第十二話 家族
「西側の味付けって初めて食べたけど、美味しいわね」
「あぁ、とても美味い。見たとき色味が薄いとは思ったが、案外味がしっかりとしていて美味かったな」
「今度からこっちの味付けでお出しするのもアリですね!」
「そうですね。味の飽きが来ないように定期的に味変するのもよいかもしれません」
「お気に召していただけたならよかったです」
まさか全員から賞賛されるとは思わず、どう反応したらいいのかと困惑しながらも喜んでもらえたことにはにかむ。
美味しいと今まで言われたことがなかった私にとって、美味しいと評価されることはとても嬉しかった。
「それにしても西と東でこんなに味が違うのねー!」
「そうみたいですね。例えば野菜でも葉ネギなのか長ネギなのかで違ったり、餅も丸だったり角だったりと色々違いがあるようです。おにぎりもあちらは俵形ですが、こちらは三角ですよね?」
東西の違いをそれぞれ話すと、千金楽家の方々は知らなかったようでみんな口々に「えぇ!? そうなの!?」「おにぎりに三角以外の形があるのか?」「知らなかった!」「面白いですね」などと感心するような声を漏らす。
実家でこのような知識を披露したものなら、すぐさま「私達をバカにしてるのか」と罵倒が飛んで来たり、「知識をひけらかして一体何様なの?」などと悪意を感じたりしていたが、そういうのが何もなく素直に受け入れてもらえることはありがたかった。
「そういえば! 卵焼きもこちらとは違うと聞きましたがそうなんですか?」
「はい。あちらは出汁巻なので、こちらの甘い卵焼きとは異なりますね」
「そうなの? なら、次はぜひ卵焼きを食べたいわ! ねぇ、あなた」
「そうだな。真直さん、お手数だがお願いしてもいいだろうか?」
「もちろんです。今夜お作りしますね」
了承するとみんな一斉に「やったー!」と喜んでくれる。こんな素敵な温かい家族に受け入れてもらえて、その温かさに涙が溢れそうになる。
「あら、やだ。もしかして嫌だった? ごめんなさい。嫌なら嫌って言ってくれていいのよ?」
「私の言い方が悪かっただろうか。すまない。気を悪くさせてしまったなら謝るよ」
突然目を潤ませた私に気遣うように義両親があたふたと申し訳なさそうに弁明する。
私は私で誤解をさせてしまったと慌てて弁解した。
「いえ、そういうわけではなく! 皆さんがお優しいので、つい嬉しくなってしまって。美味しいとおっしゃっていただけたことが嬉しくて、感極まったと言いますか……お気を煩わせてしまって申し訳ありません」
私なんかのせいで、せっかくのいい雰囲気を壊してしまったと申し訳なさを感じていると、不意にギュッと奥様から抱きしめられる。
そのまま優しく頭を撫でられ、その温かさに先程まで溜めていたはずの涙がぶわっと溢れ出した。
「申し訳なさなんて感じなくていいのよ。真直さんはもう私達の家族なんだから。素直に思ったことや感じたことを言ってもいいし、何をするにしても気負わなくていいのよ」
「っ、奥様……」
「だから、これからは家族として気兼ねなく暮らしてちょうだい。言いたいことを我慢することはなし。要望があればちゃんと言うこと」
「そうだよ。我々では頼りないかもしれないけれど、思ったことはきちんと伝え合うことが大切だ。家族だからな。それに本当に煮物は美味しかったよ。どうもありがとう」
「旦那様……」
義両親それぞれの優しさにまた涙が溢れてくる。
「そうですよー! 真直様はもっと堂々と! 千金楽家の若奥様として、自信持ってくださいっ!」
「そうです。真直様はとても素敵な方ですから、もっとご自分のことをお認めになってよろしいかと」
「ありがとう、ございます」
(あぁ、ここに嫁げてよかった)
私は心からそう思いながらポロポロと涙を溢す。嬉し泣きというのは初めてで、嬉しくてもこんなに泣けるのだと初めて知った。
「有馬もきっと気に入るから、この真直さんの煮物を出してあげてちょうだい」
「はい」
「そういえば、今更気づいたけど、真直さんはまだ食事に手をつけていないんじゃない。気兼ねせずに召し上がっていいのよ?」
一緒に食卓についているものの、私がまだ一口も食べていないことに気づいた奥様が私を気にかけてくださる。
どうやら私が遠慮してまだ食べていないのだと思ったらしい。
「あっ、いえ。私はこのあと有馬様とご一緒にいただこうかと。普段は部屋でお一人でお食事されていると聞いたので」
「まぁ……! ありがとう、真直さん。私達がいくら言っても一緒に食べてくれないから、そう言っていただけて嬉しいわ。というか、後片付けとか気にしなくていいから、もう今すぐ一緒に食べてきたら?」
「ですが、奥様に片付けをさせるわけには……」
「いいのよ、いいの。たまには美代さんと花ちゃんと一緒に家事をやるのも悪くないもの。それに、有馬に早く真直さんの煮物を食べさせてあげたいし。だから、行ってきてちょうだい。……こほん、これは姑命令です」
奥様がわざと尊大に言いつける姿がチグハグで、思わず笑みが溢れる。私がこれ以上気にしないように接してくれて、本当にお優しい方だ。
「承知しました。では、行って参りますね」
ぺこりと頭を下げると、微笑まれながら手をひらひらと振られて見送られる。
私はお盆に食事の皿を乗せるとそのまま有馬様の部屋へと向かうのだった。




