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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第84話 あの子に近付かないで

ルーリが目を覚ましたのは次の日の朝だった。

「これは…マヤリィ様からのお手紙…!?」

いえ、単なるメモですが。

【目が覚めたらどこにも行かないで私に念話を送って頂戴。 マヤリィ】

「マヤリィ様の直筆…!なんてお美しい…!」

ルーリはひとしきりマヤリィの美文字に見とれた後、昨日の出来事を思い出した。

「そうだ…私はジェイに刺されて…。あの後どうなったんだ?…マヤリィ様が私をここまで運んで下さったのか……」

マヤリィのメモが枕元に置かれていたということはそういうことだろう。

「早く念話を送らなくては…!」

ルーリは自分の身体も確かめず、マヤリィに念話を送った。

《こちらルーリにございます。マヤリィ様、昨日はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした》

あの後何があったか分からないので、ルーリはそう挨拶するしかない。

《こちらマヤリィ。意識が戻ったのね。…すぐに貴女の部屋へ行くわ。いいわね?》

《はっ!》

まもなくマヤリィが現れ、ルーリの姿を見るなり抱きついた。

「ルーリ…!よかった…!」

「マヤリィ様…!」

ジェイを問い詰めることはしなかったものの、ルーリがいつ目覚めるのかと心配していたマヤリィ。

「話は全て聞いたけれど、貴女は昨日のことを覚えているかしら?」

「はっ。私は貴女様とタンザナイトに謝らなければなりません…」

「それはいいとして…貴女、ジェイに刺されたのよ?」

「はっ。覚えております」

その時、ようやくルーリは自分の身体を確かめた。

「っ…。私は確かに喉を刺されたはずなのに…」

痛みはない。傷も塞がっている。

「『全回復』をかけたわけじゃないわ。元々そういう魔術だったのよ」

「畏れながら、マヤリィ様。あの後、一体何があったのでしょうか?私はジェイに刺された後の記憶がないのです」

「当然ね。貴女は『能力没収』魔術をかけられたのだから」

「えっ……」

それを聞いたルーリは、あの時のジェイの魔力が異常なまでに高まっていたことを思い出す。

「能力没収…ということは、私は特殊能力を取り上げられたのですね…」

ルーリも『能力強奪』関連の魔術に関しては前作で散々調べたので、能力没収魔術の存在も知っている。強奪とは違い『魔術適性』ではなく『特殊能力』に対してのみ有効な禁術だ。

「つまり、今の私は『魅惑』が使えない…」

「ええ。そういうことになるわね」

マヤリィは冷静に頷くが、ルーリは冷静ではいられない。

「私はこれからどうしたら良いのでしょう?…いえ、それよりも、タンザナイトは無事にございますか?」

あの時の光景をタンザナイトがどんな気持ちで見ていただろうかと思うと、ルーリは申し訳ない気持ちになる。

「ええ、ナイトに怪我はないわ。心配しないで頂戴」

「よかったです…。されど、昨日のことを謝らなくてはなりません。今からタンザナイトに会わせて頂けますでしょうか?」

ひとまず安心するルーリだが、すぐに昨日のナイトの言葉を思い出す。

『「ルーリ様にご迷惑をおかけしたとなれば、僕が女王様に怒られます。今日の話はなかったことにして下さい」』。

彼女がそう言って部屋を出て行こうとしたことを思い出す。

「私は…タンザナイトの願いを聞くと言っておきながら躊躇ってしまいました。どうか、彼女に会わせて下さいませ。直接謝りたいのです」

しかし、マヤリィは首を横に振った。

「悪いけれど、それは出来ないわ。いくらあの子でも、昨日の衝撃的な出来事を目の当たりにして傷付いているの。しばらくはそっとしておいて頂戴」

「マヤリィ様…!」

「貴女も知っている通り、ナイトは負の感情を感じてもすぐに気持ちを切り替えられるように設計したホムンクルスよ。それでも、傷付く時だってあるの」

と言いつつ、実際は昨日の記憶を『完全消去』した為、そう簡単に会わせるわけにはいかないという事情がある。

「マヤリィ様…。せめて『念話』だけでもお許し頂けませんか…?」

ルーリはマヤリィの言葉を疑うことなく、必死に訴えかける。

「駄目よ、ルーリ。許さないわ」

「マヤリィ様ぁ…」

「貴女の頼みだからといって何でも聞いてあげられるわけじゃないの。私が許可するまで、ナイトには近付かないで頂戴。…いいわね?」

マヤリィに厳しい眼差しを向けられ、

「はっ!畏まりました、マヤリィ様…」

ルーリはそう答えるより他なかった。

「…貴女の『魅惑』に関してはジェイと相談するしかないわね。ジェイは貴女の特殊能力を『風刃』というアイテムに封じ込めて、それをどこかに隠したらしいのよ」

「…そうでございましたか」

ルーリはそう答えるが、今は自分のことよりタンザナイトが気になって仕方ない。

「畏れながら、マヤリィ様。一つだけお聞かせ下さいませ。タンザナイトの髪は……」

そう言いかけてルーリは黙った。マヤリィの眼差しは氷のように冷たい。

「あの状況で切れるわけないでしょう?今もそのままよ。本人も、今は考える余裕なんてないみたいだし…」

マヤリィはそう言うと、

「とにかく、貴女もこんな状態なのだし大人しくしていて頂戴。…ジェイはまだ怒っているわ」

「っ…」

あの時、感じた魔力を覚えている。

ジェイが解き放った膨大な魔力を覚えている。

「畏れながら、マヤリィ様。ジェイは…私よりも強い魔力を持っているのではないでしょうか…?」

これが事実なら恐ろしい話である。ジェイの魔力なんてたかが知れていると思っていたのに、本当はマヤリィに次ぐ実力を秘めているかもしれないのだ。

…ルーリさん、そんな風に思ってたの?

「もしかしたら、タンザナイトよりも……」

しかし、マヤリィはルーリの言葉を全否定する。

「何を言っているの?そんなわけないでしょう?貴女やタンザナイトに勝つことが出来るとしたら、この私しかいないわ」

「そ、そうでございますよね……」

(では、昨日のあれは何だったのだろう…?)

ルーリはジェイが『風刃』を顕現させた時のことを思い出そうとする。

が、マヤリィはそれを中断させた。

もう一度ルーリを抱きしめ、優しい声でささやきかけたのだ。

「私の大切なルーリ。昨日は色々あったけれど、もう心配しないで頂戴。タンザナイトのことも、魅惑のことも、いずれ元通りになるわ」

マヤリィはそう言って微笑むと、ルーリの唇に甘く激しいキスをした。

(マヤリィ様……!!)

ルーリは身体が熱くなるのを感じたが、その後で思い知らされる。

禁術をかけられた自分は、魅惑魔法だけでなくそれに付随する『夢魔変化』も発動することが出来ないのだ…。

タンザナイトに謝りたいというルーリに対し、会うことも念話することも許さないマヤリィ。

何も言わないだけで、マヤリィもナイトの願いを聞いてくれなかったことに関してはかなり怒っています。


夢魔固有の特殊能力を取り上げられたルーリは、当然のことながら魅惑も夢魔変化も出来ません。

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