3 うっかりだったなんて☆
青年は黒にゃんこの背をなでなでしつつ、微笑んでいた。
彼は手ずから新鮮なミルクをあげられてご満悦だ。
なぜって?
彼は動物にものすごーく嫌われる体質だったからだ。街中を歩いているだけで、散歩中のわんこにおそいかかられたり、飼い猫で大人しいといわれる猫ちゃんにですら、突然ひっかかれる始末。
おまけに馬にちがづけば蹴とばされ、池のアヒルにも近寄るだけで逃げられるのだから…。
ああ、猫とはこんなにやわらかくて、すばらしい生き物なのだな。
うれしすぎて、青年の顔はろとけている。
黒猫の背をを撫でる指は長く、優雅だ。ゆったりとした着衣はつややかな絹でできており、所々に刺しゅうが入れられている。
腰帯は銀糸が織り込まれ、幾何学模様を織り上げられており、スラリと長い脚は、床に片膝をつけ、のぞき込むように黒猫のなめる様子を見つめている。
瞳はグレーで、肌は小麦色、赤茶の髪は複雑に編み上げられ、片方に垂らしている。
健康的な肌つや、身のこなしから、ひきしまった体を連想させる。
街を歩けば、女性はおもわず秋波を送ってしまうであろういい男である。しなやかなからだつきは、優美な洗練した仕草を備え、彼が身分ある存在であることを物語っている。
彼が、道端に転がった少女をひろったのは、ついでだった。目が合った瞬間この黒猫は「にゃん」と甘えてすり寄ってきたのだから…。
少女は、従僕たちが気をきかせて、拾って帰ってきてしまった。
少女はメイドにまかせて、少女を着替えさせ、館の人間があわただしくしている間に、彼の部屋にいたはずの黒猫は見当たらなくなって、彼はとてもあせった。
どこにいったのかと探し回って見つけた先―――黒猫はなんと、少女の寝かせている部屋で、ネズミをつかまえ、くわえていたのだった。
―――黒猫は少女になついているのかもしれない。
仕方ないので、少女にも施しをすることとした。スープをさし入れさせて眠ったままの少女を一瞥すると、黒猫には彼自身がミルクのはいった皿をちらつかせ、自室まで連れてきた。
むろん、少女のことなど黒猫ラブな彼の目に入るわけもなく…。ひざにすり寄ってくる黒猫こそが、彼の拾った「天使」なのだ。
こんなになついてくれる猫なら、人間の女(飼い主?)など、まったくもって不要だったな…。
無情にも彼は、少女を捨ててこさせようと考えていた。
◇
「ノアちゃんったら、拾ってもらったのに、もうすてられちゃうの~」
あたし、心配☆
――――さすが、悪運体質ですわぁ。




