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真直の嫁入り  作者: 鳥柄ささみ


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第二十一話 自己嫌悪

「体調は大丈夫?」


 須藤家の母娘と別れてから少し離れたところで、有馬様から声をかけられる。


「え?」

「手が震えてる」

「あ……っ」


 久々に感じた悪意に、無意識に身体が拒絶反応を起こしていたらしい。

 手を繋いでいたことで震えが伝わってしまったようで、有馬様に余計な気遣いをさせてしまったことに申し訳なさを感じて私は慌てて頭を下げた。


「申し訳……」

「謝らないで。真直さんが謝る必要はないから。それで、いっぱい歩いたから疲れたかな? それとも、悪寒でもする?」

「あ、いえ。そうじゃなくて。体調が悪いわけでじゃないんです」


 体調不良からの震えだと思っている有馬様に、慌てて否定する。

 けれど、体調不良ではなく悪意を感じたから震えてしまったなどとは言えなくて、私はただ否定することしかできず、それ以上何も言えなかった。


「じゃあ、もしかして須藤さんとの立ち話……でかな? 真直さんには変に気を遣わせてしまったよね。今日はちょっと美琴ちゃんの当たりも強かったし。いつもはあんな子じゃないんだけど……。僕の立ち振る舞いが悪くて申し訳ない」

「いえ、そんなことないです。有馬様は須藤様にも私にも気を遣ってくださいましたし。むしろ私のほうこそ、年上だったのにしっかりしてなくて……その……」


 上手く言葉が出てこなくて、次の言葉が見つからない。

 そんな私の心情を察してか、有馬様が「もしかして、年齢のこと気にしてる?」と顔を覗き込んでくる。

 けれど、私はどう反応したらよいかわからなくて咄嗟に顔を逸らしてしまった。


「……あぁ、そっか。そうだよね。女性のほうがこういうのは気になるよね。でも、本当に僕は年齢のことは気にしてないんだよ。というか、年齢とか容姿とか家柄云々とかはどうでもよくて。今だから言うけど、真直さんだから結婚したし好きになったんだ」

「私、だから……ですか?」

「そうだよ。母から前評判は聞いていたとはいえ、初めはどんな人が来るんだろうと身構えていたけどね。でも、毎日嫌がる素ぶりも見せずに僕の身体を拭きに来てくれて、一緒にご飯を食べてくれて。それが僕にはとても嬉しかったんだ。だから、真直さんと結婚できたことが嬉しいし、僕は真直さんのことを好いているんだ」

「……っ」


 好いている、という言葉に思わず赤面する。

 いつもならそんな私を揶揄う有馬様だが、今は真剣な表情で見つめられて目を逸らせなかった。


「初めこそ名ばかりの結婚だったかもしれないけれど、今の僕は真直さんのことが好きだ。だから、僕は真直さんのことを大切にしたいと思っているし、真直さんを傷つけたくない。もし、嫌なことや不安なことがあるなら抱え込まないですぐに言ってほしい」

「有馬、様……」

「もちろん、気持ちの強制はしないよ。でも、真直さんが僕のことを慕ってくれるというのなら嬉しいし、真直さんは僕のこと好きだと言ってくれるならもっと嬉しい、かな……?」


 ハッキリと好意を口にしてくれる有馬様に心が揺れる。愛のない結婚だったはずなのに、こうして思ったことをきちんと言葉で伝えてくれる有馬様を好ましく思う。


 ……けれど、だからこそ私の心に影を落とす。


(私はなんて醜いんだ)


 先程、美琴さんの悪意を感じたとき、私が抱いた感情は有馬様を奪われたくない、奪われたら困るというものだった。

 正直に言えば、有馬様ではなく千金楽家の嫁という地位。今の生活を手放したくないのだと咄嗟に思ってしまったのだ。


 そんな下心の中に愛があるかと聞かれたら、もちろんあるはずがないわけで。有馬様が私に対しての好意を口にしてくれたことが、逆に私は有馬様への愛情よりも自分の居場所、自分のことしか考えられない浅慮さを突きつけられたような気がして、私は自分で自分が嫌になった。


(好きになりたいのになりきれない)


 有馬様を好ましく思う。

 ずっと寄り添っていきたいとも思う。


 けれど、その感情はもう実家に帰りたくないという自分の下心に繋がっているのだと思うと、自信を持って有馬様を愛してるとはいえないのではないと思ってしまう。

 この、好ましく思う感情に裏があるのではと自分の心を疑ってしまう。


 そんな自分で自分を信じきれないことが、さらに自己嫌悪を助長させた。


「真直さん?」


 ぐるぐると考えすぎて言葉が紡げない。なんて言うのが正解なのかわからず、気持ちも宙ぶらりんのまま。

 本心として好意を口にできない自分の愚かさを抱きながらも、どうしても自信が持てずに気持ちを口にできない。

 そんなときだった。


「ごほっ、ごほっ、ごほごほごほごほごほ……っかは……ぐっ」

「有馬様!?」


 突然咳き込み身体を屈める有馬様。

 顔を覗き込めば顔色が真っ青で冷や汗もぐっしょりとかいていて、尋常じゃない様子だった。


「ごほっ……っぐ。だい、じょ……ごほごほっ……ごめ、いきな……ごほっ」

「無理にお話にならないでくださいっ。おうちまであともう少しですから、まずは帰宅致しましょう! 歩けますか!?」

「……う、ん」


 有馬様を必死に支えながら引きずるように帰宅する。

 そして、帰宅するなり倒れてしまった有馬様を慌てふためきながらも千金楽家総出で私室へと運びこむ。

 苦しげな有馬様の表情を見て、私は申し訳なさでいっぱいになりながら、高熱を出した有馬様にずっとつきっきりで世話をするのだった。

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