21 ツアー開催あやぶまれる
どのように住居兼、事務所へ戻ったかおぼえていなかったが、くずれるようにキッチンの椅子に腰をおろす。
テーブルにつっぷすと、のどが異常にかわいていることに気づき、のろのろと、コップに水をいれ、ごくごくと飲み込んだ。
どこから、考えればいいのか、衝撃が大きすぎて、考えがまとまらない。
ジン様のお付き合いのあったメイドはもちろん覚えている。
わたくしの上に降って沸いたジンは、ノアをあっさり見切って、メイドに熱烈なアプローチをして消えたのだった。
しかも、ピンクの目を持ったわたくしというヒロイン(神様いわく)よりも、よっぽどヒロインらしい姿かたちで、勝てる要素は皆無であった。
そう、ノアとちがって、ロウエンと連れ立ってやって来たメイドはまごうことなき美少女で、プロポーションもすばらしく、男なら、イチコロといったかわいさがった。
―――そうよ、ジン様は、ああいうお方こそふさわしかったのだわ。
ざわついた胸をそっとおさえると、ごくりと唾を飲み込む。あたりをみわたすとすっかり陽が落ちて、暗くなっていることさえ気づかなかった。
ランプに火をともすと、いつもはにぎやかな食卓にぽつんと一人でいることにおしつぶされそうな不安がのしかかってくる。
ジン様やビーナス様が来る前は、夢魔様と教会の裏手で出会い、それからは共に過ごしていたのだった。
わたし、さびしいんだわ…。
でも、こうなるような予感はしていた。
だって、わたくしに憑いている夢魔様も黒猫のビーナス様も、「わたくしだから絶対にくっついていたいという」わけではなかったはずだ。
なんとなく、おもしろそう、そんなところだと思う。
それに、ジン様だって…。
美少女とジン様はどうみてもお似合いのカップルだ。しょぼくれたノアのような貧相な姿では隣に立つのにはものすごく不足だ。
それは、知っていたけれど、ジン様のやさしさにすがっていただけだったのだわ―――。
そう、それも、知っていた。でも、甘えていたんだわ…。
「わたくし、ほんとうに気づかなくて、みんな。ごめんなさい」
はらはらと涙がこぼれてくる。もっとはやく、ジン様もビーナス様もあの立派なロウエン様の元に戻らせてあげていれば…。
ジン様はいやいや女性たちの相手をしなくてもよかったのだし、ビーナス様はなでまわされることもなかったのに。
後悔と懺悔の気持ちがないまぜになって、奥歯をかみしめて、嗚咽をこらえた。
こうなることは、予測範囲で、自業自得だった。
夢魔様にも、つまらない暮らしを強制していたのよね…。好きに相手をえらんでもらうことなく、お客のさえずりを聞かせて。
とんだ、災難だったのに違いない。
お客様にも喜んでもらって、みんなもよろこんでもらっていた、なんて、偽善もいいところだ。
ふぅ。
ようやく、夢から目が覚めたのだ。
ロウエン様に彼らをおまかせして。これが、いいのよ。
でも、心残りは、冬のツアーだ。
ええ、そうよ、冬のツアーを成功させたいわ。
ロウエン様にお願いして、なんとか、ならないかしら…。
冬のツアーという大事業までは、そっとアシスタントとして、わたくしをロウエン様にやとってもらって、いいえ、無償でもいい。
わたしくしは―――、最後まで、ツアー開催をあきらめきれないのであった。
◇
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