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三つ星魔女エフューシスと飛来する脅威

――魔術界――


「――以上が、一つ星魔女レンからの報告になります!」


淡々と澄んだ声が、円卓の間に響いた。

司会を務めるのは、ショートカットの二つ星魔女・セツ。

彼女は淡々と報告書を閉じる。


円卓の周囲には、六つの椅子が設けられていた。

そのうちの一つは、空席のまま。


現在、魔術界に六人しか存在しない三つ星魔女。

その一人であり、幼い見た目をしたエフューシスが、口にした。


「アリッサなにも言わずに死ぬなんて薄情じゃ!!」


会議の空気が、一変する。


「アリッサはわしの同期じゃ……アリッサの孫はわしが説得するのじゃ」


涙で目を腫らしながら口にする。


他の魔女たちは、

「はいはい」

「勝手にすれば」

「エフューシスがそうしたいなら」

などと呆れたり、苦笑したりしながらも――


「……許可するよ」

「行ってきな」


結局、止めなかった。


――人間界――


カラン、カラーン。


「また、来ちゃいました!」


明るい声とともに、レンが店に入ってくる。

手に手作り弁当を持って。


……もう何度目だろう。


最近、彼女はすっかりこのカフェに馴染んでいた。

俺に魔法を教えるためらしい。


俺が頼んだ、ということになっている。


「アリッサさんの血を引いてるからか、衛さんにも魔力が少し流れてるみたいなんです! だから、もしかしたら魔法を使えますよ!」


そう言われても、正直まだ半信半疑だ。


「そもそもですね」


レンは楽しそうに語り始める。


「普通の人間も、魔法みたいなの使ってるんですよー?例えば指切りげんまん。あれも立派な契約魔法なんです」


「契約……魔法?」


「はい!魔力を流して、お互いが同意してたら成立するんです。格上の魔女でも、その契約は破れません」


……初めて聞いた。


「契約魔法は魔獣を使い魔として使役するために作られたそうですが……いったい、誰が人間界に伝えたんでしょうねー?」


「へー……」


正直、よく分からない。


「じゃあ、やってみますか?」


レンは急に身を乗り出した。


「嫌いな食べ物とか、あります?」


「……にんじん」


即答だった。


「じゃあ!」


レンはにこっと笑う。


「衛さんは、私が作ったお弁当のにんじん、絶対残しちゃいけなーい」


「は?」


そう言って、彼女は俺の小指を取った。


指切りげんまん。何度か失敗するも、渋々同意すると……


レンは手作り弁当を開き、

中のブロッコリーを生のにんじんに変えた。


「……げっ」


「さあ、どうぞ!」


逆らおうとした。

……はずだった。


なのに、体が言うことをきかない。


俺は涙目になりながら、生のにんじんを、一本残らず食べた。


「そういえば衛さん!忘れてました!」


レンが思い出したように声を上げる。


「今日は三つ星魔女のエフューシス様が来られるんです!粗相のないようにしてください!」


その言葉が終わるのと、ほぼ同時だった。


カラン、カラーン。


ドアベルが鳴り、店の入口に二人の魔女の姿が現れる。


ひとりは――偉そうな態度の幼い少女。

もうひとりは、ショートカットの美人……セツだ。


(……この人が、魔術界の偉い人か)


俺の視線は無意識にセツに吸い寄せられていた。

背筋が伸びていて、落ち着いた雰囲気。銀髪碧眼の美人だ。


「ど、どうも……よろしくお願いします」


反射的に、俺はセツに向かって手を差し出していた。


――その瞬間。


幼女とレンの視線が、鋭く突き刺さる。


「……?」


空気が、冷えた。


セツは一瞬だけ目を開き、それから苦笑しつつ、俺の手を取ったまま口を開く。


「こちらが三つ星魔女、エフューシス様です。レンから、伺っていませんでしたか?」


そう言って、幼女へと手を向ける。


「……あ」


やらかした、と直感する。


幼女――エフューシスは、俺を見上げるように睨みつけ、口を開いた。


「いい度胸じゃな、ガキが」


ぞくっと背中に悪寒が走る。


「アリッサの孫でなければ、焼き殺しておったわ」


――殺気。


言葉だけじゃない。

圧がある。


レンがびくっと肩を震わせ、その場で深く頭を下げた。


「も、申し訳ありませんエフューシス様!この方は何も知らなくて……!」


「……すみません」


レンの言葉を遮るように頭を下げた。


自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。


「無礼でした。魔術界の礼儀を知らなかったのは俺の責任です」


エフューシスの視線が、ぴたりと俺に向く。


「けど」


目を逸らさずに口にする。


「レンが謝ることじゃない。俺の店で起きたことだ」


沈黙。


空気が張り詰める。


やがて、エフューシスは鼻を鳴らした。


「……ふん」


「さすがアリッサの孫じゃな」


その言葉に、レンが驚いたように顔を上げる。

セツも、わずかに目を細めた。


(……許されたのか?)


心臓が、遅れて強く脈打つ。


少し時が経つ。


二人は指輪を譲るよう説得しに来た――

はずだった。


「……でな!その時じゃ!」


エフューシスの昔話は、止まらない。


「アリッサはのぉ、わしを庇って魔族を退けおったんじゃ!かっこいいのお!」


目を輝かせたかと思えば、


「……でも、でもじゃ!その後、知らん人間と駆け落ちなんぞしよって!うわぁぁぁん!」


……三回目である。


セツは深く息をついてから口を開いた。


「エフューシス様。先日の魔獣の件ですが――」


空気を切り替えるように、冷静な声。


「彼の身につけている指輪に反応して、魔獣が襲ってきた可能性が高いという話を、そろそろ……」


「あっ、そうじゃ!」


エフューシスは、ぱっと顔を上げる。


「それ危ないから、預かってやる!」


指が、俺の指輪を指した。


「そもそも、それは同期のわしが持つに相応しいのじゃ!」


「……それは、できません」


少し考え、そう口にする。


場の空気が、止まる。


「なに?」


エフューシスの視線が鋭くなる。


ばあちゃんの形見。


「危ないっていうのは分かります。でも――これは、ばあちゃんの形見なんだ。俺が持つ」


セツが、ほんの一瞬だけ目を見開いた。

レンは、息を呑んでいる。


エフューシスは数秒、じっと俺を見つめ――

ふん、と鼻を鳴らした。


「……まあ、そらそうじゃの」


それ以上は、何も言わなかった。


――魔術界――


「アナスタシア様っ!」


駆け込んできた魔女の声が、緊張を裂く。


「魔族が……魔族の王が復活しました!」


三つ星魔女、アナスタシアと呼ばれた女性は、すでに理解しているように目を細めた。


「ええ……分かっていますわ」


絶大な魔力の奔流を、肌で感じ取っていた。


「私以外の三つ星たちを集めなさい。私は先に、封印された地の調査をします」


――人間界・上空――


空が裂けた。


バリ、と音を立てて巨大な亀裂が走り、

それをこじ開けるように――大きな手が、上下に引き裂く。


その奥から、別の存在が姿を現す。


二本角。

女性の姿をした魔族。


彼女は目を閉じ、魔力を探知する。


「……あちらね」


唇が、歪む。


「私一人で十分よ。あの……憎き女の魔力を感じるわ」


黒い翼を広げ、尻尾をぴんと伸ばすと、

魔族は凄まじい速度で――衛たちのいるカフェのある方角へ飛び去った。


エフューシスが、はっと顔を上げる。


「……セツ!」


「はい。感知しました」


二人だけが、同時に何かを察したようだった。


空気が重くなる。

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