第十八話 謝罪
「すみません。結局、全部やり直しになってしまって」
散々泣いたせいで、顔はぐちゃぐちゃ。髪はぼろぼろ。
服の乱れはそれほどでもなかったのが救いだが、身支度がほぼ全てがやり直しになってしまったことに申し訳なさを感じて小さくなる。
「だからもー、気にしないでくださいってば! 真直様、しつこいですよっ」
「しつこい……」
花からハッキリとしつこいと言われてしまってちょっと落ち込む。
けれど確かに、ずっとメソメソしているのはうざったいなというのも理解はできる。
悪意を感じられる能力があるせいか、私はどちらかというと気にしがちな性格なので、花みたいに悪意がなくハキハキとモノを言ってくれる存在はありがたかった。
「前にも言いましたが、真直様はもっと堂々となさっててください! 堂々と! 真直様は千金楽家の若奥様なんですからっ」
「……頑張ります」
「真直様は背丈も高くてお顔立ちもハッキリなさっている美人なんですから、もっと胸を張って自信を持ってください! 真直様ならできますっ」
「が、頑張ります……っ」
花から励まされ、ほんの僅かだが自己肯定感が上がったような気がする。
正直すぐに自信を持つのは難しいが、それでも千金楽家に嫁いで来た者としてこの家に恥じないように変わらねばと思った。
「はい。これで身支度は一通り完成しました〜! 残りの紅は食事のあとで改めてつけますね」
「お手数おかけしました。ありがとうございます」
お礼を言って、すぐさま食事の準備をしようと部屋を出るために立とうとすれば「ちょちょちょちょ……っ!」と腕を掴まれ、花に引き留められる。
「どうしました?」
「どうしました、じゃないですよ。どこに行くおつもりです?」
「え? これから朝食の準備に行こうかと……」
いつものことなのになぜ聞かれるのかわからず素直に答えると「ダメですよ。真直様はここで待機ですっ!」と引き留められる。
「え。ですが……朝食の準備は?」
「それは私と美代さんがしますから、ご心配なさらないでください」
「では、お蚕様のお世話を……」
「それに関しても本日は奥様が担当してくださるとのことです」
「えっと、それなら私はこのあとどうすれば……?」
やること全て取り上げられてしまって、困惑する。
何もすることがないというのは、生い立ちや性分もあってか、どうしてもソワソワしてしまう。
「ですから、ここで待機です。それから、お食事もこの部屋でお願いします」
「え? 有馬様とご一緒にお食事は……」
「今日はお預けです。なんてったって、デェトですから! 待ち合わせ必須なので、食事を終えて準備が整ったら玄関前で待ち合わせです」
「待ち合わせ……? あの、同じ家から出るのに待ち合わせが必要なのでしょうか……?」
「もちろんですよ! デェトなんですからっ」
(デェトってすごい……)
デェトをしたことも見たこともない私は、デェトってそんなにすごいものなのかと身構える。
有馬様からの提案で週一回デェトするというのを了承してしまったが、自分にはまだ早すぎたのではないかとちょっとだけ不安になった。
「あの、花……? つかぬことをお聞きしますが、デェトって具体的に何をすればいいんでしょう? 私にできることって……」
「ないです!」
「ない……」
花にピシャリと言われてしまって口籠る。
私にできることは何もないのかと、ますます不安になってくる。
「デェトは男性がエスコォトしてくださいますから、きっと有馬様が考えてくださってますよ。ですから、真直様はただ有馬様についていけば大丈夫です」
「そうなのですか」
「そうなのです! きっと有馬様は色々とお考えなさってくださってますよ。なので、真直様はそういうことは気にせずに有馬様にエスコォトされておいてください」
「わかりました」
とりあえずデェトがあまりにも未知のものなので、言われた通りに従うことにする。
そもそもデェトを言い出したのは有馬様なのだから、確かに花の言う通り私が下手に口出しするのもよくないだろうと思い至った。
「ということで、私は朝食の準備をして参りますから真直様はここで待機しててください。朝食が出来次第お持ちします」
「承知しました」
「では、失礼します」
そう言って部屋を出かけたところでなぜか立ち止まる花。
そして、くるっと振り返ったかと思えばいきなり頭を下げられた。
「……先程はすみません。キツい物言いをしてしまいましたが、決して真直様が嫌いなわけじゃないですからね」
花に弁明されて、キョトンとする。
そして、先程の言葉を反芻してから、花が自分を気遣ってくれていることに気づいた。
「謝らないでください。全然気にしてませんし、花が私のことを想ってくださっているのは理解してますから花も気にしないでください。むしろ、こちらこそ申し訳ないです。私が頼りないばかりに。もっと千金楽家の嫁として自分に自信が持てるようになりますね」
私がそう言えば、ホッとした表情をする花。
そして、「ありがとうございます。お優しい真直様が大好きです」とまっすぐ伝えられ、私も花に「私も花のことが大好きです」と言うと、お互い笑い合うのだった。




