が。
振り返ると有馬様もピタリとくっつくように立っていた。
「有馬様?」
「好きだよ」
耳元で囁かれながら後ろから抱きしめられる。
毎日毎日。至るところで今のように愛を囁かれているが、何度されても未だに慣れる気配はなくすぐに赤く染まる私の頬。
(ここで『私も』と言えたら可愛げがあるのに)
まだ素直に自分も好きと言えない。
どうしても根底に「実家にもう戻りたくない」という想いがあるせいで自分の本心がわからず、安易に好きだと口にしたら不誠実なのではと思ってしまって、なかなか口にはできなかった。
「真直さん、こっち向いて」
「……ん」
言われた通りに振り向くと、そのまま口づけられる。優しくて甘くて素敵な口づけ。ゆっくりと唇が離れるも、有馬様から名残惜しそうにギュッと抱きしめられて、私も抱きしめ返した。
「ちょっとは慣れてきた?」
「……いえ、まだ」
「そっか。まぁ、初々しい真直さんを見続けられるのもいいけどね」
耳元で囁かれてさらに羞恥で顔が熱くなり、キュッと胸が疼く。
また有馬様はわざとやっているなとそちらを向けば、想像通りくつくつと笑っているのが見えた。
「有馬様、もう戯れはおしまいです。そろそろ離してください」
「やだ」
「このままでは朝食を作りに行けません」
「少しくらい遅れたっていいだろう?」
「そんなことおっしゃらないでください。有馬様の健康のためですよ?」
「僕としては、真直さんとこうしてくっついているだけで元気になれるよ」
(なんて無茶苦茶な)
そう思うも、嫌なわけではなくて。むしろそこまで好いてくれるのは単純に嬉しい。
これほどまで好きだのなんだの言われることは想定外だったが、愛のない結婚だったはずなのに、こうして言葉にしてくれて全身で伝えてもらえることは幸せだと思う。
「もう。……じゃあ、あともう少しだけですよ」
「ありがとう、真直さん。優しい真直さんが大好きだよ」
そう言って、再び唇を重ねてくる有馬様。
優しい口づけに私もうっとりと身を委ねた。のだが、
「ん……んん……っふ……むぅ……も……あり……む……」
初めこそ「もう少しだけ」という言葉を信じて身を委ねていたものの、その後有馬様は唇を合わせたまま一向に離してくれる気配はない。
私がいよいよ時間だからと身を捩って逃れようとしたところで、私がなかなか台所に来ないことを気にかけた花がやって来て一悶着あったあと、どうにか有馬様から解放された。
台所に行く際、有馬様から不服そうな目で見られたが、それは見ないフリをした。
「有馬様と仲睦まじいようで何よりです」
「……もう揶揄わないでください」
「この調子だとやや子が見られるのも早そうですね〜」
「美代さん、気が早いです」
朝食の準備をしながら花と美代さんに有馬様とのことを何度も揶揄われ、私は朝食のヤマメを少し焦がしてしまうのだった。




