9 事業は成功! 居候が増える
わっ!あぶない。あぶない。また馬車に轢かれては大変ですもの。わたくしは、馬車が射程距離にはいったとき、さらりとよけられるように鍛えております!
「夢魔様!みてください、前の教会よりも、大きな尖塔がありますわね!まずは、情報収集にいってみますか?」
ほぅほぅほぅ
夢魔様は乗り気なようです。だいぶん軽くなっておしまいでしたから、肩に乗っていらっしゃっても、わたくしの肩凝りはひどくならずに済んでいます。
なんちゃって魔法使いの杖を持って、れっつごー!ですわ。
「あの、もし? こちらでお悩み深き方はいらっしいませんか?わたくしと『夢魔様』があなたの悩みをさくっと解決いたしますわ!」
教会に礼拝に来ていた身心深い者たちが、真っ白なフクロウを連れた少女を物珍しそうにかこむ。
ひきこまれる口上と、凛とした声はあたりによく響き、おもてなしの心を盛大に活かして、この街でも新たな顧客を開拓すべく、ノアは張り切っていた。
明るい笑顔をふりまきつつ、転生後もついてないけど、憑いている少女(実年齢二十六才)、見た目年齢十七才のノアははりきってセールトークをするのであった。
◇
「ん~、いい香り!やっぱり焼き立てが一番ね!はい、あーん」
ノアはやつれたジン(元ホスト)を餌付けしていた。あれから、ジンは不運?にも黒猫型貧乏神の試練を受け、よろしくしていた侍女からは捨てられ、ビーナスを肩に乗せて、ノアを追いかけることとなった。
あっさり神様に職務怠慢を見抜かれ、黒猫貧乏神様のご利益?で雇い主は一気にお金を失い、職場もうしなったのだった。
コーネル王国に安住の地をもとめるのはなかなかに厳しいのだ。
むぐむぐ…ごっくん
やつれた頬を涙がつたう。おそらくノアよりも薄幸の美女感を漂わせている。たれ目がちなアイスブルーの瞳はうるんでおり、ぼんやりとそこをみるともなしに、座っているのは絵になる。
『やれやれ。だから、我について来ればよかったものを…』
夢魔のフクロウはこっそり、ジンにつぶやいた。
ひとしきり、クッキーをノアから、ついばんだジンは紅茶をあざやかな唇をカップにつけて、飲み干す。何度かおかわりしたジンは、カップをおろすと、満足げな吐息をはいた。
悲し気な顔をして、ジンはノアの手をしっかっりとつかみ、ぶるぶる震えながら懇願した。
「ど、どうか、オレの雇い主になってください。いえ、下僕で結構です。どうか、神様にはわたしがしっかり勤務しているとお伝えください!」
「ああ、あのあの。わたし、神様にはお会いしたこともないですし~、それに、お雇いするほどの何かをもっているわけでも…」
ノアはどん引きしつつも、がっしと掴まれた手を取り戻そうと奮闘した。
「ノア様は立派にお仕事をされているではありませんか!現にこうして、新たな住居までもたれています!オレは何も、もってません」
アイスブルーの目からはぽろぽろと涙がこぼれる。ノアの手を頬に押し当て、見つめてくる目は真剣だ。
「あ、あの、その、お仕事の見つかるまでの間でしたら、部屋をお貸しします。ジン様はとても女性にオモテになるようですから、わたくしの客引きのお手伝いをしていただけるとたすかりますわ」
「ほ、ほんとうですかっ!オレでも役に立てることがあるんですね!頑張って働きます!」
さきほどまでの儚い様子はどこへやら、イキイキとしだした。
「じゃ、オレ、皿あらってきます!」
泣いていたときとは大違いだ。さくっと立ち上がるとクッキーのカスがのこったお皿と紅茶のカップをもって、洗い場へいってしまった。
きれいな見た目で判断されがちだが、実は家事能力は相当のものであった。
な~ご
ノアの足元に身をすりよせて、尻尾をからめた黒猫。ジンをここまで連れてきたのはビーナスであった。
ビーナスは、クッキーのカスのついた口元を手で洗うと、
「ノア!オレ様はお前のベッドがいい!」とのたまった。
ごしゅっ
黒猫の頭にフクロウの一撃がきまった。
『おまえは、もうすこし反省しろ』
夢魔の重々しい一言が、キッチンにこだました。
◇
お読みいただきどうもありがとうございます!
「いいね!」「好き!」と思ってくれた方は、
☆☆☆☆☆ → ★★★★★
皆様のブックマーク、評価は作者のモチベの元☆
勇気を出して(^^)/~ ぽっちとよろしくお願いいたします!




