表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真直の嫁入り  作者: 鳥柄ささみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/23

第二十話 御礼参り

「大きな鳥居……」


 神社に近づくと、自分の背丈を遥かに上回るとても大きな鳥居が目に飛び込んでくる。紅葉の進んだ森の中に聳え立つそれは、圧倒的な存在感を示していた。


 私達は鳥居前で頭を下げたあと、手水で手を洗って身を清めてから拝殿へと向かう。

 鳥居の大きさから勝手に広い神社かと思ったが、案外神社全体はこぢんまりとしているらしい。そのおかげか、手入れが行き届いていて雑草や落ち葉などもなく参道も拝殿も綺麗に整備されていた。


「では、お詣りしようか。はい、お賽銭」

「ありがとうございます」


 拝殿の前に二人並んで立ち、賽銭を入れて二礼二拍手をしたあと、手を合わせて祈る。


(有馬様とご縁を結んでいただき、どうもありがとうございます)


 実家から解放され、有馬様と結婚できたのも何かの縁。それがこの神社がもたらしてくれたものならば感謝せねばと、念入りに感謝をする。

 そのまま深く一礼すると、ちょうど有馬様も同じ頃合いで祈り終えたようだった。


「これでよし、と」

「有馬様は御礼できました?」

「うん。真直さんとご縁が結べたことや、身体がよくなってきたこととか、たくさん感謝させてもらったよ。真直さんは?」

「私も、有馬様とご縁が結べたことに感謝しました」

「そっか。これで、無事に御礼参りはできたね」

「はい」


 有馬様に手を差し出される。手水のときから手を離していたが、どうやら帰りもこのまま手を繋いで帰るらしい。私はその手に自分の手を重ねると、強く握られて引き寄せられた。


「じゃあお詣りもできたし、帰ろうか」

「はい」


 頷くと、先程とは違って指を絡められる。

 思わず顔を上げて有馬様の顔を見れば、「うん?」とこちらを伺うような表情に、つい恥ずかしくて「いえ」と何事もなかったかのように装ってしまう。


(ドキドキする)


 色々と慣れようとしてきたはずなのに慣れない。

 ただ指を絡められただけだというのに無性に心が騒つく。

 夫婦なのだからこれくらい当たり前なのかもしれないが、今まで異性と触れ合ったことのない私にとって何もかもが新鮮で未知のものだった。


「そっ、それにしても誰にも会いませんでしたね」


 ドキドキしているのを悟られないよう、気を紛らわせるために話題を振る。少しでも気を紛らわせてないと、ドキドキしすぎて心臓がおかしくなりそうだったからだ。


「言われてみればそうだね。けほけほ……っ、もう少し誰かとすれ違うかとも思ったけど」


 神社への道中だけでなく、神社に来てからも今のところ誰ともすれ違っていなかった。近所とはいえ、それなりの距離は歩いてきたはずなのに。


「誰とも会わないのも残念だな」

「残念、ですか……?」

「せっかくこんな綺麗で素敵な妻を娶ったのだから、やはり近所の人に自慢したいからね」

「自慢、にはならない……と思いますが……」

「そんなことないよ。真直さんはとても素敵で愛らしい自慢の奥様だよ」


 未だ慣れない褒め言葉。

 私が頬を染めれば、嬉しそうに「可愛い」と耳元で囁いてくるから厄介である。


「うぅ……。有馬様、また揶揄ってますね」

「揶揄っているわけではないのだけど。可愛らしい真直さんの反応を見ると、意地悪したくはなるかな」

「有馬様はもっとお優しい方だと思ってましたが、案外意地悪なのですね」

「意地悪な僕は嫌い?」

「べ、別に……そういうわけではないですが」

「ははは。真直さんはそういうところは素直だよね」


 笑われて、それに抗議するように口を膨らませると頬を掴まれて溜めていた空気をぶふっと出てしまう。

 それにさらに笑う有馬様につられて私も笑ってしまった。


「も〜! 有馬様、酷いですっ」

「あははは! ごめんごめん。こんなに勢いよく出るとは思わなかったんだよ。でも、口元がタコのようで愛らしかったよ」

「やめてください。恥ずかしいです」

「あら、もしかして……千金楽さん家の有馬くんじゃない?」


 二人で戯れながら帰路についていると、不意に声をかけられる。声がしたほうを向けば、そこには二人の女性がこちらを見ていた。二人の顔立ちから察するに、恐らく母娘だろう。

 気安く声をかけてきたことを考えると、どうやら有馬様と顔見知りのようだ。


「須藤家の奥様! こんにちは。ご無沙汰してます」

「やっぱり有馬くんだったの! 随分とご立派になられたから最初気づかなかったわ。長い間ご病気だったと伺っていたけど、元気になったようで何よりだわ」

「おかげさまで、この通り出歩けるまで回復致しました」


 有馬様がやりとりをしているのを黙って見守る。

 すると、娘さんらしき方がジッと私のことを冷たい目で見ているのに気づいて、思わず身構えた。


 __この女、誰。


 久々に感じる悪意。

 やはり私の能力はなくなったわけではなかったらしい。


「美琴ちゃんも大きくなったね。以前遊んでいたときはあんなに小さかったのに」

「……もう十六ですから」

「そうか、それは失礼したね。もうそんなに大人になっていたのか」

「ところで、失礼ですがそちらの方は? 随分と仲睦まじい様子でしたが」


 美琴と呼ばれた少女に鋭い声音で指摘されて、思わず身体に力が入る。ちらっと有馬様を見れば、私の緊張を察してくれたのかまるで大丈夫だよとでも言うように、繋いでいた手をギュッと強く握ってくれた。


