34 凝り性なわたくし
ぐぇっ。
ノアの背の上にまたがり、ちびっこ神様は筋金入りのノアの肩こりを肘でぐりぐりとほぐしていた。
「あんったて、ビジネスの才能だけはあったのねぇ。いきいきとしちゃって!ジン達も楽しくやってたようじゃなないのぉ」
「うぇ、いたたた。そ、そんな、よくわかんないれす~」
うつぶせに寝ているノアは重さと痛さで、顔をあげられない。くぐもった声を布団がすいとってしまう。
ノアは前の世界ではただの使いっぱしりで、先輩のいいように扱われていた自覚はある。
でも、今思い出してみると、なんだか、先輩の仕事をまるっと投げられて、それをひーひーいってこなしていたような気がしないでもない。
営業プランのパワーポイントや事業実績のエクセル管理表、果ては、経営者へのプレゼン資料まで…。
まぁ、それで、今、乙女心をがっちりつかんだプランを実行できているのだから、ブラック企業に勤めていたことも、これでチャラに☆――とはできないのが、悲しいところだ。
けど、みなさまに喜んでいただけて、今は幸せかも…。
「むふぅ。神様はマッサージ師になれますわね。どこで、この技を?」
ようやく、痛い刺激から解放され、こっそり、見上げてみると、神様は遠くをみつめていた。
「はんっ。あんたにはおしえてあげないわよぉ。んでも、お父様がよろこんでくれたの!」
「ああ、そういうことですか。親孝行って感じで、素敵ですわぁ」
「も、もう、そんなんじゃないのよ!あんた、明日が本番でしょ、さっさと寝なさいよぉ」
「はい。どうもありがとございます。さあ、いっしょに寝ましょう」
ぽすぽすと隣の布団をたたくと、照れくさそうに、布団に潜り込むちびっ子神様。
教会ではふかふかのベッドにふわふわのクッションに囲まれていたが、一人で寝ていたのだ。このお宿へきてからは、ノアといっしょの部屋で寝泊まりしており、ノアは妹ができた気分だ。
「うふふ、おやすみなさいませ。わたくしは、すこしばかり明日の予習をしてから、ねむりますわね」
ノアは、灯りをしぼったランプをもって、窓際のローテーブルと椅子に移動する。
明日のスケジュールを再確認し、手配に抜け漏れがないか最終チェックをするのだ。
資料に目をとおし、必要なところには印をいれて、満足したノアは、ランプの灯を絞って消す。
ふっと消えた灯りに、あたりは真っ暗になったように感じたが、しばらくして、目が慣れると、ぼんやりと月あかりに雪化粧が浮かび上がって、庭に凹凸を見出す。
庭園にはうっすらと雪がつもり、きらきらと輝いてみえる。
月は煌々と集落を照らし、ひそやかな熱気に包まれた、温泉郷を見守っていた。
そっと、紙束とペン、ランプを持つと、足音をたてないように、布団に近づく。
カバンに明日の資料を詰め込むと、ほっと一息ついた。
すぅすぅと寝息をたてる神様は、あどけない顔をしていた。
人間でいうところの九歳か十歳くらいだろうか。
むにゃむにゃと何やらつぶやくと、
「ごめんなしゃーい、おかあさまぁ。もーすこしぃ、まっててぇ」と、軽くうなされて寝言をはっきりといった。
きっと、ジンをはやく取り戻して、おかあさまのところに戻りたいに違いない。
そっと、頭をなでて、ずり落ちた上掛布団をかけなおして、とんとんとリズムを刻む。
「もうすぐですわ!神様のおねがいごと、わたくしがかなえてさしあげますわ」
力づよくうなずくと、ノアは祈りの形に手を組む。
どうぞ、わたくしにお力を…。
ノアは久しぶりに神頼みをした。
神様の前で。
◇
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