13 給仕たちの水面下のたたかい
「うおっぉ!うまそうだな!オレ様、こんなぜーたくな飯たべたことないぜ」
「ビーナス様はお金がお好きですけれど、貧乏でしたものね…」
遠い目をして、出会った頃を懐かしむ。あの頃は、馬車に轢かれ、轢かれかっかたりさんざんであったが、今は寄合馬車くらいなら乗れるまでになった。徒歩の頃がなつかしい。
じーんとひたっていると、
「さぁどうぞ、ノア様の分もおとりしました」
できる男、ジンである。そつなく、夢魔、ビーナスにも、従業員から受け取った前菜が盛り合された盆から、小鉢をとりわけて、それぞれの前に置く。
「では、いただきましょうか!」
全員で、「いったっだきま~す」と合唱し、見た目にも華やかなエビの蒸し物、野菜のお浸し、一口寿司をいただく。
「うっまっ~い!」
ビーナス様はエビをもぐもぐごっくんして、感動に打ち震え、
『よいのぅ』
夢魔は野菜へ、だしが染みたおひたしをくちばしでついばみ、目をぱちぱちし、しばし瞑目した。
「ああ、ノア様といっしょに食べられるしあわせ…」
ジンにとっては、お客たちとご相伴することが多く、ノアと食卓をかこむことはないため、食べることより、ノアがおいしそうに食べている方が、実のところごちそうであった。
目があうと、おいしそうに頬張っているノアとふたりで、ほんのり笑いあった。
給仕係は争奪戦となった。今晩の宿に選んでいただき…とあいさつに女将が現れたかと思うと、すぐさま前菜を運んできた小太りな女性、次には、煮物の小鉢を運んできたのはジンに秋波をおくる髪のうつくしい女性、鮮魚のお造りを並べる時にきた給仕は、こっそりフクロウに触れ、童顔の女性は黒猫ににっこりし…と、次から次へと給仕係は人が変わっていった。
それを、なんともいえない顔でビーナス様はながめつつも、かわいい!とほめられるとまんざらでもなく、な~ご、と愛嬌をふるまっていた。
でれでれである。
季節の野菜と白身魚の天ぷらを食し、きのこの炊き込みご飯とお吸い物をすすっていると、貸し切り湯のご案内が来た。
季節の果物は柿で、すべて、食べ終わると、貸し切り湯のある棟にぞろぞろと移動する。
「さて、誰からはいったものか…」
ジンはこの4名のうち、同じ性別?とみなしてよいものたちはだれかと見渡した。
夢魔、ビーナス(たぶんおとこ?)、ノア様と順番にながめて、
「ノア様、お先にどうぞ」
と声をかけた。
「あら、わたくしは最後でかまいませんことよ。みなさまの慰労会をかねておりますもの。すこしお庭を散策してまいりますわ!」
「よし、オレ様は一番風呂がいい!夢魔のおっさんはおれの次な!」
颯爽と、風呂場に姿を消すビーナス、夢魔はノアの肩に乗ると、一緒にいこうと、首をくるんと回した。
「では、わたくしはお腹をこなれさせてまいりますわね。ジン様はごゆっくりお入りくださいませ」
にっこり笑ったノアはいつも気をはった女経営者の顔ではなく、年相応の気の抜けたえほほえみで、ゆったりと歩き去った。
…オレは、猫といっしょか。
ぜったいだめ!に分類したノアが去ってしまうと、なんとなく、わびしい気持ちがするジンであった。
◇
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