71 家宝のゆくえ
「ノアよ。そなたは、古のお方に愛されておる。なんでもよい。望みをかなえてやろうぞ」
なんでもよい。
このことばにだまされてはいけないことを、ノアはセールスの現場で学んでいた。
ただより高いものはないのだ。
重そうな金の冠を、若干うすくなりかけた頭髪でもって支えているこの国の王は、夢魔とは違って、かなりあぶらぎっていた。
そして、あまり賢そうな面構えではない。
会社で、若い子をつかいつぶして、何一つ悔い改めない、ある意味企業戦士の顔。
まさに、ブラック企業に巣くう、魔の手先の顔をしている。
「ありがたきお言葉。なれど、わたくし、そのような大それたこと、わかるよしもございません。お言葉を心に刻んでおきますわ」
あくまで、にこやかに、馬鹿そうなフリでかわす。
こういう、オレはえらいんだぞう病にかかった輩には、持ち上げる言葉がもっとも効果的だ。
自分を下げて、相手をあげる。THE サラリーマンの処世術である。
「ふむふむ。おぬしはなかなかよいのぅ」
もっとちこう、と手招きする。
こ、これは、飲み会のおやじたちとかわらないのでは…。
ノアはひきつりそうな笑顔をなんとか、貼り付けて、そろそろと恥ずかしそうにふるまい、小さなく一歩ふみだす。
さらに手招きするじゃらじゃらと指輪のはまったふっくらとした指に、嫌気がます。
ああ、部下に働かせて、自分は手を汚さないタイプ。いたなぁ。
回想にふけって、現実逃避をしなければ、正気をたもてなさそうだ。
ついに、王の足元まできてしまった。
膝をついて、首を垂れ、両手を上に向けて跪拝する。
この国の礼儀だけれど、なかなか腰と膝につらい。
はやくおわってくれないかしらと、心の中で、悲鳴はマックスである。
「よし、これを褒美につかわす。家宝にせよ」
脂ぎった手に握られ、掌にちょこんとおかれたのは…、
マカロンだった。
お菓子を家宝にする?
…疑問はつきないが、ノアは物わかりの言いサラリーマンたちを見習って、さらに深々と跪拝し、
「ありがたき幸せ。大切にいたしますわ」
と、震える声で謁見を終えたのであった。
◇
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