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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第83話 隠された力

「母上様…?」

「目が覚めたのね、ナイト」

「はい。僕は何をしていたのでしょう…?」

『完全消去』魔術をかけられたタンザナイトは一時的に意識を失い、目を覚ました時には自分の部屋にいた。

「母上様がこちらにいらっしゃるということは、僕は『念話』にも気付かず眠っていたのですね…」

そう言ってベッドから起き上がったタンザナイトをマヤリィは優しく抱きしめる。

「ナイト、無理はしないで頂戴。貴女はきっと疲れているのよ」

相変わらず嘘が上手なマヤリィ様。

「魔術書の解析はほどほどにして、今日はゆっくり過ごしなさい。…私のお願い、聞いてくれる?」

「はっ。畏まりました、母上様。ご心配をおかけして申し訳ありません」

タンザナイトは何も疑うことなく、マヤリィの言葉に頷くのだった。


次に向かったのはルーリの部屋。

第7会議室で倒れていたルーリを部屋まで連れてきてベッドに寝かせたのだ。

「ルーリ…。目を開けて頂戴…」

こちらはマヤリィがかけた禁術で意識を失っているわけではないので、いつ目覚めるか分からない。

「貴女、本当はナイトの髪を切りたくないのね…。もしかしたら私の髪も…切りたくなかったのよね…」

微動だにせず横たわっているルーリの傍らで、マヤリィは頭を抱える。

「私はナイトの願いを聞いてあげたかっただけなのに…どうしてこんなことになってしまったの…?」

あれから、まだジェイには会っていない。

「…そろそろ、話を聞かなければならないわね」

しばらくルーリの顔を見つめていたマヤリィはそう呟いて立ち上がると、枕元にメモを残して『転移』した。


「ここにいたのね、ジェイ」

「はい。貴女を待っていましたよ、姫」

玉座の間でマヤリィとジェイは顔を合わせた。

「タンザナイトは大丈夫ですか?」

「あの子につらい思いをさせておいてよくそんなことが言えるわね」

「すみません…。タンザナイトには悪いことをしたと思っています。後で謝りに行きますよ」

「その必要はないわ」

「えっ…」

「ナイトには『完全消去』魔術をかけたの。今のあの子は、今日ルーリに髪を切ってもらおうとしたことも、貴方がルーリを傷付けて能力を取り上げたことも、何一つ覚えていない」

