8 初キャンプ? 野宿ともいう。
一羽の真っ白なフクロウが眠りについた街の上を大きく旋回している。
目的は明かりの漏れている三階の一室だ。音もなく、窓枠に舞い降りると、旧知の男がやたら、かわい子ちゃんとよろしくやっていた。
『おう、久しぶりだな?神さんところからは、逃げてきたのか?』
じゃれあっていたジンはぎろりとフクロウをにらむと、窓枠を思いっきりあけた。おもわず後ろに飛びあがって、羽を広げる。
「あ、なんだフクロウか?僕は今、自由を満喫している。神に会っても仕事中だといってくれ」
がしゃん。
開いていたガラス戸はあっけなく閉ざされた。
『ふん、はなしのわからんやつだ!』
まぁ、黒猫のビーナスもおるからして、そうそう、悪さもできんだろう。
フクロウは窓枠に立てていた鍵爪を苦労して、引きはがすと、夜の街へ消えた。
◇
「あら、おかえりなさい。夜の散歩?ねぇ、この杖なんかどうかしら?安定しているし、軽いのよ!」
『我の下僕よ。いい仕事をしているではないか!』
バサバサと舞い降りて、がっし、と杖のこぶになったところへ掴まる。
「まぁ、なんだか、魔法使いになった気分ね!夢魔様もお素敵ですわ!」
ふふ、そうだろう、そうだろう。我はかっこいいのだ!
「では、そろそろ、この街ともさようならいたしましょう。次のまちはどんなところでしょうか?夢魔様のごちそうがいっぱいあるといいですわね」
ばさばさ。
おお、たくさんあるといい。おぬしは働き者だからな。
「では、まいりましょう!」
くっ、杖が重いですわ…。
◇
夜の森を夢魔様と通り抜けます。
真っ暗な森ですが、お月様の明かりが街道を照らしていて、静かな道はくねくねと山へ伸びています。
昼間に旅をするつもりだったのですが、通行証を持たないわたくしは、こっそり抜け出す必要があったのです。夢魔様のお目は暗闇でもばっちり、わたくしの肩におつかまりになって、右、左とくちばしで教えていただきました。ひっぱられた髪が何本か抜けてしまったのはご愛敬というものですわね!
「ここまで、来れば、つかまる心配はなさそうですわね!夢魔様は新鮮なお食事がありませんから、わたくしが昔語りでも…」
夢魔様がぐるんと杖の上で、振り返られました。お体は前向きなのに、お顔だけ、こちらを向けられて。小首をかしげられて、ふるふるされました。
しょぼーんです。わたくし、とっておきのブラックネタを用意していたのですが、夢魔様はご入用ではないようです。
ちょうどよい切り株をみつけて、座ると、ちまちまとパンにはさんだハムをかじり、夢魔様には見張りをお願いしました。
それから、山の頂上を超して、月が手に届きそうなくらい高い山を越え、
「月に手がとどきそうですわ」と、夢魔様をみると、ぐるんぐるんと首を振られました。
まあ、ロマンがありませんこと。
まわりは月明りで白々としています。
ふぅ、山道は疲れました。
でも、あとひと踏ん張り、もう少し下って、沢の近くで野宿ですわね。
パンからはみ出していたハムだけをかじりおわると、そっと、袋へもどします。お水をごくりと飲んで、川の水面がひかる麓を見晴かします。
あと、数刻はあるかなくては…。
装備をきちっと整えておいて正解でしたね。街では山用の靴を調達し、野営グッズを整えるのに結構な出費でしたが、必要経費ですわね。
次の街まで、あと、3日、食料は最低限ですから、夢魔様にこの世界で食べられそうなものがあるかお伺いをたてつつ、山中で調達しなくては!
びちっびちっ
川魚が跳ねています。夢魔さまがゲットしてきたお魚はお腹がほんのり赤く、両手にのるくらいのサイズです。
あ、これは焼いて食べろということですね。え、夢魔様ご入用ではない?おなかすきませんか?心なしか、夢魔様が軽くなられたような…。
「ありがたく頂戴しますね!夢魔様はお腹をすかせて、よりおいしく感じられるようにスタンバイされているのですわね!さすが、できた大人です!」
わたくしは、川魚を大きな石の上に置くと、持ってきたナイフでさくっと捌き、木の枝にさすと、焚火にかざしました。ぱちぱちとはぜる木の音。岩をすべるように流れる水の音、虫たちの声。
ふぅ、前の世界では、こんな、なにもない時間なんて、なかったですわね…。
メールチェックに、ごはん、洗濯、掃除、持ち帰り残業。いろいろありました。
見上げると、月は山に隠れて、ぼんやり山際を照らすのみ。星たちがかがやきを増して、ふるような星空です。
「きれい…。あの星たちの光が届くのに、何光年かかっているのでしょう。わたくしのいた世界もあのどこかにあるのでしょうか?」
じゅぅ
川魚からふくふくと湯気がたちのぼり、焼けてきたようです。貴重なお塩をお皿代わりの葉っぱに乗せ、すこしずつ、つけながらいただきました。
ふんわりとした白身はまったく臭みはなく、ジューシーです。
ああ、幸せ。わたくし、だれからも必要とされていなかったような前世でしたが、ここでは、そんなことどうでもいいのだと思います。
だって、生きるのに悩んでいるひまはないのですもの!
◇
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