12 ノア、従業員をいたわる
「みて~!なんて素敵なお宿かしら!わたくし、こんな贅沢はじめてですわ~」
ノアは事業拡大のための視察と称して、古風な街並みの残る山間の温泉地に来ていた。
ここならイケる!
日本の木造建築に似た古風な三階建ての宿が渓流沿いに点在する。紅葉した木々が山を色づかせている。さらさらと流れる川の音はノスタルジックで、日本人の魂に響く仕様だ。そう、ここは、純和風な趣をもった地域で、あまり知られていないが、癒しを求める旅行客にはひそかに人気だとか…。
この世界に来た異世界人たちは実は結構いるのでは?とひそかにノアは感じている。ここはあまりにも純和風だからだ。
しばし、郷愁にひたっていたノアは、しかし、ビジネスとなる燃える質であった。
ノアの心の中では、数字が弾かれている。
ノアの住む住居兼、テナントは『フクロウの館』と呼ばれていた。
この本拠地では、ジンの神がかった美しさにメロメロになったご婦人のみならず、その娘や孫、さらにはおばあ様までと幅広く客層をゲットしてきた。そんななか、新たな事業展開を求め、この秘境を訪れたのだ。
いわゆる「癒しツアー」なるものを企画しようというのだ。
街での暮らしに飽きているご婦人たちをお誘いして、お宿をまるまる貸し切り、旅行をたのしんでもらいつつ、「夢魔様とジン様の癒しと麗しいさをセットで喜んでいただこう」という作戦である。
この時、黒猫のビーナス様はおまけである。ビーナス様についていた大悪党は、夢魔によってほぼ無効化されており、たんなる猫ちゃんとして、愛されていた。
ノアのシナリオでは、一に、夢魔様ですっきり→二に、ジン様で気分をあげ→三に、ビーナス様の和みで締める。という三段構造は鉄壁であった。これを、この温泉地で再現できないか、案を練るために実際にお宿へやってきたのである。
「夢魔様、この止まり木なんて、ぴったりではありませんか?わたくしが、お客様をこちらにご案内するまで、こちらの止まり木でゆったりお待ちいただいて、お客様をおむかえしていただくのですわ。ああ、それから、ジン様は特別室の高座にお座りいただいて、ちょっと薄暗い感じに、そうそう、あかりは控えめなほうが神秘的にみえますわ~」
お宿の中を探検しつつ、二人と二匹はぞろぞろと館内を移動していく。
『ノアは働き者じゃな。ビーナスよ。見習え』
「うぇ、それはいっちゃあいけねぇよ!オレ様は貧乏神だぜ!お金をまきあげるのが得意なんだよ!それを、それおおおお、おやっさんが全部すいとっちまうんだああああ」
黒猫がごろごろと廊下を右に左に転がる。背中がかゆいのをこっすているようにしか見えない。
「まぁ、そんなに、悲しまないで~。わたくしは貧乏ですわ!だって、すべて、投資にまわしてしまうんですもの!ですから、ビーナス様にお支払いできるのは、わたくしからの言葉のサービスだけですわ!」
ノアは胸をはって、こたえた。
「そこは、威張るところなのか…」
ジンはお忍びなので、いつもの神官服は着ていない。木綿のシャツにゆったりとしたズボン、着崩しているのがなんとも彼らしい。温泉宿にはお客がちらほらと来ているが、ジンはちょっと浮いていた。なんせ、肩にフクロウを乗せている。
「ジン様はわたくしの商売繁盛のカナメですもの!うんと、お食事をお召し上がりいただいて、温泉でゆっくりしてくださいませ」
「あ、ああ。どうもありがとうございます?」
ジンはノアの下僕である自覚があるため、こうして、ノアから優しくされると無性にむずがゆくなる。ほんのりと染まった頬がなんともなまめかしい。
「ああ、やだやだ。年中、盛りやがって!」
『ふぉふぉおふぉっ。若いというのはよいのう』
この奇妙な組み合わせを遠巻きにちらちらと見ている従業員は、手元の布巾を落としたり、用事を忘れたり、あとで、館長にこっぴどくしかられたのは、ご愛敬た。館長も実はこっそり眺めており、従業員からの情報源に実のところとても満足気であったとかなかったとか…。
◇
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