「申し訳ありません、ご紹介が遅れました。妻の真直です。真直、こちらはご近所の須藤様。奥様と母が仲がよくてね。昔から親しいお付き合いをさせていただいているんだ」

「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。有馬の妻の真直です。今後とも、どうぞよろしくお願いします」


 有馬様から紹介されて私が挨拶をすると、美琴さんの顔が青ざめていくのがわかる。

 そして、睨むように鋭い視線でこちらを見てきた。


 __信じられない。有馬お兄ちゃんが結婚……!? いつのまに? こんな大柄で年もいってそうな女と? 何で!!


 悪意の内容から察するに、どうやら美琴さんは有馬様のことを好いていたらしい。それに気づいて、何だか胸が痛む。


「あら、有馬くんご結婚なさってたの! おめでとう。別嬪で素敵な奥様ねぇ」

「ありがとうございます。最近結婚したのですが、体調の関係で祝言がまだなもので、お伝えできておらず申し訳ありませんでした」

「……奥様、とてもお綺麗ですね。おいくつなんですか?」

「こら、美琴。いきなり年齢を聞くだなんて失礼ですよ。ごめんなさいね。美琴ってば、昔から有馬くんのことが好きで、よく有馬くんと結婚すると言ってたから真直さんにヤキモチ妬いているのね」

「やめてよ! お母さんっ」


 目の前で母娘の小競り合いが始まって戸惑う。

 これは返答したほうがいいのか、と困惑しながらも「えっと、二十二です」と正直に答えれば、美琴がびっくりした表情をしたあと意地悪く笑うのが見えた。


 __やだ。やっぱり年増じゃない。二十二だなんて、行き遅れもいいとこだわ。それなのに、有馬お兄ちゃんは何でこんな人と。


 悪意が突き刺さる。

 確かに、十六の子からしたら二十二というのは年増と言われても仕方ない年齢であることは自覚している。


 けれども、それでもやはり実際に心の中でとはいえ悪意を持って指摘されると胸が苦しくなった。


「そうなんですか。だったら、有馬お兄ちゃんよりも年上なのでは?」

「え、そうなんですか?」


 美琴さんに言われて思わず驚く。

 嫁ぐ前から今まで、言われてみれば有馬様の年齢を知らなかったことに気づく。有馬様はとても落ち着きがあって大人びているので、てっきり有馬様のほうが年上だと思い込んでいたが、よくよく考えてみればたまに見せる無邪気な姿は若さゆえなのではないかと今更ながら思い至った。


「確かに、僕は二十一だから真直のほうが僕より一つ上だね」


(私のほうが年上……)


 勝手に思い込んでいたのもあってか、自分のほうが年上という事実に少なからず負い目を感じる。

 顔立ちがよく、とても優しくて、気遣いができて、気安さがあって、人として魅力的な有馬様は恐らく病気さえなければ自分のような年増と結婚することはなかっただろう。


 そう考えると、どうしてもこの結婚に関して引け目を感じてしまう。


 __やっぱり。有馬お兄ちゃんは何でこんな陰気そうな年増と結婚だなんて。もしかして、病気のせいで騙されたとか? 絶対に私との方がお似合いなのに! いきなり現れて、横取りするなんて!


 悪意が次々に流れ込んでくる。

 それが余計に私を苦しめる。


(横取り……)


 横取りされることの苦痛は、実家で麗から散々されてきたので、痛いほどわかっている。

 私は千金楽家に嫁いで来たことに感謝し、喜んでいたが、こうしてよく思わない人もいるのだと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 私では有馬様に相応しくないのではないかと年齢のことも相まって、先程まで楽しかったはずの気持ちがだんだんと萎んでいく。


 すると、繋いでいた手を離されたと思えば、突然グイッと有馬様に力強く肩を抱き寄せられる。私が慌てて顔を見れば、有馬様は優しい顔をして笑った。


「一つ年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せと言われてますし、真直は姉さん女房ですが、年齢を感じさせないほどとても気が合うんです。あと、とても気立てがよくて献身的で、病気のことも含めて僕や家の支えになってくれてとても助かっているんですよ」

「まぁ、そうね。夫婦に年齢なんて関係ないもの。それに、ずっと仲睦まじそうになさってたものね」

「はい。おかげさまで仲がとてもよいのですよ」


 有馬様から「ねぇ?」と同意を求められるように尋ねられて、おずおずと「はい」と答える。

 すると、美琴さんはあからさまに不機嫌そうな表情をしていた。


 __お母さんの裏切り者。何であんな女の肩を持つのよ。


 ジリジリと焼けるような悪意が流れてくる。

 悪意が強ければ強いほど心が騒つくので、どうしても受け流すことができずに全てを受け止めてしまって、心がヒリついた。


「ごほごほ……っ。では、僕もまだ病み上がりのような身の上ですのでこの辺りで。また、改めて祝言の際はご招待させていただきますね」

「あら、まだ本調子じゃないときに呼び止めちゃってごめんなさいね。祝言、とても楽しみにしているわ。真直さんもまた」

「はい。また」


 別れの挨拶をしたあとぺこりと頭を下げる。

 未だに美琴さんは不愉快そうにこちらを見ていたが、結局何かを言われるわけでもなくその場をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