70 黒猫ってかくれんぼは上手だね
ノアはなぜか、夢魔のエスコートを受けていた。
ビーナスは、夢魔の後ろで、足音を立てずに、歩いている。
なるべく、その陰から出ないように歩く姿がいじましい。
『よく来てくれた』
円卓の最も深い位置に腰掛けた夢魔は、ノアにも座るよう促し、自らの後ろ、本来であれば、侍従を控えさせる椅子に着席させた。
静かに、つきささるほどの視線をあびたノアは息をするのも忘れて、肩をこわばらせている。
声を発した主である夢魔に理事たちはいっせいにまなざしを向け、表情を消す。
彼らは、普段は適当であるが、交渉のプロたちでもある。笑顔の下に武器をかくしもっているのが、理事という生き物である。
『ノア、理事たちがおまえに会いたがっていると聞いた。挨拶するがよい』
緊張で、のどがからからにかわいたノアは突然の指名に、目を見開き、あえぐ。
力量をはかるような理事たちの視線が重圧となる。
…わたくし、なんだか、デジャブを感じますわ。そう、あの、ブラック企業のつるしあげの会議だ。
こんな時どうするのだったかしら?
必死に、対応策を思いめぐらし、ノアは覚悟を決めて、立ち上がった。
にこり。
「みなさまにお会いできて大変に光栄ですわ。わたくしノアと申します。どうぞ、以後、お見知りおきを」
なるべく、きりりと、強い口調で話す。
なめられたら終わりだ。
深くお辞儀をすると、夢魔の方をみて、もういいか?と目で問う。
夢魔は軽くほほえみ、うなずく。
着座の許しをえて、ノアは浅く腰掛けた。
円卓の間の理事たちは、強いまなざしを有した古のお方に畏怖を感じつつ、しかし、ノアに対する優し気な対応に度肝を抜かれていた。
あの少女は何者だ?
たしかに、ロウエンの地方を盛り上げた少女を連れてこいといったが、まさか、古の人がその少女を連れてくるとは、誰が予想しただろう。
圧倒的なまでの、強さと知性をたたえた真っ黒な瞳は、歳降りて、吸い込まれそうである。夢魔の一挙手一投足に目が離せない。
『よい。みなのもの、ノアのごとく、よき隣人を敬い、はるけきの野山にいたるまで、善く治めよ』
夢魔にしては、長いセリフをさらりと言ってのけると。ゆったりと微笑む。
かたい表情で、この場に集っていた皆は、古のお方の悋気にふれずにすんだこと、彼らの統治により良いものを、と望まれたことに、いたく気が高ぶり、そろって、低頭する。
それを、満足げに見渡すと、夢魔は、ノアを連れ立って、円卓の間を後にした。
その影に黒猫がいたことは言うまでもない。
◇
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