36 乙女たちのものがたり
とあるところに、魔法で閉じ込められた時をとめたままの、古びた城の最上部に、囚われの姫がいたそうな。
それを不憫に思った通りがかりの王子が、魔法を解除し、蔦を分け入って、呪をかけた魔獣たちからから姫を助けだした。
そして、めでたく二人は結婚した。
また別の伝説には、この秘境にたいそううつくしい姫が住んでいたとある。それをききつけた豪族の首長が姫を所望した。姫をよこさなければ、郷ごと焼き尽くすと告げて。
姫は故郷を守るため、嫁いでいくことに決意を固めていたが、旅の途中に出会った青年に恋をしてしまう。
手に手をとって逃げようとする姫と青年を豪族の使い魔である大蛇が追いかけ、ふたりもろともくびきころしてしまった。
これらの物語の姫は不憫な存在として描かれ、みずからの命は天秤にかけらえるのみ。
姫の命ってなんか儚いなぁ…。
寝転がって、恋物語の短編集を読んでいた、神様は足をまげて、ぱたぱたと動かす。
横では、せっせっと荷造りをするノア。
イベントを開催する場所へ移動するため、あらかた詰めてあったカバンに、先ほどみだしなみを整えるのにつかった櫛や化粧道具を入れていた。
ノアは、黒子役なので、目立った格好ではない。
温泉郷にやってきているお客達のドレスコードは『着物』だ。
なので、ノアも小袖に着替えていた。帯は宿屋の女将さんが整えてくれたので、きまっている。髪は少し伸びたので、耳元はたらして、後はおだんごに結い上げてもらった。
庭のつばきを一つかんざしがわりに挿して、出来上がりだ。
ちびっこ神様は太鼓帯を振袖にあわせ、寝っ転がって足をばたばたさせているため、すそがはだけていた。
短編集をとじると、ノアの横顔を見やる。こうやってみてみると、(ノアは働き者よねぇ。だまって、王子を待つような殊勝な姫とはおおちがいだわぁ)と、勝手な感想を抱く。
荷造りを終えて、膝に付いた、糸くずをぱんぱんとはらっているノアは、少しやせていたが、すっきりと通った鼻筋に小さい唇、目元はぱっちりとしていて、紅をほんのりさした目元は色気がある。
これで、モテないはずないのにねぇ。
ちびっ子神様は、短編集をひとなですると、自分のかばんにそっとしまった。
◇
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