37 ビーナスの災難の予兆
「ぬおおおぉ、雪だぁ!雪だるま作ろうぜ!」
『ふぉっふぉふぉっ。ビーナスは元気じゃな。我は少しばかり様子をみてくるぞ』
ばっさっばっさと飛び立つフクロウを見送って、ビーナス様は猫のくせに、はしゃぎまわって、雪を蹴散らして庭に足跡を大量にしるした。
「はははははっ、すこしもさむくないわ!オレ様は無敵だあ」
ごろごろごろ。
ところどころ雪のかたまりをつけ、転がっていくと、猫だるまになった。
戻ってきた夢魔に、本物の雪だるまと勘違いされて、目をつつかれそうになり、「みびゃぁあ」と鳴いた。
◇
会場は熱気に包まれ、お酒、料理、香水といった様々な香りで、むんむんであった。
ノアたちが用意していた大広間には、百名を超える参加者が詰めかけ、夢魔のありがたくもやさしい説法に涙を流して聞いていた。
この回では、逃げられた○○を熱く語る会で、ありていに夫に、子どもに、ペットにと、去ってしまったあれこれを語り合い、すっきりさっぱりすることを趣旨としていた。
「まあぁ、それはとんだ災難でございましたねぇ。でも、その旦那様なかなかお目が高い。お嬢様のような方を捕まえておきながら、推しにぞっこんになられるなど」
「そうですの!わたくしをほっぽりだして、推しファンクラブに発してしまったのですわぁ」
わあっと泣いてしまう十五、六歳の少女に、実は、その推しにはまってしまった主婦がうなずく。
ちょっと会話がかみ合っていないが、泣いている少女も実はその推しに結構貢いでいたため、実は同類なのであった。
その隣では、逃げられた猫について、熱く語る青年の姿があった。
ロウエンである。
彼はせつせつとその愛猫のかわいい仕草、愛嬌のある尻尾についてかたり、いなくなってしまってからの廃人ぶりをアピールした。
女子ばかりの会にどうやってもぐりこんだかというと、教会のコネをつかったまでだ。
ジンを貸し出す代わり、僕を参加させろ、という圧をかけたのだ。
「そんなに愛されておいでなのに、いらっしゃらなくなるなんて、きまぐれでかわいいですわぁ」
ロウエンの何を聞いていたか、わからないが、白髪をきっちりと整えたマダムはより上手であった。
「そ、そうなのだ。そのツン、デレがまたたまらんのだ!」
うんうんとうなずくご婦人、彼女の愛猫も奔放なオス猫で、しょっちゅうでかけてはしばらく帰ってこない。けれど、帰ってきたときには、うれしくてたまらないということを熱弁していた。
会場内は熱く語り合うもの通しの熱狂が渦をまき、夢魔はステージの横で、こっそり、のぞいて、出番を待ちわびていた。
同じ悩みを持つもの同士の連帯感もたかまったところで、くじ引きが開催される。
夢魔とくじ引きの箱をもった、ノアがステージにあらわれると会場からは拍手がまきおこった。
すっと手をあげ、深呼吸をするノア。
箱をそっとあけ、夢魔のくちばしが中身をかきまぜ、ひとつをつまみ上げた。
それを受け取って、折りたたんだ紙をひろげるノア。
「十番の方。ステージにおあがりくださいませ」
ノアの声は、会場のとおくまで、澄んでひびく。ブラック企業できたえられた、声出しのたまものである。
ざわざわと手元の半切れを確認してはため息を吐く参加者たち。
その中を颯爽とステージにむかったのは、ロウエンであった…。
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