第十一話 料理
「すごーい! 真直様、かつら剥き上手! 包丁捌きが手早くて素晴らしいです!」
「そんな……大したことないですよ」
「えぇー! それは謙遜ですよー! ねぇ、美代さんっ」
「そうですね。真直様のお手つきは玄人と言って差し支えないかと」
「もう、お二人とも褒めすぎですよ……」
朝食の下準備ということで大量の野菜の皮剥きをしているのだが、実家での経験が功を奏しているようで、手際よく野菜を片付けていくのを花と美代さんに褒められる。
実家では毎回品数を多く、常に早く作れと急かされていたせいで、手捌きに関しては確かに早い自負はあった。
「千金楽家ではどういった味付けなんですか?」
「うちではカツオで出汁をとった味付けが多いですね。あと、なるべく塩分は控えめで薄味にするようにしています」
「それは、有馬様のご病気に合わせてですか?」
「そうです」
(なるほど、薄味)
今まで実家では濃い目に味付けをするように言われていたのもあって、千金楽家ではしっかり味見してその辺りは気をつけねばと心に留めておく。
「ところで、ここで聞くことではないかもしれませんが……有馬様のご病気って何の病気なのでしょうか?」
私が尋ねると、なぜか美代さんと花が顔を見合わせる。やはりここで聞くべきではなかったかと発言を撤回しようと口を開きかけたところで「それが……」と先に花が口を開いた。
「原因不明で、わからないんです」
「え? 原因不明なんですか?」
「はい。実は、何が悪くてどこが悪いのかもよくわからないらしくて。でも、確かにずっと体調は芳しくないので不治の病って公にはお伝えしてるんですけど……」
「そうだったんですか」
原因不明の不治の病。お医者様でもわからない難病なのかと、思わず眉を顰める。
「だから、とにかく身体にいいものをと思って色々とお出しはしてるんですけど、一向によくはならなくて」
「そうなんですね。……ちなみに、有馬様が食べてはいけないものや食べられないものってあるんですか?」
「いえ、特には。なるべく肉は食べないようにとは言われてはいますが」
「なるほど。……理由を伺っても?」
「理由……? そういえば、何でなんでしょう?」
「知らないわねぇ」
再び見合って首を傾げる二人。
今まで疑問に思ったことがなかったようで、「言われてみれば何でだろう」と困惑した様子だった。
「えっと、お医者様は何と……?」
「……とにかくダメだとしか聞いてないですね」
「理由……奥様なら知っているのかしら? でも、以前診察のお付き添いをしたときも何が原因とおっしゃってはなかったんですよね。いつもかかっているお医者様は何をするにもよくないの一点張りで、とにかく大人しく部屋に籠って寝ているようにと」
「そう、なんですか……」
恐らく、二人は本当に知らされていないのだろう。使用人という立場だから知らされていない可能性もあるが、奥様の性格的に周知しないことなどあるのだろうかと疑問だった。
(そうは言っても私は来たばかりの新参者だし、口を出すわけにはいかないわよね)
せっかく嫌われていない環境に来たというのに、余計な口出しをして嫌われるのは得策ではないと思う。
けれど、実母のこともあってどうしても後ろ髪を引かれてしまう。
あまり差し出がましいことはしたくはないけれど、嫁いできた身の上として有馬様の体調を少しでもよくしたいと思うのが正直な気持ちだ。
(母のときのお医者様はなるべく好きなものを食べてしっかり寝て少しでも動くようにと言っていたけれど、それを提案するくらいならいいかしら)
どうにか時を見て奥様に提案してみるのもアリかもしれない。もし断られたらそのときはそのときで素直に引き下がればいいだろう。
(有馬様には少しでも栄養を摂って元気になってもらいたいし)
まだ夫婦としての自覚はないが、せっかく繋がった縁を無碍にはしたくなかった。
また、何か自分にできることがあるのなら有馬様の力になりたかった。
(そのためにも、私ができること……色々と学んで覚えて頑張らないと……!)
有馬様に好きなもの嫌いなもの。どんな生活を送っているのか。どんなことがしたいのか。
知りたいことはいっぱいあった。
どんな些細なことだとしても、有馬様のことを知っていきたいと思った。
そんなことを内心考えながら料理の準備をしていると、突然花から「ねぇねぇねぇねぇ、真直様!」と声をかけられる。
「何でしょう?」
「真直様のお家ではどんな味付けだったんですか?」
突然の質問に一瞬身構えるも、想定外の質問に面食らう。今まで質問することはあれどされることはあまりなかったので、反応がちょっと遅れてしまった。
「うちの味付けですか? ……えっと、料理は母方の祖母から教わったのですが、母方の実家は元々西のほうなので、昆布で出汁をとった甘めの味付けです」
「へぇ! そうなんですね! ねぇねぇ、真直様。お野菜お支度してたっぷりありますし、よければ真直様のお家の味も知りたいです!」
「えーっと……作ることはできますが、みなさんのお口に合うかどうか……」
「そんなことないですよう。絶対真直様のお料理美味しいと思います! ねぇ、美代さん」
「確かに、比較も面白そうですね。食べ比べというのもよいのでは? 普段食べ慣れているものとは違った味付けのものを食べるのはアリかと」
花の言葉に便乗する美代さん。
二人から期待されてしまったら断らないわけにはいかなかった。
「わかりました。では、私はこちらのお鍋を担当しますね」
「お願いします。わーい、楽しみ〜! 普段、自分と違った味付け食べる機会ってなかなかないですから食べるのが楽しみです」
花の言葉に、自然と口元が緩む。
料理を作るだけだと言うのに、喜んでもらえて嬉しい。
多少の気負いはあるものの、期待されたらそれに応えたいと思ってしまう私は、みんなに美味しいと思ってもらえるようにいつもよりも丹精込めて料理を作るのだった。




