18 元ホスト、がんばる
ジンが令嬢の目を見つめて微笑めば、恥じらう乙女たちが続出し、やさしい言葉をかけられたマダムたちはしっとりとした余裕のまなざしで見つめ返す。ジンが無邪気にふるまうと、おばあ様達は、ほんのり頬を上気させて、恋愛ごっこを楽しむ。
ひとりひとりのお客を個室に呼び出し、手をにぎって、
「どうぞ、オレのことはジンとお呼びください。あなたさまには特別に、ですよ」とささやく。
「まぁ、そんな。うれしいですわ。では、ジン、とおよびしても?」
「もちろん。アンナ様のことも、ア・ン・ナとお呼びしても?」
客たちは、名前を呼び捨てにすると、たいてい喜ぶ。より近しい存在に感じられるからだ。
次に、ちょっとしたプレゼントを用意して、プレゼントするのも効果絶大だ。
花やハンカチ、香水等、すぐには、なくならい身近なものが良いようだ。
こうして、ジンはお客たちの心をがっちりとつかんでいた。ホストの真価は顔だけではない。
ああ、オレってなんて罪作りなんだ。こんなにも美しい女性たちがオレになびいてくれる。
ジンは演技だけではない、真正の女たらしであった、
それを、ノアにも試してみる。
しかも、両手をにぎって(お客には片手どまりにしている)。
きょとんと見つめ返してくる黒曜石のような瞳は純粋で澄んでいる。ほんの少しとまどいを宿した眉毛がなやましい。
しかし、ただ、それだけだ。
(おかしい、なぜ、オレの熱がつたわらないんだ…)
ジンは、さらに、ノアの頬に手をあてて、
「ノア様には、特別にオレのことジンとよんでほしい」とろけるような笑顔で迫ると、
「え?ええ。でも、神の御使いでいらっしゃるお方を呼び捨てだなんて…、恐れ多いですわ。ですから、ジン様とおよびしてもよろしいですか?」と、上目遣いに、ノアから目を見つめ返されると、ジンがうろたえる番であった。
「ええ、ノア様がそうおっしゃるなら」ほんのり目元がそまり、口をはくはくさせて喜びにこころが暴走する。
そして、うっかり、「ジン様呼び」でいることを、許してしまった。
(いや、そうじゃなくて、オレはノア様の特別になりたくてだな!)
さらに、「オレからあなたに使っていただけるよう、何かかたちのある贈り物をさせいただきたいのです」と、プレゼント攻勢をかけみたが、
「まぁ、そんな、贈り物だなんて!いつも一緒にいていただけるだけで十分ですわ」と、あっさり返されてしまった。
ホスト効果がまったく効かない相手、それがノアであった。
◇
お読みいただきどうもありがとうございます!
「いいね!」「好き!」と思ってくれた方は、
☆☆☆☆☆ → ★★★★★
皆様のブックマーク、評価は作者のモチベの元☆
勇気を出して(^^)/~ ぽっちとよろしくお願いいたします!




