58 助けるもの
抗うすべをうばわれたビーナスは、ゆったりとした足取りで近づく、長身の男をよくみようと目をすがめる。
そこに、どこかでみたことのある気配を感じ取って、魂が共鳴した。
おまえは!
『なかなかに、滑稽だな。力を封じられたか?』
口をはくはくさせるが、言葉にならず、抵抗もできないビーナスだが、なんとか伝えようと、口のかたちで
た、す、け、て。
と、合図をおくる。
『うむ、そうしよう。では、準備はよいか』
準備ってなんだよ?という問いを飲み込み、
は、い。
と口をかたちづくる。
すると、突然、ざばあぁと冷たい水がロウエンとビーナスの上に降り注いだ。
夢見心地で、ビーナスに口づけていたロウエンは、急に水をかぶり動きを止めた。
はっと顔をあげると、そこには、真っ黒な猫がひっくりかえって寝転がっている。
どういうことだ!
猫をつかまえようとしたロウエンの髪をつかまえた者がいた。
驚愕に硬直したロウエンは
「だれだ!」と振り向きざま、手刀を繰り出す。
しかし、それを難なくつかむと、くるりと締め上げた闖入者は、
黒猫に、今だ。と合図をおくる。
金縛りからとけたビーナスは、ころんと丸くなって、ばびゅんとベッドから飛び降りると、黒衣のおとこの後ろにまわりこんで、毛を逆立てた。
痛みに顔をひきつらせつつ、足蹴りで応酬しようとしたロウエンを軽く舞うごとく足払いをかけて転倒させたかとおもうと、ひらりと飛びのいた。
ローブを着た男の長い髪がさらりとこぼれおちる。
黒猫に手を差し伸べると、とびつくように腕に収まった猫を大事そうに抱えると、ばさりとローブの裾を払う。
転がったまま、水を滴らせ、謎の闖入者を凝視していたロウエンは
「まて」
と、発するが、その時には、猫ともども、姿は掻き消えていた。
◇
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