4 神様は転生者にあまくない
「神様、うっかりヒロインさまが馬糞まみれでお倒れになっていますが、よろしいのでしょうか」
神様の執事もとい下僕のジンは、水晶盤越しに倒れている少女をみて、はらはらと涙をこぼした。彼はとても涙もろいのだ。
たれ目がちなアイスブルーの瞳には、涙のしずくがうかびあがり、白磁の頬をすべりおちる。つややかな腰まで届くうねる黒髪には水晶のしずく型のビーズがちらばっており、彼の涙を連想させた。
なよなよしい男かとおもえるが、どうみても、男で、逆三角形のスレンダーなスラリと足の長い抜群のスタイルを誇っている。
その涙をながす青年をかしずかせている神様といえば、
椅子にちょこんとこしかけ、足をぶらぶらさせていた。ちびっこである。
この姿は「幼女」なのが、彼の仕える神様なのだった。
ぷっ、とふくらませた頬はローズピンク、金色のまつ毛に縁どられた目は新緑の色、ふわふわのくせっ毛は跳ねて、肩にかかっている。
「いいの、いいの~、ヒロインちゃんなんて、ぜんっぜんっ大事じゃないの~。
最近は悪役令嬢が『ざまぁ』っていうほうが流行りだしぃ。ヒロインちゃん逆にこてんぱんにのされちゃうじゃないの。どっちもどっちぃていうかぁ。
そう、もう、つまんないんだもんっ。
ヒロインちゃんはさぁ、最初はどうしようもないくらい不幸体質でいてくれないと~、物語上のちょうせいっていうのかなぁ?いるじゃなぁい。そうでないと~、
〈ちょうわ〉がみだされる、ってお父様がいってたものぉ」
ああ、神様。どうして。救われる人間とそうでない人間がいるのでしょう。俺がおつかえしている神様は異世界から取り寄せたラノベの読みすぎで、いつもどおりです。
ここの神様は転生者に厳しいことで有名です。かくいう俺も間違えて、この世界へきてしまいました。転生前のブラックな夜の職場と張り合えるか、それ以上の悪さです。
劣悪です。ええ、無給で二十四時間はたらかされます。あ、もちろん休暇なんてないんですよっ(黒い笑顔)。
下僕ですしね。
ふっ
決まった!
涙をひっこめて、気持ちよく決めていると、
「なに、浸ってるの~?あなたに比べて、ヒロインちゃんは働いてもないし~、黒猫様というお話し相手もいるのよぉ?どこがぁ、不満なのかしらぁ?」
「いいえ、すべてです。神様」と、いいたところですが、言ってもわかってはくれないでしょう。
「そうですね…。ヒロイン様はまだ何もされていません。ですが、いきなり転生してきて、何ができるというのです?いっそ、ビーナス様をあの青年にレンタルしておいて、拾われたあの茶髪男の屋敷で住み込みのメイドとか、というのはどうでしょう?」
「きゃはは、それ、なんか、ヒロインの虐げられた感とか、何か起こりそう感が、いいわねぇ。黒猫様もかわいがってもらえて、サイコーじゃん。よし、ヒロインちゃんにはその線でがんばってもらおっと」きらりんと、新緑の目が底光りする。
あのすべてをもっています的拾った男を「貧乏にし」、「肩こりにし」、「不運にする」なんて、神様、すごい鬼畜ですね。ビーナス様はもちろん、普通の猫ではありませんからね…。
「でも、心配です…」ジンは楽しそうに話す神様(上司)に一応、苦言を呈す。
「やだー、あなたも、この物語を盛り上げるのに一役買うのよぉ!うふふふ。とっても楽しみ!美しい男に囲まれるヒロインちゃん。惑わされる毎日にひいひい言っちゃうのよぉ。ジン、あなたもいい男だもの、いってらっしゃ~い」
‼
どっかーんと空いた空間に、ジンはポイっと放り込まれると、真っ暗闇に落ちた。
執事こと、僕、ジンはあっさり、神様に飛ばされた。さすが、ブラックな神様のいらっしゃる異世界だ…。
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