一つ星魔女レン
俺の名前は、真中 衛。
高校を卒業したばかりの、十八歳だ。
両親は仕事の都合で海外を転々としていて、
俺は去年まで、祖母と二人で暮らしていた。
昔から、筋金入りのばあちゃんっ子だった。
だから――
祖母が亡くなったとき、正直、何も手につかなかった。
だけど、嘆いてても何も変わらないと思い
俺は祖母が遺してくれた物を、守ることに決めた。
受け継いだのは、
古びているが常連たちが集まるこのカフェと――
祖母が昔にお守りと渡してくれた指輪だ。
指輪には青く光る石が嵌められていて、ばあちゃんが見守ってくれている気がしてる。
ーー
「ごちそーさーん!」
「おう、ありがとな」
カウンター越しに声を返す。
「おっちゃん、いつもありがとうな」
常連のおっちゃんはにやりと笑いこう言う。
「衛くんのばあちゃんが作ったこの店を潰させるわけにはいかないよ」
一拍置いて余計な一言を付け加える。
「……にしても、衛くんのコーヒーはまずいなぁ!」
「うるせぇ!」
思わず声を荒げる。
「俺、まだコーヒー飲めねぇんだよ!
味なんか分かるか!」
おっちゃんの笑い声が、店内に響き店をあとにした。
――こんな日常が、ずっと続くと思っていた。
カランカラーン
おっちゃんが帰った後入れ違いで客が入ってくる。
「いらっしゃーい」
俺と同じくらいの年頃の女の子の姿がある
格好がどう見ても、魔女のコスプレだった。
三角の帽子にヒラヒラしたマント……
気合いの入り方が、半端じゃない。
「すみません!」
元気よく頭を下げてくる。
「私、“一つ星魔女”のレンって言います!」
魔女のコスプレであっているみたいだ。
「アリッサさん……
あ、えっと、人間界では“アイ”さんって呼ばれてる方、いらっしゃいますか?」
……ばあちゃん?
胸が、きゅっと締めつけられる。
「……ばあちゃんは、去年亡くなったよ」
「えっ!?」
レンと名乗った女は、目を見開いた。
「だ、誰にやられたんですか!?」
やられたってなんか失礼だなと思いつつも訂正する。
「普通に老衰だよ」
「……」
レンは、言葉を失っていた。
「わたしたち魔女は……魔力を纏っているから、老いないはずなのに……」
ぶつぶつと呟きながら、
ふと、俺の指に目をやる。
――指輪
レンの視線が、釘付けになる。
「……すごい」
ゴクっと息を呑む音。
「この魔力量……もしかして、アリッサさんは……」
一歩、踏み出し
「そのネックレスに、自分の魔力をすべて移したんじゃ……?」
魔力?
「それがあれば……
魔術界の危機を退けられるかも……」
レンは、真剣な目で俺を見た。
「すみません!譲ってください」
――は?
「冗談じゃねぇ」
即答だった。
「これは、ばあちゃんの形見だ」
拳を、ぎゅっと握る。
「魔術界だかなんだか知らねぇけど、
急に来て渡せって、はいどうぞ、って渡せるかよ」
「……」
レンは、一瞬だけ目を伏せ――
ボンッ
何もない空間に杖を出した。
「……すみません!すみません!」
謝りながら杖をこちらに向ける
次の瞬間。
「恋魔法! ラブクラウド!」
杖の先端から桃色の雲が俺に向かって放たれた。
「――っ!?」
反射的に身構えた、その瞬間。
指輪が一瞬青く輝いた。
すると雲は弾かれ――
「わっ、ちょ、待っ――!」
ボフッ
桃色の雲がそのままレンの顔に直撃した。
「……」
静寂
「……大丈夫、か?」
声をかけるとレンはゆっくり目を開いた。
そして。
「あ……」
頬を真っ赤にしながら俺を見つめる。
「か、かっこいい……」
「は?」
明らかに様子が違うレンに対し
「もう一度いちから説明してくれないか?」
何もないところから杖をだしたり、魔女とか本気で言っている様子も見てとれたから聞いてみた
レンは教えるようにちゃんと語り始めた
しばらくして、俺は頭の中で話を整理していた
