魔女街の戦いの終わり
衛がゼオルフを殴り飛ばしたのを見て、レヴネとレンは――安堵したように、互いの相手へと向き直った。
「――はぁっ!」
最初に動いたのは、レンだった。
ロードメアの重い一撃を、杖で真正面から受け止める。
衝撃で腕が痺れるが――
「恋魔法・ラブワールド」
淡い桃色の空間が、レンとロードメアを包み込んだ。
そこには痛みも恐怖もない。
あるのは――愛だけ。
「……っ!?」
ロードメアの表情が、崩れる。
レンは、笑っていた。
愛を感じたまま、何度も、何度も殴る。
鈍い音。返り血が舞う。
やがて、ロードメアは崩れ落ちた。
だが、顔は幸福に満ちていた。
「……終わりです」
息を整えながら、レンは杖を下ろす。
一方、ゼオルフは歯を食いしばっていた。
「くそ……!」
何度も、魔法で衛を攻撃する。
防御魔法の隙を突くために、軌道を変え、重ねたり試行錯誤する。
だが、破れない。
衛は防御魔法を纏ったまま、ゼオルフの術式を受け、弾き、踏み込む。
――拳が再び、顔面を捉える。
「がっ……!」
ゼオルフの体が宙を舞い、地面に叩きつけられ、気を失う。
「……ふぅ」
衛は、震える拳を下ろした。
そして――レヴネ。
衛の魔力量が跳ね上がったことで、彼女自身の魔力も、明らかに増していた。
翼が、大きく広がる。
背に浮かぶ魔法陣から黒紫の魔力が、奔流となって溢れ出す。
「……なっ」
エスケインが、後退る。
「エスケイン将軍」
レヴネは、微笑んだ。
「これが――既婚者の愛の力ですわ!」
魔術式が、展開される。
「極エーテル砲、発射ですわ!」
圧倒的な魔力が、エスケインを貫いた。魔力を纏う鎧が砕け散る。
「ば、馬鹿な……!」
衝撃と共に、エスケインは吹き飛ばされる。
静寂が訪れる。
その頃――
魔女街の各地でも、三つ星魔女たち、そしてセツたちが、それぞれの敵を屠っていた。
轟音。閃光。魔族たちが、次々と倒れていく。
この突発的な戦争は――ひとまず、魔女の勝利で終わりを告げた。
――魔族の城――
男は一人戦争を観測していた。
「あーあ」
軽い調子で、笑う。
「彼ら、勝手に戦いに行っちゃってさ。しかも無残に負けちゃった。大魔女が死んで、勝ち戦だったはずなのにさぁ」
肩をすくめる。
「勝率、下がっちゃったよ。僕を含めた大将軍三人を置いていくとかこれはもう――大戦犯。死刑だよ、死刑」
一拍置いてから、首を傾げる。
「……って、あれ?みんな、もう死んでるか」
魔族大将軍・ロキ。
「ロキ様、楽しそうですねぇ」
甘ったるい声が、背後から響く。
振り返ると、そこに立っていたのは――少女のような姿をした魔族。
「そろそろ……魔力、戻りました?」
かつて“男の魔法使いを全て殺した”と噂される、魔族大将軍・リアムス。
ロキは、肩をすくめる。
「ぼちぼち、かな」
その隣には――漆黒の鎧を纏った騎士。
言葉はないが、ただそこに立っているだけで、空気が張り詰める。
かつて三つ星魔女を三人殺したとされる存在。
魔族大将軍・ヴラムド。
そして。玉座の奥、封印の中心。幾重もの封印魔法に縛られたそれが、ゆっくりと声を発した。
「……もうじきだ」
重く、低い声。
「封印も……まもなく、解き放たれる」
大魔女と、かつての三つ星魔女五人の命によって封じられた存在。
――大魔王・エルスナーム。
ロキは、楽しげに笑った。
「次は――ちゃんと戦争しようか」
――魔女街――
戦争のあと。街では、死者を弔い、生き残った者たちの勝利を祝う――祝宴が開かれていた。
灯りが揺れ、酒と笑い声が、魔女街を包む。
失ったものは、確かに多い。
それでも、人々は前を向こうとしていた。
祝宴のあと――
衛は、一度、人間界へ戻ることを選んだ。




