84 引き寄せるもの
このとき、夢魔は、たまたま、広場の中心部である噴水の前にいた。
そこへ、教会の上皇が乗る馬車が通りかかったのだ。
なんという群全だろうか、普段なら、どのような者もその場所を止めることは許されないが、古のお方だけは別だった。
かくして、その重厚な馬車は、噴水の前の広場で止まり、運命の再会を果たす。
『よくぞ参った。この日をまちわびたぞ』
降り立った神官服の二人に、声をかける夢魔。
腰を深く落として、礼を取る二人。
何事かとあつまった住民の和が何重にもとりまき、熱気が高まる。
だが、噴水のある広場の中心部だけは、凛とひきしまり、厳かな空気がただよっていた。
「お会いできてうれしゅうございます」
リンは神官服をつまんで、優雅にお辞儀した。
ジンは胸に手を当て、片膝をつけた騎士の礼をした。本来であれば、教会の神官として、お辞儀をすべきところだが、夢魔は王族なので、貴族のしきたりに則って二人は挨拶したのだ。
『われに力を貸してくれるか』
すらりと手に現れたのは、刃渡りがリンほどもある大きな鎌である。
柄には漆黒の塗、そこに星のきらめきが埋め込まれ、噴水の水滴と相まって、夢のような情景だ。
「もちろんですわ!」リンは元気よく返事すると、小首をかしげて、両手を差し出す。
ジンももちろんとうなずく。
じっと指示を待つ二人の間に、
「あらぁ、わらわは混ぜてくれないのかぇ?」と、なまめかしい香りをふりまいて、リンと同じ女神が現れた。
くいいるように見ていた人々がいっせにざわめく。
あれは誰だ。
にっとわらった唇は赤く、きりりとした眉は円弧を描き、まるで宝石のようなエメラルドのかがやきに目が吸い寄せられる。
ふっ、と夢魔は薄く笑うと、
『ああ、おまえも力を貸してくれ』
と、手を差し伸べた。
うっとりと喜悦をうかべた女神は、彼の手をとる。
びしっと固まったリン、まばたきすらしないジン。
時をとめた二人をジンは首をぐるんとまわしてみると、もう一つの手にもった鎌を消し去り、左手を差し出した。
『さぁ、おまえたちも、手を』
おそるおそる手を差し出すリン、
重ねられた青年の手に小さな指が乗り、その上にジンの長い指が触れる。
いつにない上機嫌な夢魔の笑みは、
凍り付かせるほどにうつくしく、片手に美女、もう一方には小さな神と神官を従えて、
『さぁ、迎えに行こう』
誰の元へ、とはいわなかったが、皆が、心の中に描いたのはある一人の少女だった。
◇
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