――なるほど。
封じられていた魔族の王が、復活しそうな兆しを見せていて
対処するために、魔術界は大魔女であるばあちゃんを頼ってきた。
でも、ばあちゃんはすでに亡くなっていた。
だからせめてばあちゃんの力が眠っているであろう指輪を魔術界に持ち帰ろうとした。
「……そういうことか?」
レンは小さくうなずく。
「はい……。本当に、すみません……」
申し訳なさそうにこちらを見る。
目が合った瞬間、彼女はぱっと顔を赤くして慌てて視線を逸らした。
……話としては筋が通っている。
でも――
「まだ、全部信じたわけじゃない」
俺ははっきり言った。
「魔術界だの魔族だの言われても、俺が見たのは、さっきの変な色の煙だけだ。それにばあちゃんが魔女ってーー」
レンは一瞬考え口を開いた
「……みますか?」
「は?」
「飛んで……みますか?」
一瞬、意味が分からなかった。
「本気で言ってるのか?」
答える代わりに、レンは手を伸ばした。
空間が歪んだようにみえ、マジックのように一本の箒が現れる。
「……」
彼女は箒を指さし、俺に跨るよう促した。
「しっかり、捕まっててください!」
「いや、待っ――」
言い終わる前に、足元がふっと軽くなった。
浮いた。
体が宙に持ち上げられ、レンが杖をカフェの扉に振りかざすと扉が自ら開いた、次の瞬間、後ろに引っ張られるような感覚が襲ってくる。
「……っ!」
反射的に、俺はレンの腰に腕を回した。
「ちょ、ちょっと……!」
レンの声が裏返る。
「そんな……くっついたら……!」
箒がぐらりと揺れ、明らかに動きが不安定になる。
「危ない!」
「む、無理です……意識が……!」
高度はまだ低いが落ちたらただじゃ済まない。
「頼むから落ち着いてくれ!」
俺は腕に力を込め、体を安定させる
しばらくするとだんだん慣れてきてーー
子どものようにはしゃぎながら、俺たちはしばらく街の上を飛び回った。
風が気持ちよくて、下に広がる街の灯りがやけに近く感じる。
そして、カフェの前に戻ってきた――その瞬間だった。
空間に、黒い亀裂が走る。
ギギ、と嫌な音を立てて裂け目が広がり、そこから黒い獣が這い出てきた。
異様な存在感に、背中がひりつく。
「……っ」
レンが、俺の前に出る。
「下がってください」
さっきまでの浮ついた様子は消え、真剣な顔だった。
「魔獣です。最近、人間界でも目撃例が増えてるんです……」
そう言いながらレンは一瞬だけ胸を撫で下ろした。
(よかった……この程度の魔獣なら……)
レンは顔を引き締め、魔獣に向き直る。
次の瞬間、魔獣が地面を蹴り、凄まじい勢いで飛びかかってきた。
「恋魔法! ラブクラウド!」
桃色の雲が直撃し、魔獣の動きがぴたりと止まる。
まるで恋に落ちたみたいに、呆然と立ち尽くしていた。
「……今です!」
レンの杖がハンマーのような形に変化する
そしてその杖を鈍い音を立てて魔獣を殴りつけた。
一撃、二撃と浴びせ何度も殴りつけると魔獣は動かなくなった。
返り血を浴びながら、最後に――
にこっと笑う。
「お怪我はありませんでしたか!?」
……。
俺は内心ドン引きしながらも、必死で顔には出さないようにした。
(これ、魔法なのか……?)
「……ありがとう。魔法で倒すっていうか……殴るんだな」
「はい!攻撃魔法が苦手なので、肉弾戦を鍛えてるんです!杖に魔力を込めてですね――」
自慢げに語り始めたレンだったが、半分も耳に入ってこない
さっきの光景が、頭から離れない。
「それで……魔法のこと、信じてくれましたか!?」
「え?……ああ」
ぱっと表情を明るくして、レンは言った。
「じゃあ、私は一度、魔術界に報告しに戻りますね! その間――」
一瞬、もじもじする
「……彼女とか、作らないでくださいね……?」
そう言って、箒にまたがり空に消えていった




