魔女会議
――魔術界の魔女街――
魔女街は、俺にとって初めての体験ばかりでわくわくした。
変な薬ばかり売っている店。
歩くたびに色が変わり音が鳴る石の床に。
見たことのない文字の看板と、そこら中にいる使い魔たち。
「えっ、これ……二百ピョコもするんですか!?」
レンが、目を見開いて叫ぶ。
「ま、まけてください! これ絶対そんな価値ないです!」
「レン、それ何に使うんだ?」
「分かりません!」
レンの買い物によってなぜか、用途不明の小物や謎の瓶、光るキノコなどが次々と俺の手の上に乗せられていく。
「……俺の財布じゃないのが救いだな」
「大丈夫です!必要になる気がします!」
おそらく根拠はない。
やがて一通り魔女街を回り終え、レンがぱっと表情を引き締めた。
「じゃあ……そろそろ行きましょうか」
「魔女会議に」
二人の空気が、少しだけ引き締まる。
宝石が散りばめられた大きな扉の前で、俺たちは足を止めた。
「お待ちしておりました、衛さん」
迎えてくれたのは、セツだった。
相変わらず、非の打ちどころのない美人だ。
――改めて見ると、やっぱり綺麗だな。
「サービスじゃぞ、小僧!」
声と同時に、視界に飛び込んできたのは――
大人の姿でパツパツの格好をしたエフューシスだった。
「目の保養じゃ! かーかっかっか!」
「……あ、ありがとうございます?」
どう反応すればいいのか分からない。
扉を開き、魔女の会議室に足を踏み入れる。
円卓があり、すでに五人の魔女が席についていた。
「おせえじゃねえか」
低く、荒々しい声。
巨大な獣のような使い魔を従え、こちらを睨む女。
「三つ星魔女全員を待たせていいご身分だな、人間」
――土魔法の使い手、メナト。
「ひっ……!」
レンが思わず身をすくめ、深く頭を下げる。
「す、すみません……!」
「待て待て」
エフューシスが、どんと胸を張る。
「時間を伝え間違えたのはワシじゃ!かーかっかっ!」
場の空気が、わずかに緩む。
「まあまあ」
静かに口を開いたのは、氷のように整った顔立ちの女性だった。
「せっかく人間界から来てくださったのですもの。
よろしいですことよ」
――三つ星魔女、氷魔法の使い手・アナスタシア。
「……はやく本題に入ろう」
淡々とした声。
中性的な美少年が、肘をついて言う。
――空間魔法の使い手、シャルア。
「わ、わ、わ……」
部屋の隅に椅子を置いて、落ち着きなく視線を泳がせる魔女が呟いた。
「お、男の子……はじめて……」
――前回の会議を欠席していた引きこもり。
――破壊魔法の使い手、セディアルク。
そして。
「それよりも」
最後に、冷たい声が響いた。
「あなたの胸ポケットの魔族――殺しません?」
鋭い視線が、一直線に俺へと向けられる。
長い髪を揺らし、冷酷な表情で椅子に座る魔女。
――雷魔法の使い手、レイ。
レンの姉だという。
胸ポケットの中で、レヴネが少し動いた。
……やはり来たな。と思い俺は一歩前に出て声を張る。
「それは、できません」
レイの視線が鋭くささる。
自分でも分かる。今の一言で、場の空気を変えた。
「レヴネ彼女は、俺の使い魔です」
視線を逸らさず、続ける。
「これからもし何かあれば……俺が、責任を持つ。それに使い魔には手を出してはいけないと伺いました」
はっきりと自分の言い分を述べる。
それでもレイは怒りを露わにする。
「その魔族が、この場に相応しくないわ」
冷たい声が、響く。
「そもそも――その魔族がここにいるのは、
エフューシスさんが無様に負けたからですよね?」
レイの視線が、エフューシスに向く。
また、空気が悪くなる。
「あ?」
エフューシスが低めの声を発する。
「焼くぞ? 小娘……」
「やめなさい」
静かに割って入ったのは、アナスタシアだった。
「エフューシスさんが負けてしまったのは、人間界の被害を最小限に抑えるためですわ」
淡々と、しかし重みのある声。
「何も顧みず戦えば……ここにいる三つ星の誰もが、負けはしません」
「……」
「ですが、それはもはや守る戦いではありません」
場が、静まる。
「そんなこと、今はどうでもいいでしょ」
シャルアが、面倒そうに発言する。
「早く本題に入ろう。……セツ」
「は、はい」
セツが一歩前に出る。
「衛様の件ですが――」
全員の視線が、衛に集まる。
「現在、衛様は魔族の将軍レヴネと使い魔の契約を結んでおります」
胸ポケットの中で、レヴネが少し誇らしげにする。
「また、指輪の解析を進めた結果……アリッサ様の魔術式が封じ込められていることは確認できました」
一瞬だけ円卓がざわつく。
「しかしどのような術式かは、判明しておりません。加えておそらく、その魔術式は、衛様にしか引き出せない構造になっております」
みんな予想してたような反応をする。
「さらに」
セツは、視線を落とした。
「アリッサ様の死因は、老衰と見られます」
その言葉に、空気が変わった。
「ご存知の通り……私たちは魔力を纏い生きる存在です。老衰は、本来ありえません」
言葉を選びながら続ける
「おそらく、アリッサ様は――衛様のお祖父様と、人間として歳を重ねる道を選ばれた」
「……」
「そのために、自身の魔力をすべて指輪へと送り、魔術界には戻らず、魔力の供給も断ち……人として、最期を迎えられたのだと思われます」
沈黙。誰も、すぐには言葉を発さなかった。
「……アリッサぁ……」
エフューシスの声が、震える。
「手紙ぐらい……手紙ぐらい、よこせぇぇぇ……!」
円卓に突っ伏し、泣き崩れる。
「……うわぁああ……!」
誰も、止めなかった。その後いくつかの議題を消化し、なんとか――魔女会議は、終わった。
会議終了後、釘を指すようにレイが声をかける。
「……その魔族が、何かやらかしたら即殺すわよ」
さらにレイは、感情の読めない目で俺を見た。
「特に――レンに何かあれば、ただじゃおかない」
「分かってます」
俺は、視線を逸らさずに答えた。
「レヴネには、きちんと契約させました。何かあれば……責任は、俺が取ります」
それ以上、何も言わなかった。




