49 ノアまた憑きまとわれる?
ノアは夢の狭間を揺蕩っていた。
そこでもない真っ白で、ゆらゆらと泡のような場所を漂っている。
自分はそのなかで、ちいさくなったり、おおきくなったり、毬のように収縮しては、明滅する光のような存在だ。
それが、ずっと続くかと思ったが、ノアはそこから、また違う位置に浮かんでおり、走ってもはしっても地面に足がつかず、地上は夜の街灯がはかなく照らすのみで、暗闇にひっそりと家屋が点在しているのがかすかにわかる程度。
ノアはなつかしい情景を空からみているのだった。
自分が生まれ育った通学路を上からながめる、そんな不可思議な体験を今している。暗闇を浮かんだまま、ノアは実感を持てない。魂のような存在で、ふわふわと動いていく。足をすすめれば、その一歩は地上の何倍もの距離をかせぎ、あっというまに、情景はすぎさってしまう。
ただただ、その道を進んでいき、また、違う情景に出くわす。
それは、なんとなくふんわりと暖かいひかりで、ほっとしたところで、目が覚めた。
あたりをみまわすと、なつかしい事務所兼住居のベッドの上だった。
でも、ノアはその布にふれることも、手触りを感ジンこともできない。すべてが素通りしてしまう。
そのベッドの上には、美しい面差しが、まるで造り物のようにととのった、シミ一つない肌、紅い唇、きりりとした眉、エメラルド色の硬質なガラスのような目。
どこかで、みたことのある金のうねりを体に沿わせて、ノアの寝ているベッドの真上に浮いていた。
風邪もないのに、そよぐ彼女の軽い極上の幾重にもかさねた衣が、淡い光にすけて有限の時を生きてきた者の風格を醸し出している。
「あなたは…、だあれ?」
ノアは金縛りでうごけず、口だけが、幼い言葉をつむぐ。
「わらわは、リンを産みし者。そなたは、あの娘を離さず、この地上に縫い留めよった。さらに、わらわの大事な人形である下僕をも奪ったのぅ?」
「リン?」
目を動かすこともかなわず、呟いた言葉は、なぜかあの幼いちびっこ神様に重なる。
ああ、あの幼子はリンというのだわ。
本能で、ノアは感じ取る。
そして、下僕とは…、ジンではないかと推測した。
「そうじゃ、ジンはわらわの大切なしもべ。それをリンが勝手にお前の傍につかわし、もどらなくなったのじゃ」
「…」
ノアはどうしていいかわからず、あえいだ。
ものすごいプレッシャーがのしかかり、ずんと重みが増す。
けれど、寝ているノアは布団の一切のぬくもりを感じられない。
「あれを奪ったのはそなたであったか。罪深き人の子よ。わらわはおまえを許すことができぬ」
ぐっと、首をしめつける力に、ノアはのけぞる。
けれども、まったく身動きはできず、詰まった息だけが苦し気にもれた。
「じゃが、実態のないそなたは、わらわには殺すことはできぬ。なんと、いまいましい」
きりりとした眉が憎々し気に逆立て、ノアを見下ろす目は凍てついた光をちらつかせだす。
いよいよ、ノアは意識を失う、という寸前、彼女は、魂の姿をかき消して、あわのようにひかりの細かい粒子に分解され、消えた。
「ふん、つまらぬ小娘を守る輩がおるとは。なんと物好きな。まぁよい、わらわの時間は無限じゃて、楽しませてもらおうぞ。死神よ」
残像を怒りににじませて、浮かんでいた女は掻き消えた。
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