そこまで話すと、マヤリィは手を出した。

「ルーリの能力を封じ込めたアイテムを渡しなさい。彼女はまだ目覚めないけれど、私が預かっておくわ」

「…姫。申し訳ないですがそれは出来ません」

ジェイは言う。

「僕はどうしてもルーリが許せないんです。第7会議室に向かっていた時は、貴女が言った通りにするつもりでいました。でも…」

あの時、気の進まない仕事をルーリにやらせたくないけれどナイトの願いは叶えてあげたい、というマヤリィの思いを汲んで第7会議室に向かったジェイ。

しかし、ドアを開ける前に二人の会話が聞こえてきたので、思わず立ち聞きしてしまった。


「切りたくない。マヤリィ様の御髪を切るのだって、本当は悲しい」

「その話、僕に聞かせて良いんですか?」

「聞き流してくれ。私は…マヤリィ様の美しい御髪が本当は大好きなんだ」

「女王様はベリーショートがお好みのようですけど」

「ああ。知ってる。だから、私はあの御方の御髪をお切りするんだ」

「でも、本当は気が進まないんですか?」

「ああ。そうらしい。…だが、この話はマヤリィ様にしないでくれ。お前もあの御方の境遇については理解しているだろう?」

「はい。全て伺ってます」

「それならいい。今の話は忘れろ」

「畏まりました、ルーリ様。…で、結局僕の髪は切ってくれないんですか?」

「切らなかったら…マヤリィ様に怒られる」

「では、怒られて下さい。…これからどうしようかな…。シロマ様にお願いしたら、僕の髪も丸刈りにして下さるだろうか…」

「ちょっと待て」

「ルーリ様、いかがなさいましたか?…これから僕はシロマ様の所へ行ってきます。女王様からは好きな髪型にするよう言われておりますので、ご心配なく」

「いや、行かないでくれ。お前の好きなように切るから…行かないでくれ」

「でも、気が進まないんですよね?」

「そんなことはない」

「ルーリ様にご迷惑をおかけしたとなれば、僕が女王様に怒られます。今日の話はなかったことにして下さい」


そこまで聞いてから、ジェイはドアを開けたのだ。

「今日という今日は許せなかった。ルーリは貴女の境遇を知っていながら、タンザナイトに諦めさせたんですよ?だから僕は…ルーリの大切なものを取り上げたんです」

ジェイは言う。

「…姫。『風の禁術書』ってご存知ですか?」

「読んだことはないけれど、今日貴方が使った禁術が載っていたのね?」

「はい。それを読んだ僕は、風の魔力によって顕現させた風刃を使って『能力没収』魔術を発動する方法を知りました」

ジェイはそう言って『流転の指環』を見せる。羅針盤や杖と違い、そのマジックアイテムは常にジェイの指に嵌められている。

「…貴方、本当はルーリの魔力なんて怖くないんでしょう?」

マヤリィは聞く。

「なぜかは知らないけれど、貴方は自分の実力を隠している。今日みたいに容易く禁術を発動出来る力を持ちながら、いざ実戦訓練となると怖がるふりをする。…私が気付いていないとでも思っていたの?」

「はは…貴女に隠し事は出来ませんね」

ジェイは悪びれることなく答える。

「はい、隠しています。と答えておきますね。…貴女にだから言いますが『流転の國のNo.2』はこの僕だと自負しています」

「ええ、私もそう思ってるわ」

「姫も大概ですよね。ルーリの『呪い』が解けないなんて嘘、僕が気付いていないとでも思っていましたか?」

「ふふ…何でもお見通しってことね、ジェイ」

マヤリィはそこまで聞くとジェイを抱きしめた。

「それなのに、私の嘘に付き合ってくれていたのね。…貴方、嘘はつけないんじゃなかったの?」

「姫に対しては今も本当のことしか言えません。でも、貴女の為ならたとえ流転の國の仲間であろうと欺きますよ」

「あら、そう。それは心強いわね、ジェイ」

他の皆が見れば今日のジェイは別人のように映るだろうが、マヤリィから見ればいつものジェイみたいだ。

「…ところで、そろそろ話の続きを聞かせて頂戴。貴方がルーリから『魅惑』を取り上げたのは、私のせいなのよね?」

「いえ、全部ルーリが悪いんですよ。ルーリは貴女の境遇を知っていながら、貴女を裏切るような真似をしたのですから」

ジェイはあくまで『風刃』を渡そうとはしない。

「本当は『能力強奪』を使っても良かったんですが…。それをしなかった僕は優しいですよね?」

能力強奪を使ってしまえば、その能力は二度と元の持ち主に戻らない。

「ええ、凄く優しいと思うわ」

自分に対してもこんな調子で話すのを聞いて、マヤリィはジェイが本当に怒っていることが分かった。

だから、今日はもう何も言わない。何も聞かない。責めることもしない。

(私の為に怒ってくれた、って解釈でいいのよね?)

マヤリィはそう思うと悪い気はしなかった。

さっきまでの悲壮感はどこへ…?

「…ねぇ、ジェイ?タンザナイトは自分の部屋で休んでいるし、ルーリはまだしばらく目を覚まさないでしょうし、頼んでいた氷系統魔術の本を見せてもらってもいいかしら?」

「分かりました、姫。色々と見つけてきましたよ」

その瞬間、ジェイは今日の出来事を忘れたかのように微笑んだ。

「…では、早速見せてもらうことにするわ。リッカ殿にも読んでもらいたいから」

マヤリィはそう言うとジェイの手を取り、彼の部屋への『転移』を促すのだった。

やり方はともかく、ルーリ自身が『魅惑』を封印しようかと悩んでいたことも事実なので、マヤリィはジェイが『能力没収』魔術を発動したことに対してこれ以上訊ねることはしませんでした。

何より、ジェイが私の為にここまで怒ってくれた、というのが嬉しいマヤリィ様です。

…今回は二人して結構酷いこと言ってる。


因みにジェイは最初から魔力値が高かったわけではなく、密かに努力を重ねた結果、ルーリも驚くほどの実力を手に入れました。

流転の國の仲間に対してもそれを明かさず、強大な魔力を『流転の指環』の中に隠し続けるジェイ。

全ては愛する姫を守る為です。

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