41 ジンの癒しと涙に
ノアたちが到着した会場では、さきほどの黒猫へのプロポーズ劇上にすっかり舞い上がったおば様や推し活に余念のないご令嬢たち、はたまた、結婚して巣立ってしまったこどもを懐かしむ主婦、失せ物をとりもどせず、もんもんとしていた未亡人など、さまざまな生い立ちの女性たちが集っていた。
けれど、夢魔の舞飛んだあとには、彼女たちを悩ませていたもろもろは、春の雪解けのごとくすっかり溶け切った水になり、あるいは泥水となり、彼女たちを潤し、より強い大地に茂るみずみずしい草のように、生き返らせていた。
そのただなかに、ジンは高位の神官の出で立ちで、微笑んでたたずんでいた。
まわりを囲む女たちに媚びるわけでもなく、冷たくあしらわけでもなく、ただただそこにあって、慈愛のまなざしを向けている。
ジン様、少しおやせになられたみたいですけれど、お元気そうで、良かったですわ。
ノアの胸中に、久々の再開を喜ぶ自分と、これから、彼とわかれてこっそり旅立つことの自責の念が去来する。
会場の雰囲気を壊してしまわないよう、ライトアップされたジンの周りからは離れた、入口近くの緞帳の影に待機した。
ここでは、ジン様が主役だ。
ゆったりとした歩みで、会場中のご婦人方や淑女と歓談し、癒しの時間を提供する。
近すぎず遠すぎず、それでいて、心温まるふれあいは、集まった者達を歓喜の渦にのみこんでいく。
ジンはそこにいるだけで、華やぎ、女性たちを勇気づけ、明日を信じさせる力があるのだ。
すばらしい才能ね。わたくしにも、みなさまをあんな風に導くことができればよかったのに…。となりに控えているちびっこ神様はジンの様子を、穴が開くほど見つめていた。
おそらく、彼女のところではあのような姿をみせたことがなかったのだろう。
ノアにとっても、今のジンはちょっと近寄りがたいほど、神々しく、涙をこぼしてばかりいた会った頃とは、まったく違う芯の通った人物に成長していた。
会えなかった日が長かっただけに、ジンの変わりようは、ノアから離れていく彼の心を具現化しているようで、ぎゅっと自分で自分の体を抱きしめて、わぁわぁと泣きたくなる衝動を抑えるのに唇をかんで耐える。
ジン様。お幸せに…。
いつにない、ノアの表情にちびっこ神様は新緑色の瞳を陰らせた。
◇
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